最近の朝ドラの集大成のような『とと姉ちゃん』

朝ドラことNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』。7月は、いよいよヒロイン・常子(高畑充希)のライフワークとなる雑誌の創刊に向けて展開していますが、6月は、昭和初期を描く朝ドラとしてはスルーできない太平洋戦争時の物語でした。

2010年代だけでも『マッサン』『花子とアン』『ごちそうさん』『梅ちゃん先生』『カーネーション』で描かれてきた戦時期の艱難辛苦。『とと姉ちゃん』は、まるで過去の朝ドラで描かれたシチュエーションの集大成といった感じでした。

・祖母・滝子(大地真央)の営む材木商店が軍の借り上げとなって廃業
→『マッサン』で北海道の工場が海軍の統制下に置かれる
・常子の勤める出版社が作った雑誌に検閲が入る
 →『花子とアン』でヒロインの出演するラジオや翻訳が検閲される
・隣組の組長ににらまれ、家族が配給不足で飢えに苦しむ
→『ごちそうさん』でヒロインの一家が非国民のレッテルを貼られる

常子の家は母+三姉妹なので、『ごちそうさん』『カーネーション』のように夫や息子を兵隊に取られることはなかったけれど、出版社の谷編集長(山口智充)や先輩・五反田(及川光博)が次々に出征していくのは、やっぱりちょっと切なかったですねぇ。

ちょっとツッコミたい脚本の“なぜ?”

弁当屋の森田家に住み込んでいた常子たちも、森田屋の移転に伴い、祖母・滝子の家へ戻ることに。これには正直ホッとしました。だって、5月に滝子とその娘・君子(木村多江)が和解して以来、見るたびに「どうして常子たちはおばあちゃん家に戻らないんだろう。もうケンカしていないのに、すぐ隣に家があるのに」という疑問が頭の中に浮かんでしまっていたから。みなさんは気になりませんでしたか? 

常子の就職祝いや誕生日祝いも当然のように森田家で、常子が初任給で牛肉を買って帰るのも森田家なら、クビになったことを最初に報告するのも森田家の面々。「いやいや、それは普通、肉親のおばあちゃん家でやるでしょ」と、どうしてもツッコミたくなってしまう。

一応、森田家に間借りして住んでいるのは、母の君子が弁当屋の仕事をしているからなのですが、それなら祖母の家に住んでお母さんだけ通えばいいのでは? 森田家も日本が戦争に突入していく中、商売が成り立たなくなったわけですから、血縁でもない4人家族を住まわせる余裕なんてないはずなのです。

脚本家・西田征史さんのこだわり

もともと無理がある設定だったはず。でも、それをひと月放送分以上、続けたからには、そこには脚本家・西田征史さんのこだわりが意識的に、または無意識に出ているのだと思います。それはおそらく「血縁によらない擬似家族」を描くことではないでしょうか。だから、祖母の家ではダメで、森田家のお茶の間がホームドラマの舞台になったのでしょう。

西田さんがこれまで描いてきたドラマには、原作がある『妖怪人間ベム』『信長協奏曲』にしろ、オリジナル作の『ママさんバレーでつかまえて』にしろ、お互いの善意なくしては成り立たたない結びつきがありました。『妖怪人間ベム』でも、ベム(亀梨和也)と刑事(北村一輝)が家族ぐるみで付き合い、まるで恋人のようにお互いのことを想い合っていましたし、『信長協奏曲』にも、信長(小栗旬)が「友だちだから、あいつになら殺されてもいい」と運命を委ねるような献身的な友情がありました。

よく言えば、人々があこがれるようなピュアな関係、悪く言えば、呆れてしまうぐらいのお人好し。フィクションだからそのくらい夢があっていいと思うか、フィクションにしてもリアリティに欠けるかと思うかで、西田作品の評価は変わってくるでしょう。

『とと姉ちゃん』の常子は、これから出版社を立ち上げ、妹たちや敏腕編集者の花山(唐沢寿明)と共に雑誌を作っていきます。学生時代の親友・綾(阿部純子)も参加し、おそらく元上司の谷や五反田も絡んで、森田家に代わるような擬似家族的コミュニティとなるはず。

モチーフとなった『暮しの手帖』の大橋鎭子(しずこ)さんが家族的な会社を作ったのは事実ですし、終戦間もない頃の日本にはきっと「生き残ったみんなで助けあって生きていこう」という精神があったでしょう。つまり西田さんのこだわる信頼と絆の物語は、これからが本領発揮とも言えます。それが実話ベースの物語にはまって、ツッコミ無用の展開になってくれるといいな、と今後に期待しています。

【今月の名言】は、最後までピンピンしていた祖母・滝子の遺言

滝子「木材というものは、植えた時は自分の利益にならないのさ。それでも40年後に生きる人のことを思って植えるんだ。どうか、次に生きる人のことを考えて暮らしておくれ」

第12週で、老舗の材木商を畳み、木曽で隠居することになった祖母・滝子。滝子は別れ際、孫の常子にこんな言葉をかけて去っていきました。おそらく、木曽で木を植えて暮らすのでしょう……と思ったら、あっという間に“ナレ死”!(死ぬ場面が描かれず、ナレーションで死んだと言われること)最後まで不自然な白髪でお肌もツヤツヤで、病気になったという設定ながら誰よりも生命力がみなぎっていたのに……。責任を負って仕事してきた人ならではの誇りと、金儲けのためだけに働いているのではないという信条が感じられて、素敵でした。常子にとってはメンターとも言えるこのポジションは、今後、唐沢寿明さん演じる花山が引き継ぐことになりそうです。

(小田慶子)
(イラスト/秋山恵美)

関連リンク:NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」公式サイト