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7月10日から第40回世界遺産委員会が開幕となりました。開催地は世界遺産がある国が選ばれ毎年転々としているのですが、2016年はイスタンブールでの開催です。テロの懸念はいまだありますが、今後卑劣なテロがこれ以上起こらないことを心より願いつつ、今回はイスタンブールを取り上げたいと思います。

○度肝を抜かれる存在感を放つ総本山

イスタンブールにはイスラム寺院であるモスクがたくさん林立しているのですが、特に有名なのは旧市街の丘の上に立つ「アヤ・ソフィア」かと思います。「アヤ・ソフィア」はトルコ語ですが、他にも古典ギリシャ語である「ハギア・ソフィア」とか「聖ソフィア大聖堂」と表記されることがあり、少し紛らわしいのです。

なぜギリシャ語が登場するのかというと、イスタンブールがビザンツ帝国(東ローマ帝国)の都である「コンスタンティノープル」と呼ばれていた時代には、住民のほとんどがギリシャ人だったからです。ですから、ビザンツ帝国の文化はギリシャ的になっていきましたし、宗教面から見てもローマから継承したキリスト教はローマ教会と違った独自の発展をとげ、ギリシア正教と言われるようになりました。

その総本山として、二度に及ぶ焼失を経て6世紀に建てられたのが現在の「アヤ・ソフィア」です。地上55m、直径33mの巨大な中央ドームを周囲の半円ドームが支える建築構造なのですが、中に入るとその大空間に度肝を抜かれます。

一般的にドーム型天井の聖堂というものは、荘厳さと気品に満ちた空間の中に包まれているかのような感覚を与えるものですが、アヤ・ソフィアは天井が高すぎるのと建築構造の迫力がありすぎて、筆者の場合は「うわっ」「なんじゃこりゃ」と品のない言葉が口をついてしまいました。大きな建物を日常的に目にする現代人のわれわれでさえ驚くのですから、当時の人々にとってはいかばかりのインパクトを与えたことでしょう。

○征服者も見とれ、破壊ではなく転用へ

その後1,000年近く、ドームの重量がありすぎることで崩落しては修復しての繰り返しだったのですが、さらなる環境の変化がアヤ・ソフィアを襲います。1453年にコンスタンティノープルがオスマン軍率いるイスラム勢力によって占領されたのです。普通に考えれば、異教の建造物は破壊の対象となるでしょう。しかし、征服したメフメト2世はアヤ・ソフィアの美しさに感銘を受け、聖堂を完全に破壊するのではなく、わずかな改修にとどめてモスクへ転用したのです。

また、ビザンツ芸術を代表するものして、聖堂の壁や天井をうめつくすモザイク画がありますが、アヤ・ソフィアのモザイク画は漆喰で塗りつぶされはしたものの破壊はされませんでした。結果的にそのおかけでいい状態のまま保存されることになり、20世紀の前半に壁の中から再発見されました。現在、アヤ・ソフィアは博物館として公開されており、西洋のビザンツ美術と東洋のイスラム美術が交じり合った傑作として、複雑な歴史を私たちに伝えています。

元来の名称であるハギア・ソフィアはギリシア語で「聖なる神の叡智」を意味しますが、どのような神を信仰しようともみなが共存していけるような国際社会の実現を、文化という側面から叡智をこらして世界遺産委員会でも示していくのではないかと期待しています。

○世界遺産データ

イスタンブルの歴史地区※。文化遺産。1985年登録。トルコ
※世界遺産アカデミー発行『世界遺産大事典』では「イスタンブル」と表記

○地図

○筆者プロフィール:本田 陽子(ほんだ ようこ)

「世界遺産検定」を主催する世界遺産アカデミーの研究員。大学卒業後、大手広告代理店、情報通信社の大連(中国)事務所等を経て現職。全国各地の大学や企業、生涯学習センターなどで世界遺産の講義を行っている。
○世界遺産検定とは?

世界遺産の背景にある歴史、文化、自然等の理解を深め、学んだことを社会に還元していくことを目指した検定。有名な観光地のほとんどは世界遺産になっているため、旅の知識としても役立つと幅広い世代に人気。
主催:世界遺産アカデミー
開催月:3月・7月・9月・12月(年4回)
開催地:全国主要都市
受検料:4級2,670円、3級3,900円、2級5,040円、1級9,250円、マイスター1万8,510円、3・4級併願6,060円、2・3級併願8,220円
解答形式:マークシート(マイスターのみ論述)
申し込み方法:インターネット又は郵便局での申し込み
その他詳細は世界遺産検定公式WEBサイトにて

(本田陽子)