“イクメンうつ”になる夫、夫に殺意さえ持つ妻…ギリギリ育児の不幸
 夫婦共働きが当たり前のいま。育児にも男性の協働が欠かせません。行政も“イクメン”ブームを仕掛けたり、企業に育休制度の充実を働きかけたりしてきました。

 なのですが、まじめだからこその不幸でしょうか。結局、仕事も育児も頑張ろうとしすぎて、悲鳴をあげる男性が増えているのだそう。

 そんな切ない“イクメン”パパの姿から、いまの問題点を探った『ルポ父親たちの葛藤 仕事と家庭の両立は夢なのか』(著・おおたとしまさ/育児・教育ジャーナリスト、心理カウンセラー、「パパの悩み相談横丁」管理人)。

◆“イクメン”ブームでも仕事は減らず…

 子育て中の若い夫婦を取材して浮かび上がってきたのが、労働現場が世の中の変化に対応しきれていない現状でした。

 まず著者は、ワーク・ライフ・バランスなるものの「マッチョイズム」(筆者註・男らしさ)に疑問を抱いています。

<「仕事を効率化すれば成果を落とさなくても家族時間を捻出できる」という言説も流行った。しかし景気停滞機に入って以降、「就職氷河期」に象徴されるように人員は減らされ、トヨタの「カイゼン」に代表されるように業務はすでに極限まで効率化されている。(中略)
そこでさらに「家族時間を捻出しろ」というのは、絞りきった雑巾をさらに万力にかけ、最後の1滴を絞り出すようなものだ。>
(第1章 自らブラック企業化する父親たち ※改行・太字は編集部・以下同)

 つまり、行政や会社から命令されて休みを与えられない限り、自力で時間を作ることなどできないほどに労働は合理化されているのですね。なのに、美辞麗句を真に受けて努力を続け、うつ症状を発したりしてしまう人もいるといいます。

◆“VERY妻”たちのホンネ

 それだけではありません。指摘される「マッチョイズム」は、実は妻たちが重んじている価値観なのだといいます。男女平等で、“男らしさ”や“女らしさ”が死語だというのはタテマエ。まだまだ、根強く残っているのです。

<雑誌『VERY』を愛読するという3人のワーキングマザーは口をそろえてこう言った。

「世の中の男性がもっと家事や育児をして、男女平等になることはとてもいいことだと思います。でもやっぱり男性にはまずはしっかり稼いできてほしいかな。
スーツを着て、外でかっこよく仕事している男性じゃないと私個人としては惹かれない。」>
(第1章 自らブラック企業化する父親たち)

 ここでもまじめすぎる日本人男性の悲しい性が。“いっぱい稼ぐだけじゃなく、家事や育児も楽しんでこなせ”という過酷な要求に全力で応えるあまり、パニックになり、自分本来の姿を見失ってしまう男性もいるといいます。

◆夫婦がお互いに怒りを抱えている不幸

 その一例として本書が挙げるのは、2歳の息子を持つ30代男性。家事・育児はもちろん、深夜には妻へのマッサージをしながら、「週休0日で16時間働きづめの365日」を繰り返した挙句、仕事がまともに手につかなくなり、ついには配置転換されてしまったといいます。

 それでも妻は容赦しません。マッサージ中にうとうとすると、夫を叱り飛ばすのだそう。人生を呪いたくなる瞬間かもしれません。

「こんなの極端な例だ」「働くママはイクメンよりずっと大変だ」という女性たちのブーイングが聞こえてきそうですが、本書でも、家事・育児をしない夫に「殺意さえ覚える」妻の例が取り上げられています。そうして夫婦がお互いに怒りを抱えている現状こそ、今の育児の不幸でしょう。

 そもそも、“仕事も育児も100%”と考える方が無理なのではないでしょうか。仕事の片手間にやれるほど甘くない。子育ては、キャリアアップ以上の大事業のはず。

「何かをつかむためには、一度何かを手離さなければならない」と、著者は訴えます。育児に集中している間は、ある程度仕事をあきらめざるを得ないのだと。

◆結局、自分でどうにかするしかない?

 ただ、いったん仕事を手離したところで、また元のように戻れる職場ばかりなのでしょうか。しかも、そこまで思い切った決断をできる男性が、どれほどいるというのでしょうか。肝心なところで、著者は精神論に走ってしまいます。

<国や制度が世の中を変えてくれるのを待つのではなく、変化の主体は自分でなければいけない。(中略)
自分が少し変われば未来も少し変わる。現在の当事者がみんなで少しずつ変われば、未来はきっと大きく変わる。>
(第4章 会社の本音)

 自ら変化を起こす勇気のある人間が、奥さんにどやされながら夜遅くまでマッサージをするでしょうか? こういった“頑張ればなんとなかる”的なエールこそ、彼らを苦しめる「マッチョイズム」そのものなのではないでしょうか。

<TEXT/女子SPA!編集部>