かんたんだから、失敗はないというのは誤解

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体にメスを入れることなく、ヒアルロン酸などを注射針で注入する「非手術」美容治療。

一般的に「プチ整形」などと呼ばれ、「鼻を高くしたい」「シワやたるみをなくしたい」といった希望を手軽にかなえられると人気が出たものだ。「プチ」という言葉から、かんたんで手軽な印象をもたれている。

しかし、「手軽」イコール「リスクがない」ということではない。言葉の影に潜む危険を指摘する医師の声もある。

鼻の付け根に注射して失明!

2016年6月11日付の朝日新聞に、「鼻の"プチ整形"を受けた女性が、失明や皮膚の壊死といった重篤なトラブルに見舞われた」という記事が掲載された。

記事によるとこの女性は2014年、美容クリニックで鼻の付け根の骨膜付近に注入剤を注射された直後に、ふらつきと右目の異常を訴えて病院に搬送された。翌日、「右目は光を感じなくなり、右眉から鼻にかけての皮膚が壊死した」という。

トラブルの原因について、東京港区で形成外科および美容外科、美容皮膚科の治療を行っているみやた形成外科院長の宮田成章医師は、「注入部位や、医師の手技などの問題が大きい。注入剤は血管の中に入ったり、大量注入により静脈を圧迫したりして血行の障害を起こし、皮膚が腐ったり、最悪、眼球に栄養を運ぶ血管まで詰まって失明することもあります」と説明する。

こうした注入剤によるトラブルは過去にも報告されており、宮田医師によると、「ヒアルロン酸による報告事例が多いが、ハイドロキシアパタイトも最近は増えている」という。

ハイドロキシアパタイトとは歯の主成分と同じで、美容治療で使用されるのは「レディエッセ」というジェル状の製剤だ。ヒアルロン酸と比べて粒子が大きく、硬めで持ちがよいというメリットがあり、ほうれい線を目立たなくしたり、鼻を高くしたりする治療に用いられることが多い。今回、朝日新聞で報道されたトラブルで失明した女性に使われたものも、この注入剤と見られる。

手軽に見えても「熟練」が必要

鼻を高くする治療には、鼻にメスを入れ、プロテーゼという医療用のシリコンを挿入する手術を行う方法もある。これに対し、ヒアルロン酸やハイドロキシアパタイトなどの注入剤を注射する「非手術」の治療法は、比較的「手軽でかんたん」と思われがちだ。そのために、神経や血管など皮下組織の知識や手術経験の乏しい医師が治療にあたることも少なくない。

宮田医師は「血管の豊富な顔面に薬剤を注入するということは、レーザーを照射する治療とは全く違い、外科的な知識と技術の両方が必要です」と指摘する。

「顔面に分布する血管を理解しなくてはならないのですが、実際、美容治療では血管を見る機会は少ない。手術などで幾度となく血管を見ている形成外科専門医はともかく、注入に関わる医師が解剖を学んでおくのは重要なことです」と宮田医師。手軽に見えても、医療行為はリスクをともなう。美容医療に携わる医師には「熟練」の技が求められる。

一方、患者の側も「手軽」という言葉にまどわされず、「"プチ整形"だと思っても、リスクを伴う医療行為」ということを十分に理解することが大切だ。

2016年6月に行われた「日本抗加齢医学会総会」のシンポジウムでは、最近、美容医療の分野で増えている「非手術」治療の実情について話し合われた。講演を行った湘南鎌倉総合病院形成外科・美容外科の山下理絵医師は、ヒアルロン酸やボトックス注入によるトラブルの事例を挙げ、「非手術の美容治療は手軽ですが、無条件に安全なわけではありません。リスクを理解し、やりすぎないことが重要」と注意を促した。

宮田医師も、「(解剖知識のある)専門医だからトラブルを起こさないということではありません。どんなに高名な医師でも偶然が重なることもある。低い確率であっても、リスクは生じ得ます」と言う。

美容医療は魔法ではない。「注射一本で、手軽に鼻筋の通った美人になれる」「化粧感覚でできる」などというのは幻想だ。注入の治療を受ける場合は、医師に形成外科専門あるいは解剖の知識があるかどうかを確認すること。そして、「せっかく治療を受ける決心をしたのに、水を差されたくない」という気持ちはわかるが、デメリットもきちんと説明してくれるクリニックを選ぼう。

(Aging Style)