北里大学病院整形外科教授の高相晶士氏

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2016年5月27日、2回目となるAging Styleとグッドデザイン賞のコラボレーショントークイベントが、東京丸の内のハーマンミラーストアで開催された。

「"座る"のデザイン」をテーマに、北里大学病院整形外科教授の高相晶士医師、プロダクトデザイナー藤森泰司氏、ハーマンミラージャパン代表取締役社長である松崎勉氏らが、座るということ、座るために欠かせない「椅子」について、トークセッションを展開した。

正しい座り方、いい椅子とは?

高相医師が整形外科医として、正しい座り方のポイントとして挙げたのは「痛みがない」ことだ。整形外科は肩こりや腰痛など、さまざまな疾患の患者が受診しているが、患部は違っても、「痛みを解消する」という治療の内容は同じだ。

つまり、痛みを発生させない座り方や、それを実現する椅子がいいということになるが、なぜ痛みが発生しているのかについては不明点が多い。

「日本人に多い体調不良のひとつが腰痛ですが、痛みの原因としてはっきりわかっているのは感染、がんの発生、骨折だけです。現状では、痛みの原因を特定するのは、容易なことではありません」(高相医師)

しかし、ひとつだけわかっていることもあるという。それが、背骨の配列を正常に保つことだ。人間の背骨は正常であれば、正面から見るとほぼまっすぐに、横から見ると、首の部分は前に、背中の部分は後ろになだらかなカーブを、腰の部分は前に、といういわゆる「S字状」になっている。なぜ痛まないのかは不明だが、この状態を維持すると、痛みが発生しないのだ。

「背骨のS字を維持することを考慮してデザインされた椅子は、医学的にも工学的にもいい椅子、と言えるかもしれません」(高相医師)

ただし、座ること自体に大きな問題もある。1970年代に報告された、さまざまな体勢で椎間板にかかる圧力を計測した実験から、立っている状態を100とした場合、あおむけに寝ていると25にまで抑えられるが、中腰や座った状態では150まで上がってしまうことがわかっている。つまり、座ること、椅子は体に悪い、ということになってしまう。

ただ、高相医師は健康とは姿勢や骨格だけで成立するものではなく、座り心地や気分といったメンタル面が与える影響も計り知れないと指摘した。

「椅子に求められるのは理想的な姿勢だけでなく、素材、優雅さ、気持ちよさなどもあります。デザインの果たす役割は、とても大きいと言えるでしょうね」

デザインの果たす役割

続いて登壇した藤森氏は、2015年にグッドデザイン賞を受賞した椅子「タンジー」を手掛けたプロダクトデザイナーだ。

椅子は体だけでなく、建築や彫刻、空間、心といった、さまざまな形で人と関わりあうものではないかとし、自身がこれまでに手掛けた椅子を例に、多様なデザインの切り口を紹介してくれた。

しかし、そもそも「デザインする」とは、どういうことなのか。藤森氏は、「こうしたら何かが少し良くなるのでは」「生活が変化するのでは」といった仮説だという。例えば椅子の場合、重さの違いが、置ける場所や使う人に大きな影響を与える。

「見た目だけではなく、体の機能が低下している人のための工夫もデザインで実現できる。仮説が組み込まれることで、本当に生活に変化が起きると嬉しいですね」

デザインと機能を両立させた高い完成度の椅子「アーロンチェア」を販売するハーマンミラーの松崎氏は、ハーマンミラーが最も得意とする「人間工学に基づいたデザイン」を、アーロンチェアのコンセプトや歴史と共に解説した。

「人が長時間椅子に座っているとどんなニーズが生まれるのか」という点に注目してデザインされたというアーロンチェアだが、特長的なのは「ポスチャーフィット」「キネマットチルト機構」「メッシュ」の3点。

ポスチャーフィットは背もたれの後ろに付属しているパーツで、座ると後ろに傾いてしまう骨盤を支え、背骨をS字になるようサポートしてくれるというもの。

キネマットチルト機構は、重心の移動だけでスムーズなリクライニングができる機能だ。リクライニングは単なる背伸びではなく、椎間板への圧力を軽減する重要な動作。ほぼ立っている状態まで軽減されるというのだから、驚きだ。

メッシュを椅子に採用したのはアーロンチェアが初めてだが、通気性の確保のほかに、耐圧分散も狙っている。イベントでもプレッシャーマット(感圧計)を使った実験で、床とアーロンチェアが比較されたが、床に座ると、坐骨部分や尾てい骨部分に圧力が集中し、赤くなるのに対し、アーロンチェアに座るとほとんど反応しなかった。

椅子に求められるものは?

セッションの最後には、3人が「椅子に求められるものとはなにか」というテーマで語り合った。

高相医師は、座ることが体に悪いというのは言い換えれば同じ姿勢を続ける、同じ部位に圧力がかかり続けることが問題ということだと指摘。ある一定までは同じ姿勢でも耐えることができるが、限界は越えないように生活する必要があるとし、「姿勢を変える、位置を変える、圧力を変えるなどの、姿勢に変化をつけられるような、動きやすさも椅子には求められるのでは」と提案した。

藤森氏は、今回のトークセッションでデザインと医療のアプローチは、実は根本的な部分でつながっていると実感した一方で、椅子のように人と密接に関わるプロダクトが、機能だけで成立すると、恐ろしいものになってしまうのではないかと語った。

「理論とデザインがかみ合うまで徹底的に突き詰めていくと、機能だけではない、『意味のある感覚』が生まれる面白さが椅子にはあると考えています」

藤森氏の椅子が持つ、人間味やぬくもりのファンだという松崎氏は、「機能はもちろん椅子にとって重要だが、人が安心できる、リフレッシュできるような明るさや柔らかさも欠かせない」としたうえで、人の心に寄り添うような視覚的なデザインも大事にしていきたいと話した。

トークイベント3回目は7月21日に行われる。「食とデザイン」をテーマに今、話題のゆるやかな糖質制限「ロカボ」をすすめる北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟医師らが出演予定。詳しくはこちら

(Aging Style)