“どうなるんだろう”からの復活…リオ五輪代表DF室屋、見せ場は1対1「ガツンと行く」

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 唯一の大学生選手として参加したリオデジャネイロ五輪アジア最終予選でMVP級の活躍を見せて、チームを五輪出場へ、そしてアジアチャンピオンへと導いた。大会後にはFC東京に加入し、DF室屋成はさらに成長しようと気合いを入れていたが、負傷によって戦線を離脱してしまう。しかし、懸命にリハビリを続けて実戦復帰を果たすと、国内ラストマッチとなったU-23南アフリカ代表戦で存在感を示し、五輪本大会行きの切符をつかみ取る。奇跡の復活を遂げた男は今、何を思うのか――。

ネイマールとD・コスタ

どっちが対面に来てもエグイ(笑)

――負傷に苦しみましたが、リオデジャネイロ五輪代表メンバー選出を果たしました。

「五輪に出るということは、テグさん(手倉森誠監督)も言っていましたが、限られた選手しか経験できないところだし、自分の夢でもありました。その舞台で国を背負って戦えるというのはホンマに誇りに感じているし、自分の持っている力をすべて出して戦ってきたい。ただ、メンバーに選ばれるか選ばれないか、こればっかりはどうなるか分かりませんでした。でも自分の中ではできる限りのことをしてきたし、もしどっちの道に転ぼうとも、それが自分にとって意味のあることだと思っていました」

――メンバー発表前の南アフリカ戦で最終予選以来となる手倉森ジャパン復帰を果たしましたが、あの試合でのアピールも大きかったと思います。

「南アフリカ戦は僕自身、気合いを入れていましたが、そんなに良くない出来だと思っていたんですけどね(笑)。負傷明けで初めてフル出場したこともあって体がついてこなかった部分があったし、相手の身体能力が高かったこともあり、これまでだったら寄せられるところで寄せ切れなかった場面もあった。特に前半は(右サイドハーフの)野津田(岳人)選手を守備に回らせる時間が長くなってしまったように、自分のコンディション的に仕方のない部分もありましたが、少しポジションを下げてしまうことが多かったと思います」

――最終予選で見せたような激しいプレーを見せていたと思いましたが。

「あまりにも必死にプレーしていたので、細かい部分はあまり覚えてないですね(笑)。(2点目の)アシストはしましたが、あまりボールを奪えなかったし、特に守備の部分でインパクトを残せなかったと思う。もちろん、できることはやったという気持ちはあったし、細かいところのミスはありましたが、もっともっとやれると感じています」

――アフリカ勢と対戦した印象は。

「アフリカの選手と対戦したのは僕自身初めてかもしれませんが、本当に体が強いと感じました。日本人選手相手にプレーしている感覚で当たりに行ったら、日本人だったら倒れるところでビクともしない。3回くらい本気で奪いにいったけれどまったく動じなかったし、体が強いからボールに当たる前に弾かれる感覚で、そういうところは違うなと感じました。相手は長距離移動もあり本調子ではなかったと思いますが、それでもフィジカルコンタクトの強さを感じたし、コンディションが良かったらどうなるんだろうと思いました」

――本大会の相手も手強いと思いますが、南アフリカ戦の経験を生かすことはできそうですか。

「本大会では南アフリカよりも、レベルの高い選手がいると思いますが、サイドでの1対1が重要になると感じています。世界大会ではクロスからの得点が大きな割合を占めてくるだろうし、ゴール前には長身の相手選手が多くなると思うので、サイドでどれだけクロスを上げさせない守備ができるかが大事。そこで、相手を止めることができれば評価されると思うし、サイドを突破されてクロスを上げられたら「やっぱり世界相手ではダメか」と思われてしまうので、そこが自分の一番の見せどころだと感じます」

――相手選手との距離を詰めてボールを奪い取るプレーは、室屋選手の特長の一つだと思います。

「相手によってプレーの選択は変わりますが、やはり自分は距離をどんどん詰めて1対1の形に持っていくのが得意だと思う。自分の距離感で1対1をしたら、敵わないと思ったことはないし、やられることもあまりないと思っていますが、それが世界相手になるとどうなるか。まだ出会ったことのないスピードやパワーを持つ選手と対戦したときに自分がどういうプレーをできるか、それはすごく楽しみですね」

――前に距離を詰めることで、裏にはスペースが生まれますが、怖さはありませんか。

「足下がうまい選手なら距離を詰めて嫌がるようにしますが、めっちゃ足が速い選手なら距離をとることもあります。試合状況によって守り方は変わるけれど、スピードのある選手に対して最初は裏をケアして距離をとり、足下に出させたところで、どれだけ寄せられるかが自分の中ではすごく大事なポイントだと思っています。それと、心理戦みたいなところがあって、試合開始から1発目の1対1はめっちゃ距離を詰めて、強く当たるようにしている。そこで相手が嫌がったりしたら、心理的に優位に立てる感じがしますからね」

――1発目で相手の腰を引かせてしまえば勝ちみたいな。

「それは対面する相手サイドハーフも同じだと思うんですよ。1発目を大事にしていて、そのプレーでリズムを作っていく選手も多いので、1発目の駆け引きは、かなり重要だと思っています。逆に1本目でやられたら劣勢になるかもしれませんが、また違う対応を考えるし、ちょっとずつ時間をかけて相手の癖を見極めながら、また自分のペースに持っていこうとしています」

