少女マンガヒロインが先輩を盗撮する『あげくの果てのカノン』

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『あげくの果てのカノン』1巻が出た。
『月刊スピリッツ』で連載中、禁断のSF暴走恋愛マンガだ。


一途な恋が美しい。なんてことは幻想だとはっきりしたのはいつからだろうか。ストーカーという言葉が定着してから?
『あげくの果てのカノン』の主人公・高月かのんは、境宗介先輩に恋している。一途だ。

恋するかのんは、絵としては、かわいい少女として描かれる。
しっかり少女マンガの主人公だ。

だが、その行動や思考は、少女マンガ主人公の無邪気さを超越する。
大粒の涙を流す。
先輩の盗撮写真をスクラップブックにコレクション。
先輩とのちょっとした会話も録音して繰り返し聞く。
先輩のことを話し始めると1ページの大ゴマに読み飛ばすこと前提の長々とした台詞が書き文字で描かれる。
先輩のことを言われると逆上しテーブルをひっくり返して暴れる。

恋する気持ちが、かのんを暴走させ、異常な行動に走らせているのか。
かのんが異常なので、恋することでどうにかギリギリ自分を保っているだけなのか。
1話目からルナティックで歪んだ不穏さに支配されている。

しかも、憧れの境先輩には奥さんがいる。
狂おしいまでの一方通行。
境先輩が彼女に好意を示しても、それを拒絶したほうが楽であると考えるほどに一方通行だ。
思いが通じることは、許されない。許されないほうがいい。

ややこしいことに、地球は平穏ではない。ゼリー状の異星生物の襲来で、東京は廃墟と化した。
さらにややこしいことに、先輩は、特務部隊隊員であり、「ゼリー」と戦って身体の一部を失って“修繕”される。

自分を保てない少女かのんも不穏だが、先輩も何を考えているのかさっぱり判らない。
もはや、境先輩は、異星生物のせいで境先輩ではないということに、かのんは薄々気づきながら、それを考えないようにしている。
世界のあり方そのものが不穏。
主人公の感じ方が不穏。
憧れの先輩も不穏。
だが、この不穏さは、自分の中の奥底に確実にある黒い塊だからこそ、「理解不可能」ではなく「不穏」なのだ。
1巻、おそらく物語はまだ序章だ。
この不穏の果てに、何が現れるのか。

帯では、押見修造、志村貴子、村田紗耶香が、熱を持った文章で絶賛している。

第1話の試し読みは、スピネット:『あげくの果てのカノン』で。
(米光一成)