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●UberやLyftが誕生したきっかけ
シリコンバレーのテクノロジー企業が共通して関心を寄せているのが、自動車に関する技術だ。自動運転と並んで、タクシー配車アプリ、ライドシェアリングアプリが注目を集めており、「新しい街の交通システム」を担う可能性が試されている。

その中でも最も活発に活動しているのがグーグルだ。グーグルは独自のタクシー配車アプリを準備していると言われているが、その一方でUberへの投資を行っている。またアップルは中国の滴滴出行に出資しており、ソフトバンクもインドOLAへの投資を行っている。楽天はUberの競合となるLyftに出資している。

テック企業の投資の狙いは何か。そしてテック企業が作り出す「移動の未来」とはどのような姿になるのだろうか。

○不況とモバイルとのマリアージュ

UberやLyftは、「ライドシェアリングアプリ」に分類される。厳密にはタクシー配車アプリではない。ライドシェアとは、営業運転を行うタクシーと異なり、自家用車の相乗りのためのマッチングを行うためのサービスだ。

車を運転している人と、近辺で移動したい人をリアルタイムでマッチングさせる仕組み、アプリ内で支払いを済ませられる決済システム、顧客やドライバーを相互評価する仕組みが用意されている。

これは、スマートフォンが普及した世界でのみ、成立するシステムだったと言える。ドライバーとユーザーの位置をGPSで共有しており、乗りたい人が現れた際、近辺のドライバーに通知して、リクエストに応えられる人を見つける。

そして、ドライバーを客のところまで誘導している間に、顧客は目的地を地図で設定し、ドライバーのアプリのナビを自動的に設定する。目的地まで到着すれば、顧客は車を降りるだけだ。あらかじめ設定してあるクレジットカード、もしくはApple Payなどのモバイル決済で、支払いを済ませることができる。

手が空いている車とドライバーを、移動したい人とマッチングさせる、街の遊休資源の有効活用のアイデア。裏を返せば、車を持っている失業者がいなければドライバーのなり手がいなかったわけで、2008年のリセッション以降の「不況ビジネス」の1つと位置付けることもできよう。時を同じくして、スマートフォンの普及と技術的な向上が起こり、スマホの普及と活用の深化によって実現している。

●グーグルやアップルは何を目指すのか
○アップルは中国投資をアピールするため?

テクノロジー企業がライドシェアリングアプリに投資している理由は、それぞれだ。最も意図を汲みやすいのは、アップルによる中国・滴滴出行への投資だ。アップルは、中国政府・当局との関係を良好に保ちたいという意識があり、共産党の幹部ともパイプのある創業者の企業から、同社の将来にわたる戦略に関連しそうなアプリを選択した、という位置付けに見える。

滴滴出行は、中国最大の配車アプリに成長しており、ユーザー数は3億人以上、1日のリクエスト件数は毎日1100万件にものぼり、シェアは87%だ。数年後に米ニューヨーク証券取引所への上場も視野にあるという。

こうした企業がアップルからの10億ドルの投資を受ける必要があったか、と言われると、若干の疑問も浮かぶ。そのため、アップルの中国投資をアピールする材料としての側面を強く意識させるのだ。また滴滴出行としても、中国でも急伸するUberを食い止めるコストがかかっていることも事実。アップルによる支援を断る理由も特に見当たらない。

電気自動運転車のプロジェクトといわれる「Project Titan」の噂がささやかれるアップル。それが実際の自動車を製造する事になるのかは定かではないが、もしApple Carが登場するなら、滴滴出行はその上顧客になり得る。

○本気で取り組んでいるグーグル

グーグルは、より現実的に、人々の移動をなんとかしようと考えているようだ。これまでも、Lexus RXをベースにした自動運転車を公道で走らせており、筆者が住むカリフォルニア州バークレー市でも、そのあまりに自然かつスムーズな運転ぶりを見かける。

