■NBA10大「B級」ニュース@前編

 2015−2016シーズンのNBAは、クリーブランド・キャバリアーズの優勝で幕を閉じた。地元に初の栄冠をもたらしたレブロン・ジェームズの鬼気迫るプレーは、後世に語り継がれることだろう。シーズンを振り返れば、さまざまな出来事があった。そこで今回は王道のトピックではなく、NBAを盛り上げてくれた「B級」な話題にスポットを当てたい。

(1)史上最悪の28連敗。苛立ちも絶頂の76ers

 シーズンスタートから連勝街道をひた走り、「開幕24連勝」のリーグ記録を樹立したゴールデンステート・ウォリアーズ。それとは対照的に、真逆の方向に激走したのが、フィラデルフィア・76ersだった。

 開幕戦を落とすと、以降は負けも負けたり18連敗。開幕からの連敗ワーストNBA記録に並んだだけでなく、前シーズンを10連敗で終えていたために「トータル28連敗」となり、北米4大プロスポーツにおける「史上最長連敗新記録」まで樹立してしまった。ちなみにこれまでの最長連敗記録は、NFLのタンパベイ・バッカニアーズが1976年から1977年にかけて記録した26連敗。

 そんな折、苛立つ76ersファンよりも先に、ルーキーのジャーリール・オカフォー(C)がブチ切れてしまった。11月25日、ボストン・セルティックスに敗れて開幕16連敗となった夜、オカフォーはチームメイトとボストン市内のバーに繰り出した。その際、居合わせた客に「おまえらは負け犬だ。永遠に勝てない!」と罵られたことに怒り、周囲の制止を振り切って相手をブッ飛ばしてしまったのである。結果、オカフォーは2試合の出場停止処分をリーグから言い渡されることになった。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 12月1日、76ersはロサンゼルス・レイカーズをホームに迎えた試合で、めでたくシーズン初勝利を挙げた。ただしその試合は、今季かぎりの引退を表明していたフィラデルフィア出身のコービー・ブライアント(SG)の"凱旋試合"とも呼ぶべき一戦。コービーが点を獲るたびに「MVPコール」が巻き起こるなかでの勝利だった。76ersにとっては、試合に勝ったのに後味の悪い結果となった。

(2)新ブロック王誕生。「ムトンボ」がNBAに帰ってきた

 コンゴ民主共和国出身のプロ5年目、トロント・ラプターズのビスマック・ビヨンボ(C)が突如覚醒した。レギュラーシーズン成績は平均5.5得点・8.0リバウンド・1.6ブロックと、さほど目立った数字ではない。だが、シーズン終盤から驚くべき活躍を見せたのである。

 まずは3月17日、インディアナ・ペイサーズ戦で25リバウンドをもぎ取り、球団新記録を樹立。さらに、カンファレンス・ファイナルのキャブスとの第3戦では、それを上回る26リバウンドを記録して自らの記録を更新したのだ。

 ビヨンボを一躍有名にしたのは、リバウンド以上にブロックショットである。コンゴ出身といえば、3度ブロック王に輝いた経歴を持つディケンベ・ムトンボが有名だ。その彼がブロック後に人差し指を顔の前で振るジェスチャーは、今なお多くのファンが覚えているだろう。ビヨンボは、「ムトンボに許可を取った」とブロック後に同じジェスチャーをし、人気選手の仲間入りを果たしたのだ。

 カンファレンス・ファイナルではレブロン・ジェームズ(SF)、ケビン・ラブ(PF)などのダンクをブロック。カンファレンス・セミファイナルでもドウェイン・ウェイド(SG)の「完全に決まった」と思われたダンクを豪快にブロックし、フロアに倒れるウェイドに指振りを披露している。

 ところが後日、インタビューを受けたムトンボは、「(ジェスチャーを)許可した覚えはない」と暴露。だが、ムトンボは優しかった。「ビヨンボは年の離れた弟のような存在。許可を取る必要はない。好きなだけマネていい」と続けた。どうやら来季も、ビヨンボの指振りを見ることができそうだ。

(3)コービー最後は60得点で幕引き。「再建」に踏み出した名門レイカーズ

 またひとり、スーパースターがコートを去った。37歳となったコービー・ブライアントが、レギュラーシーズン最終戦の4月13日、ユタ・ジャズ戦を最後にユニフォームを脱いだ。

 1996年、ロサンゼルス・レイカーズにドラフト 1巡目 13位で指名されたコービーは、以後レイカーズ一筋で20年間プレー。NBA歴代3位となる通算3万3643得点を記録し、NBAファイナルも5度制覇している。そんなコービーが、キャリア最後の試合で60得点という強烈な置き土産を残し、現役生活を終えた。

 ただ、レイカーズ経営陣はコービーの引退を悲しむ一方で、心のなかではガッツポーズをしているのかもしれない。なぜならば、今季のレイカーズは17勝 65敗でウェスタン最下位に沈み、3年連続でプレーオフを逃しているからだ。

 その要因のひとつは、2500万ドル(約25億6000万円)というコービーの高額な年俸である。それが足かせとなって補強がままならず、かといって英雄フランチャイルズビルダーの放出など地元ファンが許すはずもなく、まったく身動きが取れなかった。

