台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されたシャープに代表される日本の家電メーカーが韓国や中国、台湾企業に勝てず、凋落し続けている。経営コンサルタントの大前研一氏が、日本の家電大手が生き残れる二つの方法について解説する。

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 一つは、中国の巨大な製造企業を買収して垂直統合するという方法だ。開発研究は日本で行なうが、製造はすべて中国に集約して韓国勢にも中国勢にも負けないだけのボリュームを生産するのである。しかし、今の日本企業には、1000億円を超えるような投資の意思決定ができる経営者はほとんどいない。

 もう一つは、すでに中国各地に広く販売網を持っている会社を買収して競争相手よりも速いスピードで成長させるか、中国のeコマース企業と提携して中国の消費者に日本からダイレクトに商品を販売していくという方法だ。このうち私がより勧めたいのは後者である。なぜなら、中国ではeコマースが爆発的に伸びているからだ。

 たとえば、中国最大手のeコマース「アリババグループ(阿里巴巴集団)」は、昨年11月11日の「光棍節」(独身の日)セールの総取引額が約1兆7600億円にも達した。しかも、中国から日本のeコマースサイトにアクセスして商品を注文すると、非常に簡単な手続きと検査で輸入できるようになっているのだ。

 したがって、中国から日本のeコマースに直接注文できるシステムを確立すれば、売り上げを10倍に伸ばすことも不可能ではないだろう。eコマースで販売したほうが、苦労して現地でリアルの販売網を構築していくよりも、はるかに手っ取り早く、はるかに多くの消費者に販売できる時代になったのである。

 どちらも日本企業にとっては至難の業かもしれないが、これにチャレンジしなければ“死のスパイラル”から抜け出すことはできない。この意思決定ができるかどうかを今、すべての日本の家電メーカーが、例外なく問われている。

 ここ15年もの間、家電各社はバカの一つ覚えのごとく「選択と集中」というお題目を唱えてリストラに励んできたが、これは経営のごまかしでしかない。たとえば日立にしても、優良子会社への出資比率を増やして連結子会社にしたり赤字子会社への出資比率を落としたりする順列・組み合わせで帳尻を合わせているだけである。

 競争力は国境をまたいで移動する。それが産業の淘汰(とうた)の歴史である。かつて日本はアメリカの家電メーカーを駆逐したが、今は日本が韓国と中国に淘汰されている。安倍晋三首相は「同一労働同一賃金」などと言っているが、家電産業は中国で「同一」の労働をして日本の5分の1の賃金だ。日本の賃金が同じ水準まで落ちて国境を越えた「同一労働同一賃金」にならない限り、じりじりと追い詰められていくだけである。

 それが嫌なら、ダイソンのような高価格でも売れる商品を生み出していかねばならない。リストラや選択と集中で対処できる話ではないのである。そういう歴史的視点に立った意思決定をしない限り、日の丸家電メーカーが消滅する日は、そう遠くないだろう。

※週刊ポスト2016年7月15日号