パワーを失ったマシンを「再起動」させ、なんとかチェッカーを受けたトヨタの5号車だったが、規定時間を過ぎてしまったため、結果はリタイア扱いに

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6月18〜19日に開催された世界一過酷な耐久レース、ル・マン24時間ーー。

世界一過酷な耐久レースは土曜日の午後3時にスタートし、翌日の午後3時にゴールを迎える。

長い夜が明け、東の空が少しずつ明るくなり始めた日曜日の朝、夜通しプレスルームのモニター画面を眺めていた日本人プレスの間からも、「おいおい、トヨタ、マジですごいなあ。コリャ、ホントにいけちゃうんじゃないの?」という言葉が漏れ始めた。

そう、今だから打ち明けるが、今年のトヨタがこれほど強いとは正直、思っていなかったのだ…。

■ポルシェを圧倒も…。

昨年のル・マンではライバルのポルシェやアウディにマシンの戦闘力で大きく水を開けられ、最高6位という不本意な結果に泣いたトヨタ。その雪辱を果たすべく、今季のトヨタはパワートレインを一新した「TS050ハイブリッド」を投入する。

だが、ニューマシンに加えられた改良の大きさと、限られた開発テスト時間を考えれば、トヨタが無事に24時間を走り切れる保証はどこにもない。それに、肝心の「速さ」も、実際にライバルたちと走ってみるまではわからないと思っていた。

ところが、今年のトヨタは本当に強かった。カーナンバー5番(アンソニー・デビッドソン、セバスチャン・ブエミ、中嶋一貴[かずき])とカーナンバー6番(ステファン・サラザン、マイク・コンウェイ、小林可夢偉[かむい])の2台のトヨタのマシンは、レース序盤から昨年チャンピオンのポルシェやアウディと、互角以上の速さを見せつけ激しいトップ争いを展開する。

やがて、アウディの2台がトラブルで大きく後れを取る。万全の態勢に見えた王者ポルシェも深夜、1号車が1時間に及ぶピット作業を強いられ、優勝争いから脱落してしまう。

気がつけば夜が明ける頃にはトヨタがレースの主導権を握り、トヨタの2台とポルシェの2号車がル・マン史上に残るであろう超ハイペースの接近戦を演じ続けていた。

トヨタ勢は、自慢のハイブリッドシステムが実現する「燃費の良さ」を生かした戦略を取る。通常のピットストップの間隔(1スティント)をライバルよりも1周多い14周のペースで走る。

それに対しポルシェは後半、ひとりのドライバーが4スティント連続で走る戦略に変更。ドライバーの負担は大きくなるが、ドライバー交代の回数を減らすことでタイムを稼ぎ、トヨタとの差を縮めようという作戦だ。

こうして逆転を目指し、捨て身の勝負に出るポルシェ。ル・マン最多の通算17勝を誇る彼らが「死にもの狂い」で追い上げるも…トップには届かない。

レース終盤、トヨタ5号車の最終ドライバー、中嶋一貴がマシンを引き継いだ時点で、2位のポルシェ2号車との差は30秒ほどだった。そして、レース終了まで残り10分でその差は1分24秒台まで広がる! その後、ポルシェはタイヤトラブルで予定外のピットインを強(し)いられ、追い上げを諦めてペースダウン…。

誰もがトヨタの初勝利を確信(!)したそのとき、トップを走る中嶋を悲劇が襲う。

なんと、残りわずか2周足らずというところで5号車が突然パワーを失いスローダウン。チェッカーフラッグが振られるまで、あとたったの3分! マシンは力なくホームストレート上にストップしてしまったのだ。

いったい何が起きたのか把握できないまま凍りつくトヨタのピット…。筆者は、トヨタ初優勝の瞬間を間近で見ようとピットウォールにいたのだが、その目の前で中嶋のマシンは止まったままピクリとも動かない! その横を、はるか後方にいたポルシェ2号車が無情に抜き去ってゆくではないか…。

結果は、ポルシェの劇的な逆転優勝。2位には小林可夢偉らが乗るトヨタの6号車が入り、大きく遅れていたアウディの8号車が棚ボタの3位表彰台を獲得した。

中嶋の5号車は、システムを再起動することで辛うじて動きだし、トップのポルシェから1周遅れの「2位」でコントロールラインを通過はしたのだが……ル・マンには「1位がゴールしてから6分以内にチェッカーを受けなければならない」という規定があり、リタイア扱いとなってしまう。

5回目のル・マン挑戦で、ついに見えた初優勝をほぼ手中におさめていた中嶋も、そしてそれを迎えるチームクルーも、あまりのショックに耐えられず、その場にぼうぜんと立ち尽くしたまま。多くのトヨタスタッフの目には涙が浮かんでいた。

レース後の中嶋を直撃すると…。この続きは、明日配信予定です!

(取材・文・撮影/川喜田 研 撮影/鈴木紳平)