 コービーがコートから去ることで、来季はついに名門レイカーズの「再建」がスタートする。手始めにチームは、ルーク・ウォルトンを新ヘッドコーチ(HC)に迎えた。ウォルトンは現役時代にレイカーズで9年間プレーし、2009年と2010年にはリーグ2連覇に貢献。まだ36歳ながら、メンフィス大やNBADL(※)でのコーチ経験を経て、その後はウォリアーズでアシスタントコーチを務めた。今季はスティーブ・カーHCの療養中に暫定HCとして指揮をふるい、39勝4敗という結果を残している。

※NBADL=将来のNBA選手を育成する目的で作られたNBA後援の通称「Dリーグ」。

 また、6月23日に行なわれたドラフトで全体2位指名したブランドン・イングラム(SF)の評判も高い。細身ながら長身で身体能力が高く、ボールハンドリングの技術も高いため、ケビン・デュラント(オクラホマシティ・サンダー/SF)のように成長するだろうと言われている。

 さらにレイカーズは今オフ、FA選手を獲得するため精力的に動き出している。来季、いよいよパープル&ゴールドの逆襲が始まりそうだ。

(4)アイバーソンらの殿堂入りで、他のスター選手がとばっちり?

 4月4日、シャキール・オニール、アレン・アイバーソン、ヤオ・ミンらの殿堂入りが発表された。元スーパースターの3人が現役時代に残した成績からすれば、殿堂入りは当然。しかし、そのせいでまさかの"とばっちり"を受けたのが、ティム・ハーダウェイ、ケビン・ジョンソン、クリス・ウェバーら往年のスター選手だ。

 その理由は、今年から候補資格を得られる基準がいくつか変更され、現役引退から5シーズンではなく4シーズンが経過すれば、殿堂入り候補の資格を得られるようになったため。規定の変更により、シャックら上記3人が1年前倒しで資格を有することとなり、殿堂入りをウワサされていたウェバーたちは、少なくともあと1年は殿堂入りを待たなくてはならなくなったのだ。

 なぜ資格の基準が変更されたかは、「9月に行なわれる殿堂入り式典のチケットを売るため、集客力のあるアイバーソンを担ぎ出したいからではないか」とも囁かれている。

 アイバーソンがNBAを引退したのは2009−2010シーズンなので、一見するとルールを変更せずとも資格を有しているように思われる。しかし、アイバーソンはわずか10試合ながら、2010−2011シーズンにトルコでプレーしているのだ。

 当初は「別大陸での試合はカウントしない」というルールを制定する予定だったが、最終的には委員による投票で、現役引退から4シーズンで殿堂入りの資格を有する運びとなった。この変更によって、アイバーソンだけでなく、本来ならば2017年に資格を有するはずだったシャックやヤオも資格を有することに。この3人と比較されれば、どうしても、ウェバーらの影はかすんでしまう。

 もちろん来年、殿堂入りできる可能性は十分にある。しかし、ジェイソン・キッドやスティーブ・ナッシュ、さらにはコービー・ブライアントなども、数年後に資格を有すようになる。今年の規定変更で生じた歪みのせいで、殿堂入りを逃す元スター選手が生まれなければいいのだが......。

(5)新時代到来。「スリーポイントを制すチームがリーグを制す」

「リバウンドを制する者はゲームを制す」のフレーズは懐かしいが、近年のNBAでは、「スリーポイント(3P)を制すチームがリーグを制す」が格言になりつつある。

 1試合における3Pシュートが放たれる本数は年々増え続け、1993−1994シーズンには1チーム平均9.9本だったのに対し、今季は平均24.1本まで上昇。つまり、約20年で2.5倍もの3Pが打たれるようになっている。

 今季、1試合でもっとも多くの3Pを打ったのは、ウォリアーズの平均31.6本。今年のファイナルを制したキャブスの29.6本もリーグ3位だったことからも、いかに3Pが勝利のために大事な攻撃オプションなのかがわかる。

 現在、3Pの代名詞といってもいいのが、ご存知ウォリアーズのステファン・カリー(PG)だ。今季のカリーは402本もの3Pを決め、自身が昨季記録した286本を大幅に更新し、1シーズンの3P成功数NBA記録も更新している。

 しかも、昨季のカリーの3P成功率は44.3%で、マークがより厳しくなった今季の成功率が45.4%なのだから恐れいる。ちなみに、フィールドゴール成功率が50%を超える選手は、リーグでわずかに26人しかいない。単純計算すると、2Pを50%の確率で決められる選手が100本のシュートを打てば100得点となる一方、成功率45.4%のカリーが3Pを100本打てば136得点を奪えることになる。統計学を学んでいなくとも、自ずと効率的な攻撃方法として、2Pよりも3Pに重きが置かれるのは自明の理だ。

「では、なぜそんなに入るのか?」という疑問に明確な答えを持ち合わせるコーチは皆無だろうが、カリーの父親である元NBA選手のデル・カリーが3Pシューターだったこと、さらにはステファンの弟のセス・カリーも3Pが得意となると、「高確率で決める秘訣はDNAが関係するのでは?」と勘ぐってしまう。

 今季、3Pの成功本数がもっとも少なかったのは、440本のミルウォーキー・バックス。バックスは優秀なコーチよりも、遺伝学者を雇ったほうがいいかもしれない。

水野光博●文 text by Mizuno Mitsuhiro