「雪だるま式に増えた夫の借金で首が回らなくなり一家離散……」なんて2時間ドラマでよく見る話ですが、それって本当にどうにもならないの? アディーレ法律事務所の篠田恵里香(しのだ・えりか)先生に聞いたところ、「すごく怖いものだと思われて敬遠されているけれど、自己破産もひとつの手ですよ」とのこと。

「自己破産」というワードは聞いたことあるけれど、それって実際のところどんな制度? と、いうわけで今回の「大人の女のためのリーガルレッスン」は「自己破産」について。いざという時に家族を守るためにも、リーガルマインドを身につけましょう。


〈今回のポイント〉
【1】自己破産って何?
【2】自己破産をしたことってバレる?
【3】自己破産をしないために

〈登場人物〉

リリコ(32歳)
小さなデザイン会社に勤める中堅デザイナー。基本的に他力本願。趣味はネイル、お酒(ワインと焼酎)、サイゼのお気に入りメニューは「ミラノ風ドリア」。例えれば、だらしない石原さとみ。

エリカちゃん(永遠の30歳)
「六法全書」の妖精。本名はオピストコエリカウディア・スカルジュンスキィ。辛口で正論をバシバシ言うが、困っている人は放っておけない姉さんキャラ。例えれば、リカちゃん人形サイズの真木よう子。

親友との台湾旅行前日、酔っ払って記憶をなくし、会って2度目の男とうっかり婚姻届を出してしまった私。勢いで籍を入れちゃっただけなのに、なぜか異様に離婚を渋られていたので「これは何かある?」と思っていたんだけれど、彼の借金や離婚歴(バツ2)が発覚。あ〜私、本当にバカだ……。

昨晩台湾から帰国したので、さっそく今日は仕事帰りに「夫(笑)」と離婚協議をしてきたのだった。

いいやつだけど借金まみれの夫…

「エリカちゃん……あの人どう思った?」

「そ、そうね……なんか衰弱した子猫みたいだったわね……」

「うん……私、人に見捨てないでくれなんて泣かれたの初めてだよ……」

「ちょっと! ほだされてるんじゃないわよ! 借金依存のメンヘラ男を支えられるほどあなた稼いでないでしょ? 自分の身をわきまえなさい!」

「うぅ……。でもそうだよね。友達の借金の保証人なって、その友達が蒸発しちゃったっていう話はちょっとかわいそうだなって思ったし、多分悪いヤツじゃないんだと思う。でも、ああいう人のよさというか、弱さで借金が雪だるま式に増えてるんだろうな……」

「そうね。借金することが常態化してる感じね」

「うん。私さ、借金うんぬんももちろんあるけど、別に彼のこと好きじゃないんだって今日改めて思った。ちゃんと離婚する」

「正しい判断ね。どうも彼は一時の感情で動くタイプみたいだし、放っておけない不幸な女が現れたら悪気なく浮気すると思うわ」

「バツ2の原因ってそれかな〜(笑)。でもさ、仮にも夫婦だし何か相談に乗ってあげられないかな? あ、お金以外で(笑)」

「あなたもお人好しね〜。今回の男はただのおバカさんで、悪人じゃないからよかったものの、外道が現れたら付け込まれるわよ」

「げ、外道……」

自己破産って何するの?

「ともかく、彼が取るべき手段はひとつ。自己破産ね」

「……何それ? 一家離散するやつ?」

「はぁ……。本当〜に勘違いしている人が多いのだけど、自己破産って別に人権がなくなるとか、社会から追放されるとか、そういうものじゃないのよ。今後の生活に必要最小限の自分の財産を手元に残し,高価な財産はお金に換えて借金を返して、残った借金を免除してもらうっていう制度なの」

「借金がゼロになるってこと!? でもそんなうまい話ないでしょ? 何かヤバいことあるんでしょ?」

「まあ、デメリットがないわけはないわね。高価な所有物は処分されるし、自己破産して7〜10年はブラックリストに載っちゃうし、破産手続き中は生命保険募集人や弁護士、行政書士などの特定の職種にはつけないわ。お金と密接に関わる仕事は難しいってわけ。でもこれも手続き中だけよ」

「そうなの? 裁判所の人が来て、家財道具いっさいがっさい持って行かれて無一文みたいにされたりするんじゃないの……?」

「そんなこともないわよ。生活に必要最小限の財産は持ってていいの。破産は,人生再建のためなんだから、破産して生活できなくなるんじゃ意味ないわ。現金なら99万円まで、預金は20万円まで原則保持できる財産として認められるわ(東京地裁の場合)。裸で放り出されるなんてことはないの。だって、基本的に5年程度乗ってるものだったら法的手続きの中では価値なしとしてそのまま持っていられることが多いの」

「へえ〜!!」

「自己破産っていうのは、経済的に破綻してしまったけれど、もう一回やり直しましょうという手続きであって、何も借金した人を追い詰めるような制度じゃないのよ」

自己破産のやり方って?

