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人と協働して人手不足を解消するロボット「コ・ロボット」が注目されている。東京都・江東区にある「ライフロボティクス」は、"肘のない伸縮アーム"によるシンプルな動作が特徴のコ・ロボット「CORO」を開発・販売するベンチャー企業だ。同社の代表取締役・尹祐根(ゆん うぐん)氏は、ロボットアームの世界的第一人者であり、経済産業省管轄の国内最大規模の公的機関である「産業技術総合研究所」(産総研)の主任研究員という顔も併せ持っている。今回は同社の起業に至った経緯や目指すもの、COROの特徴や役割などについてお話を伺った。

○ロボット技術で日本の衰退を止めるべく起業

――どのような経緯で起業されたのでしょうか?

日本は将来、65歳以上の高齢者の比率が増加し、15〜64歳の働ける人が不足することは間違いありません。「外国人労働者」を雇えばいいじゃないかという話もありますが、彼らはあくまでも「稼ぐため」に来るのであって、デフレが続く現在の日本の状況では稼ぐことが難しいです。そうなると、人手不足による日本の衰退を止めるには、足りない労働力をロボットで補うしかないのです。私は20年もの間、東北大学や産総研でロボットを研究してきたのですが、そこで発明・開発してきた技術がこの問題を解決できるロボットにつながると確信したのです。産総研と言えば研究者にとっては"上がり"のポジションであるため、地位や名誉も保つことができますが、「このままでは国が衰退し、先進国から凋落してしまう」という危惧した感じた私は、こうした状況の中で「このまま研究だけをしていていいのか?」という疑念を抱くとともに、「私のロボット技術があれば日本を支えることができるかもしれない」という思いがつのり、ビジネスを起こすという決断に至ったわけです。

――"「労働人員の不足」を解消するのなら、完全にロボットに任せれば良い"という論調もあると思いますが、貴社のCOROは「協働ロボット」です。人と一緒に働かせるメリットとは何でしょう?

今のロボットは基本的に安全柵に囲まれ、人と隔離されて動いています。なぜなら、ロボットが人を死傷させてしまった過去があるからです。人と隔離されたロボットは自動車メーカーなど数多くの工場で利用されていますが、まだロボットによる自動化が進んでいないところでは、そもそも従来のロボットが適さないのです。それならばどのようなロボットが適しているのかと言えば、協働ロボットなのです。特にCOROは、協働ロボットとして新しく発明されたロボットです。

―― なるほど。つまり従来のロボットが利用できないような工場に向けて作られているわけですね。

安全柵の中で動くロボットや他の協働ロボットとCOROを比較して頂けるとわかりやすいかと思います。人の腕のように「肘」があるロボットには3つの欠点があります。1つ目は、肘は鋭角なので、もしも人にぶつかった場合に大きな怪我に繋がりやすいということ、2つ目は広いスペースで使うように設計されているため、狭いところでは危険であること。そして3つ目がロボットの「動き」が複雑なので、一般の作業員にはわかりづらいのです。つまり、「プロユース」であることが、普及が進まない理由の1つとなっているのです。

人手不足で困っている現場はプロではなく、そもそもロボットについてよく知らない人たちなんですよね。やはり、そのような人たちでも使える「家電」のようなロボットが求められているのです。それらの問題をすべて解決したロボットがCOROなのです。肘の代わりにトランスパンダーという伸縮する機構を採用したことなどにより安全柵が不要となり、狭いところでも導入可能で、素人が見ても動きが簡単にわかるようになっています。そのため、見た目は派手ではありませんが、現場で働く人から可愛がられ、親しまれるには、これぐらい地味であることが大切です。

○コ・ロボットが入り込む余地は予想以上に多い

―― 「実はロボットが入っていない」のはどんな業界でしょうか?

食品工場や化粧品ライン、物流などの分野のほかに、自動車や電子デバイスなどの分野からのニーズもあります。なぜなら、従来のロボットが入る現場ではすでにほとんどが導入済みなのです。導入していないのは従来のロボットが入らないためなのですが、COROはそのような環境の現場でも利用できるように作られています。

―― COROが得意とする環境は、業界を問わず「人の側」「狭い場所」ということですね。

はい。吉野屋やロイヤル、トヨタ自動車、オムロンなどの企業がCOROを購入しています。COROは従来のロボットが入れないような場所がターゲットなのですが、こうした所ではほとんどの作業を人が行っています。大勢のパートや外国人労働者が行っているのですが、それも今では人手が足りなくなってきていて、ニーズは高いのです。自動車や電子デバイスなどの分野では既に自動化が進んでいると予想していたので、COROのニーズはないと予想していましたが、フタを開けてみるとこうした企業からの問い合わせも相次ぎ、予想以上にCOROが活躍できる現場が多かったのです。ほぼすべての業界からニーズがあったことは、我々の予想を良い意味で裏切りました。

○「CORO」はUFOキャッチャーのような簡単操作

―― 先ほどお話に出た、トランスパンダーの機構について、もう少し詳しくお教え頂けますか?