また2016年5月に開催された開発者会議Google I/O 16には、電気自動運転車のプロトタイプを展示していた。室内にはハンドルはなく、広々とした空間にソファーがあるだけ、といった雰囲気だった。

自動運転の電気自動車を現実のものにしようとするなら、前述の滴滴出行とアップルの関係のように、ライドシェアリングサービスとのマッチングは現実的な活用方法となる。グーグルは、Uber、その競合にあたるLyftに、自動車メーカーのフォード、ボルボを加えて、自動運転車に関する研究開発をスタートさせている。

グーグルは、Googleマップを提供しており、経路検索はスマートフォンアプリの中でもキラーサービスとなっている。渋滞情報、公共交通のデータ、そして買収したWazeによるユーザー投稿のデータを組み合わせて、より早く、確実に目的地にたどり着くことができる情報を提供してきた。

そのGoogleマップとUberの配車情報は統合し、経路検索には、運転、公共交通機関、徒歩、自転車に加え、Uberを利用した場合の到着時間と料金も合わせて表示されるようになった。

グーグルは情報の検索するだけでなく、検索結果で得た情報を、いかにそれを現実のものに変えられるか、に取り組んでいる。情報を行動に変えることが現在のモバイルビジネスにとって重要なのだ。

●ライドシェアがもたらすもの
○通信と移動の普遍性とサンフランシスコ特有の事情

ライドシェアサービスは前述の通り、スマートフォンの普及と街の有休資源の増加(不況)がもたらしたサービスだ。スマートフォン自体は通信であり、ライドシェアは人の移動。この2つの要素は、おそらく将来にわたって、人間が活動する限りなくならないだろう。

人の移動はこれまで、道路や鉄道、バス網など、巨大なプロジェクトによって成立してきた。そして、これらは規制産業でもある。交通と通信の融合なんていう生ぬるい話も、確固たる規制の上に成り立っているにすぎない。そのため、これまで相対的に新興産業である通信が主体的に何かを進めることはできなかった。

ライドシェアは、そうした規制のかかった"交通"にメスを入れた突破口であり、通信側、テック業界からは、今後も大切に育まれて行くことになるだろう。

また、UberやLyftは、サンフランシスコ周辺に限らず、米国の各都市が直面してきた「移動の不確実性」という問題の解決に取り組んでいるサービスだ。いうなれば、シリコンバレーの投資家、起業家、エンジニアにとっての「自分ごと」だった。

東京からベイエリアに移り住むと、平日はかろうじて、休日になるとまったく役に立たなくなるボロボロの公共交通機関に愕然とすることになる。そして、流しのタクシーは見つからず、電話で呼んでもちゃんとこないのが普通のことだ。東京やニューヨークのような交通機関とタクシーが潤沢な地域から始めることはできなかっただろう。

○通信と移動の普遍性が生む様々な可能性

テック企業のライドシェアサービスへの投資についてまとめると、モバイルによって実現する象徴的なサービスであること、規制産業にテック企業が関与できる突破口であること、そしてサンフランシスコ・シリコンバレーを含むベイエリア地域の人々にとって「交通の解決」が切実な問題であること、という側面を見出すことができる。

ただし、交通の解決については、不十分であることを、当のグーグルもつい最近経験済みだ。前述の開発者会議Google I/O 16は、これまでのサンフランシスコ市内から、グーグルキャンパスの向かいにある屋外劇場に会場が移されて開催された。

グーグルはUberのライドシェアサービス「Uber Pool」の割引コードを配って、サンフランシスコ市内やホテルとの間の交通手段にしようとしたが、数千人が一度に移動する規模のイベントに、周辺道路が大渋滞を引き起こし、またUberの台数も足りておらず、正直なところ、厳しい結果となった。改善の余地は大いにあるのだ。

とはいえ、人の移動に可能性を見出し、その実現を手助けする仕組みは、人の行動に直接的に情報や広告を与えたり、広告の効果測定を人の行動まで含めて行えるようになる。その点はグーグルにとって、非常にメリットが大きいはずだ。

(松村太郎)