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日本人の大西卓哉宇宙飛行士らが乗る、ロシアの「ソユーズMS-01」宇宙船の打ち上げが刻一刻と迫っている。すでに宇宙船を搭載したソユーズFGロケットは発射台に設置されており、打ち上げに向けた準備が進んでいる。予定どおりなら、7月7日10時36分(日本時間)にロケットが飛び立ち、その9分後には宇宙に到達。その2日後には国際宇宙ステーション(ISS)へドッキングする。

ソユーズMS-01には大西宇宙飛行士のほかに、船長を務めるアナトーリ・イヴァニシン宇宙飛行士(ロシア)、そして大西宇宙飛行士と共にフライト・エンジニアを務めるキャスリーン・ルビンズ宇宙飛行士(米NASA)の、合計3人が乗り込む。3人はISSに約4カ月滞在し、さまざまな実験や活動を行った後、今年11月に同じソユーズMS-01に乗り込み、地球に帰還する予定となっている。

およそ半世紀にもわたり、「ソユーズ」と名の付いた宇宙船は、宇宙飛行士を宇宙へ運び、そして帰還させ続けてきた。その歩みはいつも順調というわけではなく、これまで宇宙飛行士が死亡するほどの大きな事故を2度起こしている。それでも、世界で最も信頼性が高い宇宙船として活躍し、これまでに130機近くが打ち上げられた。ソユーズで飛行を経験した宇宙飛行士は300人を超える。

ソユーズはこれまでに、大きく5回の改良が加えられてきたが、最新にして、そしておそらく最後の改良型となるのがこの「ソユーズMS」宇宙船であり、そして大西宇宙飛行士らが乗るソユーズMS-01で、いよいよ初飛行を迎えようとしている。

○最新にして最後の改良を遂げたソユーズ宇宙船

本題に入る前に、まず宇宙船の呼び方について定義付けしておきたい。というのも、「ソユーズMS」は宇宙船の名前でもあり、また大西宇宙飛行士らを乗せた今回の1号機も「ソユーズMS」が、一応の正式名称となっているためである。

少しややこしいが、ソヴィエト・ロシアの宇宙機には、その1号機に「1」という数字を付けず、2号機から数字を付けていく、という伝統があり、これに沿ったものである。

さらにややこしいことを言うと、これまでのソユーズ宇宙船だけはなぜかこの「1号機に1を付けない」という伝統から外れ、「ソユーズ1」や「ソユーズTMA-1」が存在したのだが、MSの前の改良型である「ソユーズTMA-M」からは、この「1を付けない」という伝統が適用されることになった。理由は不明だが、ソユーズ1では死亡事故が起き、ソユーズTMA-1でも弾道再突入という、通常とは異なるやや危険な方法で帰還することになったため、1を付けないことで負の連鎖を断ち切ろうとしたのではと言われている。

ただ、NASAやJAXAでは混乱を避けるためか「Soyuz MS-01」や「ソユーズMS-01」と読んでおり、さらにロシア側でも、「ソユーズMS」が大多数であるものの、01を付けているものがあるなど、表記の揺れがみられる。本稿ではわかりやすさを優先し、宇宙船の名前を「ソユーズMS」、大西宇宙飛行士らが乗る1号機を「ソユーズMS-01」と書くこととしたい。

ソユーズMSはこれまで運用されていたソユーズ宇宙船と比べ、外見にそれほど大きな違いはない。しかし、宇宙船としての性能が高まったのはもちろん、ロシアの宇宙開発にとって悲願であり、また未来へとつながる、非常に重要な改良が多数盛り込まれている。

脱ウクライナ、ロシア製ランデヴー・ドッキング・システムを搭載
ソユーズMSにとって最大の、そしてあまり目立たないながら外見にとっても最大の変化は、自動ランデヴー・ドッキング・システムが新しくなったことである。

ソユーズが宇宙ステーションとランデヴー(接近)、そしてドッキングする際には「クールス」という装置を使用する。この装置は「2AO-VKA」、「AS-VKA」、「2ASF1-M-VKA」、そして3基の「AKR」の、合計6基のアンテナからなり、電波を使ってドッキング相手のステーションとの相対的な距離や速度、角度などを測り、そのデータをコンピューターで処理する。その結果に基づき、宇宙船は自動で操縦される。

これまでのソユーズに使われていたクールスは、正確には「クールスA」と呼ばれているが、このクールスAには大きく2つの欠点があった。まずひとつはアンテナが展開式、あるいは可動式であり、故障によってアンテナの展開や格納、可動ができなければ、ランデヴー・ドッキングができなくなる危険性を抱えているという点。実際に、大きな失敗や事故にはつながらなかったものの、アンテナが展開できない、あるいは格納できないという問題が過去に発生している。

