「エイリアン・インテリジェンス」としてのAI──ケヴィン・ケリー

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1993年、『WIRED』を創刊し編集長をつとめたケヴィン・ケリー。2016年7月の邦訳新刊の発刊を前に、テックグルのアイデアの数々を紹介する。ケリーの翻訳を多く手がける堺屋七左衛門の「七左衛門のメモ帳」から、クリエイティヴコモンズのもと転載。

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7/23開催! ケヴィン・ケリー刊行記念講演+トークセッション

現在もっとも尊敬されるデジタルカルチャーの論客である『WIRED』の創刊編集長ケヴィン・ケリー。2016年のSXSWにも登壇し話題をさらったテック界随一のグルが、今夏発売となる新刊『〈インターネット〉の次に来るもの』とともに来日。7月23日(土)は、ケリーの特別講演+ベストセラー『ザ・プラットフォーム』の著者・尾原和啓を迎えたトークセッションも開催(詳細はこちら)。ケヴィン・ケリー関連のアーカイヴ記事はこちらより。

2015年、ジョン・ブロックマン(『2000年間で最大の発明は何か』などの著作で知られる)による今年の質問は、「考える機械についてどう思いますか?」だった。これに対して、わたしは「人工的エイリアンといえるかもしれない」と回答した。わたしの回答全文を以下に再掲する。


人間の知能は「特異ではない」

考える機械をつくるときに最も重要なのは、その考える方法が人間とは異なるということである。

進化の歴史における偶然によって、人間は地球上で唯一の知能をもつ生物種として暮らしている。そのせいで人間の知能は特異だと考えがちだが、それは正しくない。

人間の知能は特異ではない。人間の知能は知能の集合体であるが、それは宇宙に存在しうる多様な知能や意識のなかでは、ごくわずかな片隅を占めているにすぎない。

既知の他の知性と比べて、より多くの種類の問題を解決できるので、人間はその知能を「汎用的」と呼びたがる。しかし、人工の知性が次々とつくられるにつれて、人間の思考は少しも汎用的でないことに気がつく。それは多様な思考のなかのひとつに過ぎない。

人工知能は「人とは違う考え方をする」

2014年時点の新しい人工知能(AI)の思考形態は、人間の思考とは異なっている。以前は人間にしかできないと考えられていたこと、例えばチェスをするとか、自動車を運転する、写真の内容を記述する、というような作業がAIによって遂行可能になっているが、その方法は人間と同じではない。

フェイスブックはAIを利用して、地球上の誰かが写っている写真を見て、約30億人のネット利用者のなかからどの人物かを正確に割り出すことを可能にした。

人間の頭脳ではこれだけの規模には対応できないので、この機能はかなり超人的に思える。人間は統計的思考が苦手であるから、非常に統計能力の高い知能をつくって、人間とは異なる方法で考えさせる必要がある。AIによる自動車運転の利点のひとつは、人間のように運転中に注意散漫になったりしないということだ。

必要なのは「人間にはまったく不可能な作業をする機械」

全体がネットでつながっている世界において、異なる方法で考えるということは、革新と富の源泉になる。単なる知能化では不十分だ。

商業的誘因によって、強力なAIがどこでも使われるようになった。あらゆる製品に安価なマイコンが組み込まれている。しかし、新しい種類の知能、まったく新しい思考方法を発明しようとすると、大きな困難が待っている。いまのところ、わたしたちは知能全体の体系がわかっていない。

人間の思考に見られる特徴の一部は、他の思考とも共通だろう(生物学で、左右対称、受精卵の分割、管状の腸などが共通であるのと同様)。しかし、存在しうる知能の範囲としては、人間の進化過程から相当離れた特徴をも包含していると思われる。

その思考は、必ずしも人間より速いとか、大きい、深いとは限らない。場合によっては、より単純ということもあるだろう。人間にとってもっとも重要な機械は、人間と同じ作業を速くする機械ではなくて、人間にはまったく不可能な作業をする機械である。同様に、もっとも重要な考える機械は、人間と同じことを速く考える機械ではなくて、人間が考えられないことを考える機械である。

量子重力、暗黒エネルギー、暗黒物質など、現在の壮大な謎を本当に解決するためには、もしかしたら人間の知能のほかに、また別の知能が必要なのかもしれない。そして、そののちに出現するきわめて複雑な問題は、さらにかけ離れた複雑な知能を必要とするのだろう。実際には、まず中間的な知能を発明して、その助けを借りながら、人間だけでは設計できない高度な知能を設計することになるのかもしれない。

エイリアン・インテリジェンス

今日、多くの科学上の発見は、その解決に数百人の知性を必要とするが、近い将来には、問題が複雑になって、解決のために数百種の異なる知性が必要になるかもしれない。そうなると、人間の文化は変革を迫られる。異質な知能による回答を受け入れるのは、人間にとって容易ではないだろう。

その兆候として、すでにわたしたちは、計算機による数学的証明を受け入れるのに困惑を感じている。異質な知能を扱うには、新しい技能が必要となるし、わたしたち人間自身がさらに幅を広げなければならない。

AIとはエイリアン・インテリジェンス(異質な知能)の略であるともいえそうだ。地球に似た星は、宇宙に無数に存在する。今後200年の間に、そこから来た地球外生物(ET)と遭遇するかどうかは確実ではないが、それまでに人間が異質な知能を製作することは、ほぼ100パーセント確実である。

この人工的エイリアンと向き合うとき、人間は、ETとの遭遇によって生じるのと同じ恩恵と課題に直面するだろう。人間の役割、信念、目標、自我の再検討を迫られる。

人間は何のために存在するのか? その回答としては、生物の進化では達成できなかった新しい種類の知能を発明することである、とわたしは考える。人間の役割は、異なる方法で考える機械をつくること、すなわちエイリアン・インテリジェンスをつくり出すことである。それは人工的エイリアンといってもよいだろう。

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7/23開催! ケヴィン・ケリー刊行記念講演+トークセッション

現在もっとも尊敬されるデジタルカルチャーの論客である『WIRED』の創刊編集長ケヴィン・ケリー。2016年のSXSWにも登壇し話題をさらったテック界随一のグルが、今夏発売となる新刊『〈インターネット〉の次に来るもの』とともに来日。7月23日(土)は、ケリーの特別講演+ベストセラー『ザ・プラットフォーム』の著者・尾原和啓を迎えたトークセッションも開催(詳細はこちら)。ケヴィン・ケリー関連のアーカイヴ記事はこちらより。