――五輪直前の親善試合ではブラジルと対戦します。FWネイマール(バルセロナ)やFWダグラス・コスタ(バイエルン)との1対1の場面もあると思いますが、1発目はガツンと。

「どっちがきてもエグイですね(笑)。どっちが僕の対面にきても、多分感じたことのない感覚を味わえるはずです。そういう相手と対戦できるのは楽しみですが、ガツンと行くでしょうね(笑)。それは本大会でも変わらないと思う。最終予選初戦の北朝鮮戦では相手のサイドハーフにポイントとなる選手が多かったので、1発目から絶対に抑えてやろうと思っていた。実際に止められる場面が多かったし、それで自分自身が乗れた部分もあったので、(本大会初戦の)ナイジェリア戦でもガツンと行きたいですね」

リハビリを頑張れたのも

五輪という目標があったから

――最終予選を今振り返ると、どういう大会だったと感じていますか。

「僕は当時、大学生でしたが『大学生とか、立場は関係ない』と言っていました。それでも、周りは大学生として僕を見ていただろうし、チームメイトもプロの選手だったので、最初のうちは遠慮があったかもしれません。でも、試合を重ねていくたびに自分に自信を持てるようになったし、もっと上を目指したいと心から思える大会になったと思う。大学生とか、そんなのは絶対に関係ないという確信に変わったし、大会を通してメンタル的にも成長できましたね」

――ただ、リオ五輪までの半年間で「成長したい」と意気込んでいる中、負傷してしまいます。

「最終予選の後はめっちゃ気合いが入っていました。FC東京に加入して、絶対にクラブでも試合に出てやろうと思っていたのに、初日のキャンプで骨が折れてしまったので……。周囲の方もものすごく応援してくれていたし、期待してくれている中で骨折してしまったので、申し訳ないという気持ちもあった。僕自身もものすごく落ち込んだし、『どうなるんだろう』と思う時期もありましたね」

――不安もある中、どうやって乗り越えてきたのでしょう。

「不安もあったけれど、『絶対に戻ってくる』という自信もありました。入院していたときはリハビリもできないので落ち込むこともあったけれど、クラブに戻ってからはリハビリしながら、気持ちを上げていくことができた。その間も代表の活動はあったので、気にしないようにしても気にしてしまう自分がいたり、焦りもあったかもしれません。でも、やっぱり五輪という目標があったのが、大きかったと思う。活動に参加したい気持ちが強かったので悔しさもあったけれど、最終的な目標があったからリハビリも頑張れたし、不安というよりは絶対に間に合わせたろうという気持ちを強く持てました」

――見事に復活を果たして五輪メンバーに選出されましたが、プレッシャーは感じませんか。

「それは最終予選のときも感じたし、それこそ連続出場というプレッシャーがのしかかっていましたが、そのときの緊張感というのが気持ち良かったんですよ。そういう緊張感の中でプレーできるのは限られた選手だけだし、そういう中でサッカーができるのはすごく幸せなことです。試合に勝てば、たくさんの人が祝福してくれるし、皆が喜んでいる姿を見たら、『俺、結構すごいことしたのかな』と思えたし充実感もあった。その期待に応え続けたい気持ちが本当に強くなったので、本大会でも期待に応えたいですね」

――マーキュリアルの新作となる『マーキュリアル スーパーフライ V』を履いてリオ五輪本大会に臨むことになりますが、履き心地を教えて下さい。

「僕は軽さとフィット感を重要視しているのですが、マーキュリアルはすごく軽くてフィット感も良いので、他のスパイクは履けないと思うくらいです。走りやすいというのが、このスパイクの一番の特長だと思いますが、実際に他のスパイクよりも断然走りやすく感じます。ポイントが歯形ということで、クイックの部分や切り返しの部分でも動きやすく、次の動きに移った際にスピードが出るというのはこのスパイクならではのものだと思います。僕は明るい色が好きだし、赤は格好良くて目立つので、五輪のピッチでも目立ちたいですね」

――新スパイクを履き、世界にどういう部分をアピールしていきたいですか。

「SBは1対1が評価されるポジションなので、世界のトップレベルの選手相手に1対1の守備でどれくらい戦えるかというのをアピールしたい。SBで一番大事なのは守備。守備でどれだけ相手を抑えられるか、それにプラスアルファで攻撃だと考えているので、まずは守備で海外の選手を止められるようにしたいです。その中で攻撃参加も自分のストロングポイントだと思っているので、攻守両面で負けないところを見せられればと思っています」

――最後に五輪への意気込みをお願いします。

「テグさんがメダルを取ると言っているように、僕たちも一緒になってメダル獲得のために戦っていきます。僕たちはチャレンジャーという立場ですが、波に乗ればすごいところまで行けるんじゃないかと思っています。あとはケガをしたときにたくさんの人が支えてくれたおかげで、ここに間に合うことができたので、しっかりプレーする姿を見せて恩返ししたいです」

(取材・文 折戸岳彦)