「自己破産ってこの世の終わりだと思ってた……」

「もちろん自己破産するには、本人に支払い能力がなく、借入先すべてに返済をしていける状態じゃないって客観的に認められなきゃいけないけどね」

「ふむふむ。自己破産の手続きってどういう流れになるの?」

「自分でも手続きできるけど、相当大変だから、通常は弁護士などが借金をした理由や現状を聞いて、裁判所に申し立てをするの。それを裁判所が認めて申請が下りれば、借金免除になるわ」

「認められない場合もあるってこと?」

「そうよ。例えばギャンブルばっかりで借金を作ったとか、一度破産して間もないとかね。財産を隠しているとかももちろんダメよ。そういうのは裁判所に隅々まで調べられるわ」

「そうなんだ……。例えば妻や親に資産があった場合はどうなの? そうなったらやっぱり無理だよね?」

「いいえ、本人以外の家族の資産は関係ないわ。あくまでも本人名義の借金は本人のものよ」

「へ〜!!」

「ただし、例えば親が保証人だった場合は別よ。自己破産によって自分の借金はなくなるけれど、当然債権者たちはその分を保証人に返してもらおうとするわ。一括請求されるリスクもあるわね」

「えっ? 保証人がもし返せない場合はどうなるの?」

「保証人も自己破産するしかないわ」

「そんな……。自分の借金じゃないのに……」

「あなたの夫にも言ってやりたいけど、誰かの保証人になるっていうのは自分が借金したのと同じことなの。そういう意識を持って、誰かに保証人を頼まれた時は慎重になるべきね」

自己破産はまわりにバレる?

「自己破産をするとやっぱり会社とかご近所とかにバレたりする?」

「会社から借り入れているとか、近所の人からお金借りてるとかでない限りはバレないと思うわ。あとは自己破産すると「官報」という国の機関紙に載ってしまうんだけど、官報を毎度読んでいる人なんてそうそういないから大丈夫でしょう」

「でも自己破産する場合、会社から資料もらったりとかしなくていいの?」

「あらリリちゃん、いいところに気がついたわね。確かに破産手続きの時に退職金がいくらになるかの計算書を出してって言われるケースもあるわ。それを会社にお願いした時に、何に使うの?なんて話になるかもしれないわね。言う言わないは自分の判断で決めていいことだけど、どのくらい会社に協力してもらう必要があるかで隠し通せるかも違うかしらね〜」

「なるほど……」

「隠し通せるかなんて考えてないで、どうやって返すか考えてほしいところね」

「確かに……。でもこう考えてきて、やっぱ彼は自己破産したほうがいいなって思った。ねえねえ、妻が夫に自己破産させることはできないのかな?」

「それは無理。その代わりあなたが弁護士のところまで引っ張って行って、説得してもらいなさいよ」

「そっか〜。これも何かの縁と思って、そうしてみるよ」

「破産することがその人の今後の人生を考えた時に最善策ってことがあるのよ。まあ、あなたの夫がそうなのかは、まだわからないけどね」

自己破産をしないために

「ついでに離婚の相談もしちゃおうかな。でもさ、自己破産なんてまるで遠い世界のことだと思ってたけど、こんな身近なとこで起きるなんて……」

「まず、借金をして返せなくなったら自己破産が待っているって意識しとかなきゃだめなのよ。こうやって自己破産しなきゃならなくなってる人だって、最初は返せると思って借りたかもしれないけど、借り入れたその時点で自分の財政は破綻してるわけ。利息がつくから、借金って5万円借りたら5万円返すものじゃないのよ」

「そっか……」

「一番怖いのは5万円借りた時に、「あ、なんか潤ったかも」って勘違いしちゃうことなの。はじめのうちはラクになるけれど、結局今月も借りなきゃいけなくなったなっていう場合が必ず出てくるわ。それを繰り返してたら100万、200万なんてあっという間よ」

「怖すぎる〜〜〜」

「借金はしないのが一番! でも、もしどうにもならない理由があってしてしまったのなら、一括で返すこと。もしくは貯金をしながら返すようにすることが大切よ」

「貯金をしながら?」

「そう。毎月毎月ギリギリな中で返済していたら絶対に破綻するわ。6月に結婚式が重なったりしたらおじゃん。貯金をしながら返せるくらいでないと、返済していくことは難しいの」

「なるほど……」

「あとは、地道だけど、毎月の収入と支出をちゃんと記録しとくってことも大事。まずは一ヵ月ぐらいやってみると自分の家計の管理の甘さがすごくよく見えるから、危ないなと思ったら一度それをやってみるといいわ。リリちゃんもムダ使い多いしやってみなさいな」

「うう……確かに。やってみます」

エリカちゃんの言葉はいちいち耳が痛い……。とはいえ、エリカちゃんは彼との話し合いにも付いてきてくれて、彼が大きな声を出すと(まあ、彼はそのまま泣き崩れたんだけど)拳を振り上げて私のジャケットのポケットから飛び出そうとしてくれたり、私なんかよりよっぽどお人好しだ。

結婚&離婚に、自己破産(私じゃないけど)と、急に人生てんてこ舞いだけど、なんとか乗り切らなきゃ。すでにベッドに潜り込んでいるエリカちゃんに「ありがとう」と声をかけた。

〈今回のまとめ〉
【1】 自己破産って何?
生活に必要最小限の財産を残し、高価な財産はお金に換え借金を返した上で、残った借金を免除してもらう制度よ。「この世の終わり」と思われてるけど、もう一回やり直しましょうという手続きであって、借金した人を追い詰めるような制度じゃないわ!
【2】 自己破産をしたことってバレる?
自己破産をすると国が発行している「官報」という機関紙に掲載されるけれど、それを読まない限り、ほぼバレることはないわ! ただし、会社から借入をしていたりすれば会社にバレる可能性は高いわね。
【3】自己破産をしないために
まずそもそも借金をしないこと! もししてしまったら、一括で返済すること。それが無理なら貯金をしながら返済をするように心がけて。家計簿をつけて収支をちゃんと把握することも大事よ!

(阿部 洋子)