汗の匂いや加齢臭、体臭など、匂いの問題に敏感に反応する人が増えています。そのせいなのか、デオドラントや消臭剤、芳香剤などが飛ぶように売れているといいます。すれ違いざまにふわりと立ち上るのは、パルファムやオードトワレではなく、柔軟剤や芳香剤といったケースも……。不思議なのはそれらの香りは決して強く主張することはなく、でも、なぜかずっと居座り続けること。まるで、臭いものにフタを閉め、臭うものを歓迎しない、日本の消臭文化を象徴するかのように、です。



ただ、現実問題として、加齢臭や女性のおやじ臭問題が浮上しているのは確かなよう。ファーストフードや欧米並みの食生活、ストレス過多のライフスタイルの影響からか、現代人の匂いは変化しています。男性並みに働く女性は女性ホルモンの低下によって、おやじ臭と呼ばれる独特の匂いを発するように。また、太っている人は、不飽和脂肪酸の含有量が多いため、酸化した脂の匂いを発しやすく、糖質過多の人は、糖尿病の患者同様に老廃物の匂いが甘いのです。実は、どんな生活を送っているかで、匂いも嗅覚も確実に変化。これらの現実を踏まえると、日本人の高い消臭意識は理解できるが、でも、欧米諸国の成熟した匂い文化との差はますます開いていくばかり。それもまた怖い話ですよね。



女は本能で“嗅ぎ分ける”チカラを持っている

思春期の頃、父親の匂いに違和感を覚えたことはありませんか? あるいは、娘から急に避けられるようになった経験は? 後に、ドクターの取材でわかったことですが、これらは、“強い遺伝子を匂いで嗅ぎわける本能”なのだそう。娘が思春期になると父親を遠ざけるのは、いちばん近い遺伝子だから。女性は強い遺伝子を求め、それを本能的に匂いで嗅ぎ分けている可能性が高く、匂いの変化にも敏感になっているのです。匂いの感受性が鋭いのは圧倒的に男性より女性が上だと語ってくれたのです。確かに、生理中の血の匂いを感じ、生理が突然くる、なんていう不思議なことも女性なら一度は経験しているはずです。



女のフェロモンは匂いでわかる?

フランスの英雄ナポレオンが、戦場から帰宅する前に“しばらく風呂には入るな”と愛妻ジョセフィーヌにあてた恋文の話は、あまりにも有名ですが、香り大国フランスには匂いと生殖本能、セクシュアリティにまつわる話が山ほどあります。女のフェロモンの匂いを集めるために殺人を繰り返した一人の男の物語、パトリック・ジュースキント作『香水―ある人殺しの物語』を思い出した人も多いでしょう。センセーショナルな内容ですが、実は医学的にはあり得る話なのだとか。蟻はおしりから特定のフェロモンを出して仲間に餌のありかを伝えますが、人間もきっと同じ。相手を誘うために耳のまわりや、腋や膣などから、特定の匂いを発散。それらをフェロモンというのかどうかは定かではありませんが、匂いは本能を刺激する官能的でドラマチックなテーマであることは確かなのだ。



これらのことを考えると、清潔を絵に描いたような日本の消臭文化は、匂いを感じる能力や遺伝子を嗅ぎわける本能にさえ影響があるのでは、と不安に思うことも。特定の時期に匂いの刺激を受けないと、匂いを感じる脳の神経細胞が死んでしまうという東京大学大学院の研究データもあるくらいですから。



嗅覚は、五感の中でももっともプリミティブな本能、と考えれば、生殖本能に悪影響を与えるほど消臭にこだわるのはナンセンス。ときには、芳香剤や消臭剤を捨て、自分の肌の匂いや愛する人や家族の匂いを感じてみることも大切なのでは? そして、眠りかけていた自分の中の本能を刺激する香りをひと滴。もちろん、愛する人のキスが欲しいところに。




この記事を書いた人
安倍佐和子/ビューティジャーナリスト

大学卒業後、化粧品メーカーの宣伝制作室に入社。デザイナーから留学を経て、出版社に転職。編集者として活動をスタート。美容専門誌『VOCE』(講談社)の創刊準備から関わり、その後独立。現在は、『VOCE』『MAQUIA』『GINZA』『FIGAROjapon』などの女性誌で連載、執筆&編集を行うほか、広告やイベントなどさまざまな媒体でも活躍中。また、ホメオパス、フィトテラピーアドバイザーの資格を有し、代替医療の分野にも精通。著書『人と比べない美人力の磨き方 安倍佐和子のMy BEAUTY Rules』(講談社刊)