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7月4日、米国は独立記念日の休日だった。そしてJuly 4thセールと共に米国の夏商戦が始まったが、今年は目当ての商品の値段を調べようとAmazonを訪れて戸惑った人たちが少なくなかったようだ。Amazonで販売されている多くの商品からリスト価格 (List price:日本のアマゾンの「参考価格」)の表示が消えている。

これまでだったらほとんどの商品が「参考価格100ドル、価格90ドル(10%オフ)」というように表示されていて、その時のディスカウント率をひと目で確認できた。ところが、価格のみの表示なので一般的な価格よりも割安なのかひと目では分からない。調べてみると、この変更は5月ぐらいから進んでいて、出店(出品)者の間ではしばらく前から話題になっていたようだ。もちろん出店者の反応は良くない。○%オフという割引率の表示は買い物客への訴求効果が高く、不満と戸惑いの声ばかりである。

Amazonは大量に商品を仕入れ、巨大な物流倉庫から効率的に配送するスケールメリットを活かしてきた。Amazon自身、「参考価格から○%オフ」という表示を武器にしてきたはずだ。それを、なぜ止めようとしているのか?

Amazonがコメントしていないので推測になるが、理由の1つとして、見せかけだけの割引きが問題視され始めた影響が考えられる。ディスカウント率が表示されていたら、消費者はメーカーの希望小売価格や正価から○%オフと受け止めるが、最近はオープンプライスを採用するメーカーが増えている。必ずしもリスト価格(参考価格)が希望小売価格であるとは限らない。そこで参考価格の定義があいまいなのをいいことに、ディスカウントしているように見せかける販売方法が横行し始めた。たとえば、オンラインストアや小売店で最も高い値段を参考価格と表示し、実際にはほぼ正価であるにも関わらず○%オフを大々的にアピールする。New York Timesが4月に掲載した「Some Online Bargains May Only Look Like One」という記事によると、あるネコ用トイレが参考価格2,159ドル「99%オフで27.67ドル」で販売されていた。出品者の価格設定ミスかもしれないが、他にも参考価格822ドルの犬用トリート、参考価格832ドルのコードレス電話用電池など、あり得ない参考価格が多数報告されている。そうした詐欺的または見せかけだけのディスカウントが疑われる小売店やオンラインストアを提訴する動きが昨年から増加しており、5月にはデパートチェーンのKohl’sがディスカウント価格問題の集団訴訟において615万ドルの支払いで和解した。Amazonのディスカウント表示も例外ではなく、利用者の不利益になるようなディスカウント表示に歯止めをかける必要に迫られていた。

○最安値の王者ではなくなったAmazon

またAmazonの事業戦略の変化も理由の1つと考えられる。同社は数年前から「より安く」より「より良い体験」を得られるストアへの大きなシフトを進めており、それと共にオンライン最安値の王者ではなくなったと様々なところで指摘され始めていた。競争力のある価格へのこだわりを失ったわけではないが、「どこよりも安い」はいずれ出血覚悟のディスカウントという限界にぶつかる。一方で優れた体験の提供には限りない可能性がある。オンラインストアで世界最大規模のAmazonは体験を改善する上で貴重な買い物客のユーザーデータをライバルよりも多く保持している。季節やニーズ、流行や人気、地域差、個人差、在庫状況など様々なデータを基に、細かく価格を変動させ、効果的に売り上げを最大限化できるプライシングが可能であり、それはAmazonだけが提供できる体験になり得る。

買い物客が底値買いを狙って買い控える状況は、大きくディスカウントしないと売れないという悪循環を生み出す。参考価格と割引率の表示がAmazonの武器であった時代もあったが、ほぼ全ての商品に割引率が表示されるようになってディスカウント率の表示が形骸化していたのも否めない。

今のAmazonはディスカウント競争を望んではいない。豊富な品揃え、買い物に出かけるのを手間と思わせるような迅速な配送、手厚いサポートといった快適なサービスをアピールし、また本や家電、玩具などだけではなく、デジタルコンテンツ、トイレットペーパーや洗剤、おむつとった消耗品、そして将来的には生鮮食品などにも、ユーザーの生活のあらゆるシーンに浸透しようとしている。

ディスカウント率の表示を止めたことは小さな表示の変化に過ぎないが、それはAmazonが数年の時間をかけて取り組んでいる大きなシフトにおいて「安いAmazon」から「快適なAmazon」へと軸足を移したことを意味する。同社をオンラインディスカウントストアと見なしていたユーザーはAmazonがつまらない店になったと感じるかもしれない。しかし、長い目でみたらAmazonのエコシステムに深く関わる利用者を増やすことが、Amazonの安定した成長につながるということなのだろう。

(Yoichi Yamashita)