視聴率全話20%超え「とと姉ちゃん」のどこが優れているのか

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連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第13週「常子、出版社を起こす」第81話 7月6日(水)放送より。 
脚本:西田征史 演出:大原拓


「とと姉ちゃん」は1話から80話まで全話20%を超えているそうで、大好評と言っていい。
なぜ、そんなにも安定した人気を保ち続けているのか、81話をサンプルに考察してみよう。

戦争が終わった翌年の昭和21年。まだまだ貧しいものの、日本は復興に向けて活気づいていた。
女家族4人、なんとか生き延びた常子(高畑充希)のもとに、女学校時代の親友・綾(阿部純子)が訪ねてくる。彼女は夫も家も父も亡くしていた。
ある日、常子が綾の家に差し入れをもって訪ねると、大家さんに虐めを受けている姿を目撃してしまう。
こんな状況の自分を見られたくなかったと告白する綾・・・。

とと姉ちゃん、ここが優秀1


常子に家に来てほしくなかった綾。でも住所を教えてしまっていたのでしょうがない。
10代の時、あんなに聡明だった(24回、常子のカンニング疑惑事件のエピソードなど)綾だから、常子に聞かれたからといって住所を教えてしまうのは迂闊であった。きっと戦争ですっかり判断能力が鈍ってしまったのであろう。泣けてくる。
戦争のダメージの大きさを具体的に描き過ぎると、視聴者が傷つくこともある。それを配慮して、でもさりげなく戦争のおそろしさを感じさせるために、戦争そのものでなく、綾が意地悪されているところや彼女の聡明さが失われていることにすり替えて描いているところがじつに優秀だ。

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綾の惨めなところを、身を隠すこともなくそのままドアの前にいて見てしまい、家にまであがってしまう常子。
なぜ、武士の情けで見ないふりをして一旦帰らないのか、なんてことを思ってイライラする視聴者の感情の揺れは、綾のいたたまれなさと共鳴する。
戦争が終わっても苦しみが続く人たち(とくに女性)の思いを具体的に描くと、視聴者が傷ついてしまうかもしれない。それを配慮して、登場人物のやりきれない思いを別の形で表現する高度な脚本である。

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綾によって、戦後復興の活気の影で、泣いている人たちがいることを痛感する常子。
苦しんでいる女たちのプロモーションビデオのような映像もていねいに挿入される。常子が甲東出版を辞めて独立、自分の出版社を立ち上げようと考えるまでの流れがなめらかだ。
常子が出版社を立ち上げ本を作ろうと考えるのは、本が大好きだからではなく、あくまで家族のため、お金をたくさん稼ぐため。こうすることで視聴者の間口が広がる。
本好きな子が出版をやるという話になると、それに関するディテールが重要視され、結果、本好きな人、出版関係者ばかりが喜んでしまい、そうじゃない人に親しみにくくなるおそれがある。例えば、漫画編集者と漫画家を描いた漫画をドラマ化した「重版出来!」(4月期の連ドラ)は主人公が体育会系であったにもかかわらず、漫画編集仕事に特化しマニアックになりすぎたきらいがあった。
綾や小倉一郎扮する貸本屋のお客さんが本を唯一の支えや楽しみにしている描写があり、それで充分なのだ。

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「このご時世、もうすでに失敗してるようなものじゃないですか」(常子)
時々、書き写したくなる名台詞も出てくる。

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「賭けに出て当たれば大金持ちになれるかもしれない」と野望に燃える常子。
登場人物が大きな賭けに出る話はスリルがあってみんな大好き。そうじゃなきゃ、宝くじ買う人や競馬場に集う人などがあんなにいやしないだろう。

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事業を起こしてお金を得ることに興味があるらしい常子が、やたらお金を貯めているような描写はこれまでない。あんまりガツガツし過ぎても好感度が低くなるので、常子くらい飄々としているほうがいいだろう。
蓄えは少しあるらしいことが81話で判明した。なんだかんだ言ってそれほど貧しくない(小橋家は全員、常に身ぎれいにしている)し、もしかして青柳のおばあさまの遺産が入ったのかな、なんて想像も楽しめる。
モチーフになった「暮らしの手帖」創業者のひとり大橋鎭子もこんなふうに実業のみに興味のあった人なのだろうか? と著書『「暮らしの手帖」とわたし』を読んでみたくなるではないか。

とまあ、こんな感じで、極端にいやがられることを徹底的に排除し、なんとなく口当たりの良いものを並べながら、どこまで人気をキープしていけるか。出版社編になった時、マニアックになるのか、やっぱりならないのか楽しみだ。
(木俣冬)