トランスパンダーについては「特許のかたまり」ですので、残念ながら何もお話しできません。トランスパンダ―を中心にCOROには100件以上の知財が詰まっていますから。

―― では、もう1つの特徴であるティーチング用ソフトウェアについてお話し頂けますか?

COROの基本概念は、"UFOキャッチャー"のように簡単に扱えるロボットです。ゲームコントローラーのようなリモコンのボタンを押すだけで操作できますし、高い精度を要する作業は数値入力による調整も可能です。

―― Webサイトに書かれている 「導入先からのフィードバックと最新エルゴノミクスにより随時改良される」という点について説明いただけないでしょうか。

一度提供したソフトウェアを永続的に販売するのではなく、随時バージョンアップをして、常に新しいティーチング環境(ソフトウェア)を提供するというものです。

―― インターフェースを簡単なものにしても、バージョンアップすることで再び操作を覚え直す必要が出てくるのではないでしょうか?

そうならないように作っていきます。例えば、携帯ゲームなどは新しいものが出ても操作は似てますよね。でも良くなっています。そのように、ユーザーに違和感なく新しい世界を繋げていきます。

―― つまり、バージョンアップすることでCOROの機能が向上するということでしょうか?

ソフトウェアがバージョンアップするのです。具体的にはまだ言えないのですが…。従来の産業ロボットって、ソフトウェアがバージョンアップして良くなっていくことはなく、購入した状態から良くなるということはありません。イメージとしては「テスラ」の自動車に近いといえるのではないでしょうか。

―― なるほど。ソフトウェア中心のプロダクトになっているわけですね。

はい。お客さまからはそのように見えてきます。すでにお客さまからティーチングソフトウェアのアップデートに必要なデータや、ロボットの改良に必要なデータを頂くなどしています。

○気にならないデザインの中に、存在感のあるカラーリング

―― では、「CORO」というネーミングの由来についてお教え頂けますか?

「協働ロボット」、つまりコラボレーティブ・ロボット(Collaborative Robots)の頭を取っています。COROは安全柵に囲まれたライオンのような危険なものではなく、人なつっこい動物というイメージなのです。「コロ」っていう名前って犬っぽいじゃないですか。ペットだと安全柵から出しても怖くないのです。

―― デザインが他の産業用ロボットと比べて丸みをおびている印象なのですが。

はい、その辺りも意識してデザインされています。従来のロボットのように「危険」「近づくな」というものではなく、人の側でも違和感なく協働しながらも、ある程度の存在感も必要なのです。デザイナーには「無印良品の家電」や「北欧の家具」のようなイメージを伝えました。長く使っても飽きず、親近感も覚えるデザインになっています。まさに、人と家電との関係ですね。白一色ではなく黒い部分もあるのは、ある程度の存在感を出すためです。

○人生をロボット技術で支えたい

――「ライフロボティクス」という社名には、どのような意味が込められているのでしょう?

ライフロボティクスは「人生をロボット技術で支える」イメージです。私は決して「人に取って代わる自動化」を進めたいのではなく、あくまでも「人を支える技術」を提供しているのです。ロボットは「人が豊かになるための道具」ですので、人の人生をロボット技術で支えるイメージの社名にしました。企業ロゴは地球をイメージした丸いデザイン

―― ロゴとCOROのアクセントカラーが同じ緑色ですね。

そうです。カンパニーカラーが緑色です。

―― 上品な緑色ですが、この色が選ばれた理由は何かありますか?

「人を支える技術であり続けたい」会社であり、警告しているわけではないので寒色にしたくない。だからといってロボットはぬいぐるみではないので、柔らかい色ともちょっと違うということで、デザイナーと一緒に選びました。ロボットメーカーで緑色をカンパニーカラーにしているところは他にありません。

―― では、今後のCOROの製品戦略やビジョンについてお聞かせ下さい。

今はロボットメーカーでしか見られていませんが、人手不足という言葉を日本から無くす志のもと、人口が減少していく日本を支える基幹産業を作ることが目標です。では、COROを出せば日本を支えられるかと問われればそんなことはなく、足りないパーツ・技術が多くあります。具体的に何かというのはまだ言えませんが、その辺をこれから補っていこうとしています。我々は単なるロボットのハードウェアメーカーではなくソフトにも力を入れています。人を支えていく技術で良いものがあればそれを使い、世の中にまだないものは新たに作っていきます。マーケットは日本だけではないので、我々の技術で日本を今後20年支えることができれば、今度は高齢化によって人口が減っていく諸外国に技術を提供して支えていきたいと考えています。

―― COROが人を支えていくという未来はどのようなイメージでしょうか?

「COROがロボットと呼ばれなくなっている世界」ですね。ロボットという単語はまだ特別なのです。今の「パソコン」のように、COROを使っていることが当たり前の世界ではCOROは単なる道具になっていて「ロボット」と呼ばれなくなりますよね。多くの人が最先端技術を違和感なく、当たり前のように使えるようになり、それによって日本の人手不足を解消するとともに、世界にも貢献する。それが理想の未来像です。

―― ありがとうございました。

(早川厚志)