1.外出禁止令を守れ!
2.労働は人生だ!
3.互いに監視せよ!

廊下には「独裁国家」のルールが貼ってある。個室には簡素なベッドがあるだけ。あとは食堂と、キッチンと……車椅子がポツリと置いてある、この「尋問室」って何だろう?

男女8人が「独裁国家」と化した施設で8日間を過ごす。スウェーデン教育放送が制作したリアリティショー『独裁者の部屋』(NHK Eテレ 土曜24:00〜)だ。


独裁者の元で過ごす8日間


『独裁者の部屋』は、NHKが主催する国際番組コンテンスト「日本賞」で、2015年「青少年向けカテゴリー最優秀賞(外務大臣賞)」を受賞した作品。今年3月にNHK Eテレで放送され、今回はアンコール放送となる。7月3日には第1話と第2話が放送された。

施設に集められた男女は10代〜20代の若者たち。これから絶対的な権力を持つ「独裁者」のもとで8日間を過ごす。見事勝者になれば賞金10万スウェーデン・クローナ(約150万円)を獲得できるのだが、どうすれば勝利なのかは知らされていない。

初日の夜。独裁者は姿を見せず、手紙で指令を下す。

《市民諸君。我が社会では身の回りの品が限られている。よって諸君のカバンの中身を調べ、衣類以外の物は全て排除した》
《ただし、必需品を取り戻すチャンスを一度だけ与える。15種類の物を用意した。諸君の社会で使うことができる身の回りの品を5つ選べ。考える時間は15分》
《選んだ物以外は、いま身に着けている物もこの部屋に置いていくこと》

並んでいるのはトイレットペーパー、薬、メガネ、寝具、タバコなど。「全員の意見を聞くべきだ」と平等に決めようとするが、化粧品が絶対欲しい女性、一人だけいるメガネ君、トイレットペーパーいらなくない?など、個人の価値観が食い違う。

民主主義が上手くいかないように感じるかもしれない。でもこの「民主主義」は独裁者が作ったルール上のもの。すでに参加者の自由は奪われ始めている。

3時間立ったまま、ピンセットでクリップを分ける


2日目の朝。独裁者から労働の指令が下る。どんな労働かしら、と、まだキャッキャしている参加者の前に用意されたのは、色とりどりの無数のクリップ。

《市民諸君。労働は人生だ》
《全員で我が社会のクリップを分類せよ。クリップは有毒かもしれない。手袋とピンセットを使うこと。1人が1色を担当する》

小さなクリップをピンセットで寄りわけて瓶に詰める。作業は立ちっぱなし。参加者たちの口数が段々が少なくなり、3時間が経過。昼食を挟んで、さらに3時間の労働。

ここで参加者の一人が「耐えられない!」とブチ切れ。労働を抜け出し、荷物をまとめて施設から出て行ってしまう。

普通のリアリティショーならここで「脱落」の演出になるが、番組側は「去った」としか表現しない。勝利条件を明かしていないので、一番最初に独裁を抜け出した人物が勝利という可能性もあるのだ。

しかし、残された参加者は抜け出た人間を「脱落した」と思っている。自分の意志で施設を出られるのを見ておきながら、現状に納得してこのまま8日間を過ごそうとしている。徐々に独裁に慣れていることを自覚していない。

自由は知らず知らずのうちに奪われる


参加者たちの食事は常にキッチンに用意されている。品数は多く、フルーツまであり「独裁国家の割には豪華な食事ね」と参加者たちは喜んでいる。
だが、この時点で自由に食事を選択する権利が奪われているのだ。

スマホやPCは取り上げられ、外部との通信は一切遮断されている。
施設内の時計はデタラメな時刻を指しており、時間感覚を狂わせる。
外出禁止令は就寝の合図ではなく、市民同士が結託しないように引き離す意味を持っている。
娯楽室にはチェス盤やソファがあるが、本棚に並んでいるのはジョージ・オーウェル 『一九八四年』とウィリアム・ゴールディング『蠅の王』。どちらも逃げ場のない場所での支配を描いたものだ。

独裁は突然やってくるわけではない。知らず知らずのうちに自由を奪い、ゆっくりとフェードインしてくる。気づいた時にはもう戻れない場所にいる。
彼らの様子を外側から見ていると「なんで気がつかないんだ」と思う。
でも、テレビを見ている自分を誰かが外側から見たら「なんで気がつかないんだ」と思うのかもしれない。
自分の自由が奪われているのか、自覚することは難しい。

『独裁者の部屋』第3話・第4話は9日深夜24時(10日午前0時)より放送。
翌日は参議院選挙の投票日。候補者の名前を書く手が一旦止まりそうだ。
(井上マサキ)