また、クールスAの電子機器を製造しているのはウクライナの企業であり、ロシアにとっては入手しづらいという問題もあった。クールスAが開発されたころにはまだソヴィエト連邦が存在したが、ソ連崩壊後にウクライナは独立、そして同社はロシアに対して、クールスAの価格を吊り上げるようになった。クールスAはソユーズやプログレスにとって必要不可欠な装備であるため、ロシアは言い値で購入しなければならない事態となり、かつては一度使用したクールスAの電子機器を取り外し、スペース・シャトルで持ち帰って再使用するといったことも行われていた。

そこでロシアは、クールスAと互換性をもたせつつ、部品をすべてロシア製にし、かつ可動部を少なくした「クールスNA」の開発に着手した。搭載コンピューターの性能が向上し、また消費電力もサイズも小さくなった。また、クールスAにあった2AO-VKAと、3基のAKR-VKAの合計4基のアンテナが、AO-753Aと呼ばれるひとつのアンテナに置き換えられたことで外見も変わり、いくぶんすっきりした姿になった。AO-753は機体に固定されているため、展開機構に起因する問題が起こり得ない。

初の"カーナビ"を搭載
これまでのソユーズは、地上にあるアンテナを使って、その軌道を算出していた。つまり地上のアンテナから見える範囲にいなければ、自分の正確な位置や速度がわからなかったのである。

しかしソユーズMSでは、米国の全地球測位システムGPSや、ロシアの似たシステムであるGLONASSの電波を受信することができる「ASN-K」という装置を搭載しており、まるで車のカーナビのように、自分で自分の正確な位置を知ることができるようになった。また、宇宙船が地上に帰還したあともGPSやGLONASSの電波を受信することができるので、正確な着陸地点を求め、回収チームに伝えることもできるようになっている。

さらに、現在ソユーズは打ち上げからISSへのドッキングまで、最短で6時間かかっているが、このASN-Kを使うことで4時間にまで短縮することも可能だという。

通信可能時間が大幅に向上
従来のソユーズは、ロシア国内にあるアンテナとしか通信ができなかったため、ロシア以外の上空に入る際には通信ができないという制約を抱えていた。

しかしソユーズMSでは、新たに衛星通信用のアンテナ「EKTS」を装備し、静止軌道に配備されたロシアの通信衛星「ルーチ5」を中継することで、1日のうち83%ほどは、ロシアの地上局と通信ができるようになるという。またEKTSは米国の衛星通信システムTSRSや、欧州のDRSといった衛星とも通信できるようになっている。

また、従来の通信システムはウクライナ製だったが、EKTSは完全にロシア製となっている。

このほかにも、次のような改良が施されている。

・新しい太陽電池パドルによる出力の向上
・姿勢制御用スラスターを改良し、サイズを1種類にまとめ、配置も変更。そのうち1基が壊れてもドッキング可能に、また2基が壊れても安全に軌道離脱が可能に
・映像システムが新しくなり、船外・船内カメラからの映像がより鮮明に
・新型のバックアップ制御システム「ブーク」の追加
・スペース・デブリ(宇宙ゴミ)や宇宙塵などとの衝突に備え、宇宙船の外壁の強化
・音声やデータを記録でき、衝撃にも強い、航空機でいうブラック・ボックスにあたる「SZI-M」を搭載
・帰還モジュールに人工衛星を使った国際的な捜索救助システム「コスパス・サーサット」を搭載し、万が一予定から外れた場所に着陸しても、救難信号を出して、回収チームに伝える事が可能に
・ドッキング機構にバックアップ系統を追加し、ISSのドッキング面との結合の信頼性が向上
・宇宙船の外部に超小型衛星を搭載、放出できるコンテナーを搭載(10 x 10 cmのキューブサットを最大24機まで搭載可能)
・映像システムが新しくなり、船外・船内カメラからの映像がより鮮明に
・宇宙飛行士が船外を見るための光学式のペリスコープ(潜望鏡)を廃止し、映像を見て操縦する形に
・LEDを使った照明システムの搭載
・角速度センサーの改良

○プログレス補給船での試験

もちろんこれらの改良点は、有人のソユーズMSでいきなり搭載されるわけではない。ソユーズでしか使用しない改良は別として、クールスNAやEKSTなどの大規模な改良点は、事前に無人補給船「プログレスM-M」に適用され、試験と運用が行われた。また、ソユーズMSにおける改良点の大部分を搭載した「プログレスMS」補給船も開発され、ISSへの物資補給とソユーズMSの露払いを兼ね、すでに2機が打ち上げられている。

