体温を上げると免疫力が上がる、と言われていますよね。それが本当なら、暑〜い夏のほうが体温を上げやすいはず……。ですがその前に、どうして体温上げると免疫力が上がるのでしょうか。かんたんに整理してみましょう。

ふだんはほとんど気がつきませんが、私たちはさまざまな病原体に囲まれて暮らしています。人間に悪さをする細菌やウイルス、つまりバイ菌は、どんな場所にもいます。それでも私たちが健康でいられるのは、体内の免疫細胞がいつもバイ菌とたたかってやっつけてくれるからです。だから免疫細胞の力が低下すると、私たちはバイ菌に負けてしまう、つまり抵抗力が落ちるというわけです。

その大切な免疫細胞はどこにあるかというと、白血球がそれです。白血球には、リンパ球、顆粒球などいろいろな種類がありますが、つねに血液中を巡回しながら、バイ菌が侵入していないかパトロールしているというわけです。バイ菌を見つけたら結集して、やっつける。こうした力が免疫力というものです。

初めの質問に戻って、なぜ「体温を上げると免疫力が上がる」のでしょうか? がんの診療を専門とし、巷に流れる健康情報にもきびしい目を光らせている近藤誠先生に聞いてみました。すると意外な事実が。

「体温が上がると免疫力が高くなるというエビデンス(証拠になるデータ)は、実はありません。体温が上がると免疫力が上がるというより、免疫力を上げるために免疫細胞が体温を上げているというほうが正確です。

次のようなメカニズムです。体が何か異常を感知すると、免疫細胞が体温を上げようとして、種々のサイトカイン(タンパク質の一種)を発します。サイトカインが出てくると体温が上がるのです。他方、体温が上がると、ウイルスの活動性は低下します。かぜをひくと、熱が出るでしょう? あれは体温を高めてウイルスを退治しているのです」

体温を上げると免疫力が上がるのではなく、免疫力を上げた結果、体温が上がる。一見、似ているようで、実はまったく逆ですね。

汗かきたいなら運動を……。

平熱はその人の最適温度。変える必要なし

ところが近年、体温を上げるためのさまざまなノウハウが花ざかり。平熱を1℃上げると免疫力が30%アップ! などと言われると、ついその気になります。しかし仮に、体温を上げると免疫力が高まるとしても、平熱を1℃上げることに問題はないのでしょうか? 35.5℃の人が36.5℃に、36℃の人が37℃にすることが? この点、近藤先生はこう話します。

「人にはそれぞれの“適温”があり、その人の平熱はいろんな理由があってその温度になっています。ですから人為的に体温を上げるのはナンセンスです」

人間の体は素晴らしく精巧にできています。たとえば住環境や職場の環境、天候、昨日食べたもの、仕事時間の増減、ストレスの多少、これらのちょっとした変化に素早く反応し、自分にとって最適の状態に保つようにできているのです。特に女性の体温は日によっても、1日の中でも変化します。平熱はその精巧なメカニズムによって設定された、つまりあなたにとって最適化された温度。わざわざ変えることはないでしょう」

最近は、平熱が36℃未満の、いわゆる低体温の女性が増えているといわれます。ムリなダイエットや偏食、睡眠不足、運動不足などなどが原因になるとか。低体温だと免疫力の低下に加えて「がんになりやすい」などと恐ろしげな説もネットでは散見されます。

「低体温が標的にされているようですね。そもそも医学的に低体温という定義はありません。がんになりやすいなんていう臨床的なデータはありませんから、安心してください」(近藤先生)

たしかに36℃未満でも健康な人はいるし、37℃でも病気がちな人はいます。あまり平熱にナーバスにならないことが、いちばん健康的かもしれませんね。

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