たとえばクールスNAは、2012年に打ち上げられた「プログレスM-15M」と、2013年の「プログレスM-21M」に試験的に搭載され、実際にISSとのドッキングで使われた。このときの試験結果は芳しくなく、何度かの試験の中で失敗と成功が半々ぐらいというものだったが、2015年12月に打ち上げられたプログレスMSの1号機「プログレスMS-01」では問題は起きず、難なくISSとのドッキングを果たしている。

ソユーズMSが造られ、そしてその1号機であるソユーズMS-01に大西宇宙飛行士らが乗り込むまでには、こうした多くの試験が重ねられた。ちなみに、ソユーズMS-01の打ち上げは当初6月24日に予定されていたが、ソフトウェアの問題と、追加試験のために7月7日へと延期されたという経緯がある。それを除けば、大きな問題は発生しておらず、現在のところは順調に準備が続いているという。

ソユーズMSの安全性は、ロシア側はもちろん、米国航空宇宙局(NASA)でも検証されている。言うまでもなく、JAXAでも改良点などについて情報を収集し、改良の妥当性やこれまでの試験の状況、安全性などを独自に調査し、問題ないとの結論を下している。

また、ソユーズは打ち上げから6時間でISSに到着できるが、今回は念には念を入れ、新しいシステムや装置がしっかり機能するかを確かめるために、2日間をかけてISSまで到達する。もちろん、その間に何か問題が発生すれば、すぐに軌道を離脱し、地球に帰還することも可能である。

○ロシアの宇宙開発の未来がかかった最初の打ち上げ

こうも慎重になるのは、人の命がかかっていることや、最近のロシアの宇宙技術の低迷を考えれば、当然のことであろう。すでに何度か本紙でお伝えしているように、ロシアの宇宙開発は近年、ロケットの打ち上げ失敗や衛星の故障、あるいはそこまで至らなくとも軽微な事故や故障などがたびたび発生している。昨年だけでも、4月にはソユーズ2.1aロケットが「プログレスM-27M」補給船の打ち上げに失敗し、5月には「プロトンM」ロケットが打ち上げに失敗。7月には油井亀美也宇宙飛行士が乗った「ソユーズTMA-17M」宇宙船が、打ち上げ後に太陽電池パドルの片方が開かないという問題を起こしている。さらに12月には「ソユーズ2.1v」ロケットが衛星の分離に失敗。さらに今年に入ってからもエンジンの早期停止で、あわや打ち上げ失敗という事故が2件も起きている。

もちろん、そもそもロシアのロケットや衛星の打ち上げ数が多い、ということを考慮する必要はあるが、しかし、ほぼ同じ数を打ち上げている米国や中国の失敗の少なさを考えると、ロシアの多さは際立っている。

ロシアでは数年前から宇宙産業の改革が始まっているが、今のところ目立った変化はまだ現れていない。とくに新しい技術は失敗の原因となりやすいことを考えると、今回のソユーズMS-01の打ち上げが成功し、そして2号機以降も安定した成功を続けることができるか、注意して見守る必要があるだろう。とくにソユーズMS-01には大西宇宙飛行士が搭乗するうえに、今後も日本人が搭乗する機会があるだろうから、日本にとっても決して他人事ではない。

また、ソユーズMSはソユーズ宇宙船にとって最後の改良型となるが、もちろんロシアにとって最後の宇宙船になるわけではない。現在ロシアでは、まったく新しい宇宙船「フィディラーツィヤ」(連邦)の開発が進んでいる。フィディラーツィヤは2020年代の完成が見込まれており、ソユーズMSで盛り込まれた改良点を受け継ぎつつ、すべてが新しく、そして大型化され、月はもちろん火星への飛行も可能となるとされる。

ソユーズMSが無事に、ソユーズの半世紀以上にわたる歴史を書き終え、そしてフィディラーツィヤの章へつなぐことができるか。ロシアの宇宙開発の未来がかかった最初の打ち上げが、まもなく行われる。

大西宇宙飛行士らが乗る「ソユーズMS」の打ち上げの模様は、以下のWebサイトで閲覧できます。

・大西宇宙飛行士が搭乗するソユーズ「MS-01宇宙船(47S)」の打上げライブ中継 - YouTube
・【JAXA】大西卓哉 宇宙飛行士搭乗『ソユーズ宇宙船』打ち上げ 生中継 - 2016/07/07 10:00開始 - ニコニコ生放送
・NASA Television | NASA

【参考】
・First Soyuz MS ready for launch
 
・Soyuz FG launch with Soyuz-MS-01 - July 7, 2016
 
・Russian Soyuz Spacecraft Gets a Makeover - Soyuz-MS Upgrade
 
・Soyuz MS - Spacecraft & Satellites
 
・国際宇宙ステーションへのクルー交代/ソユーズ宇宙船交換ミッション(47S) - 宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター - JAXA
 

(鳥嶋真也)