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●ネットラジオ普及の兆し、流れに乗るラジオ局は?
ラジオ放送局の未来を考える場合、注目すべきはインターネットとの融合が進むかどうかだ。地上波放送の広告費はピーク時に比べ半減しており、現状のままでかつての勢いを取り戻すのは容易ではないというのが業界関係者の見方。一方で、日本におけるネットラジオの広告市場は誕生してもいないというのが現状だ。ラジオの伸びしろがネット上にあるとすれば、その市場を開拓するのは誰か。ネットと親和性の高いコンテンツが豊富な文化放送の優位性は際立っている。

○ネットラジオ時代に存在感を増すラジオ局

ネットラジオは米国をはじめとする海外で人気のあるサービスだ。米国では1兆円を超える音声広告市場を抱える巨大な経済圏を形成。聴いている人に合わせて音声広告を流すターゲティング配信の技術も一般化している。

日本ではネットラジオがようやく普及の兆しを見せはじめたところ。最近の動きとしては、TBSラジオが収益化が難しいポッドキャストの終了を決め、同サービスで育ててきたコンテンツを自社運営のネットラジオ「TBSラジオクラウド」に移行すると発表した。同社は音声広告のターゲティング配信技術を活用し、音声コンテンツの収益化に挑戦する姿勢を示している。

ネットラジオが普及すれば、既存のラジオ放送局は強力なコンテンツホルダーとして存在感を発揮することができそうだ。なかでも、アニメやゲームなどに関する番組が豊富なネットラジオ「超!A&G+」を運営する文化放送には大きな可能性を感じる。

○A&Gの知見・人脈をネットで活用する文化放送

「A&G」とはアニメ&ゲームの略称。文化放送は20年以上も前からアニメやゲームに関連するラジオ番組を放送していたが、1996年に「新世紀エヴァンゲリオン」が一大ブームを巻き起こし、アニメ・声優バブルとでもいうべき状況が到来すると、文化放送にはリスナーとスポンサーから声優を起用した番組作りに対する要望が押し寄せた。

アニメでは決まったセリフしか話さない声優の素顔を知りたいという要望に、文化放送は番組制作で対応した。このような経緯で文化放送のA&G関連番組は増えていき、こういった番組が集まる時間帯は「A&Gゾーン」と呼ばれるようになった。「盛り上がりを狙って(A&G番組を)仕掛けた部分もあったが、外からの声が(それ以上に)強かったのが実態」。当時をよく知る文化放送の片寄氏は述懐する。先見の明でA&G関連の番組を充実させてきた文化放送が、その知見や人脈などを活用して運営するネットラジオが超!A&G+だ。

●独自コンテンツのA&G事業、ネットとの親和性は抜群
○超!A&G+で一定規模のリスナーを獲得

超!A&G+は週7日間にわたり、ほぼ一日中放送している文化放送のネットラジオだ。声優やアーティストなどがパーソナリティを務めるオリジナル番組の数は130を超える。超!A&G+は「普通のラジオ放送モデルをそのままネットに移行したような構造」と片寄氏も話していたが、文化放送は地上波と超!A&G+の2チャンネルで放送を行っているラジオ局だといえる。同社は埼玉西武ライオンズに特化したナイター中継「ライオンズナイター」もネットで同時配信しているため、厳密にいえばチャンネルを3つ持っているような状況だ。

超!A&G+はどのくらいのリスナーを抱えているのか。詳しい数は聞けなかったが、超!A&G+のパソコン・スマートフォンでの視聴登録者数は900万を超えているという。休眠状態のリスナーも存在すると思われるため、この数字がリスナーの人数を表すと短絡的に考えるわけにもいかないが、文化放送のネットラジオが一定規模のリスナーを抱えていることは間違いないだろう。

○音声と視覚、どちらの広告にも対応可能な仕組み

ネットラジオの収益化には広告収入が不可欠となるが、片寄氏によると超!A&G+にはタイム提供の広告(地上波ラジオでも流れているような、いわゆるコマーシャル)が入っており、現時点でも黒字化はできているという。「マネタイズにゴールはない」と語る片寄氏は、超!A&G+に音声広告のターゲティング配信を導入することについても前向きに検討しているようだ。

超!A&G+はネットラジオという位置づけだが、映像を流す機能も備えている。実際に番組をPC経由で聴いてみると、サイトではパーソナリティが話をする様子などを観ることができた。超!A&G+の収益化に向けては、音声広告のみならず、視覚に訴える広告を導入することも可能だ。

○ネットにとどまらないA&Gの収益力

A&G関連のコンテンツには、イベントを通じた実際の集客力も期待できる。例えば地上波で土曜の夜に放送している番組「神谷浩史・小野大輔のDear Girl〜Stories〜」では、埼玉スーパーアリーナで2日間にわたって公開イベント「DGS EXPO 2016」を開催し、両日共に会場を満員にした実績がある。関連イベントと全国・海外(香港、台湾、韓国)のライブビューイングを合わせて、総勢5万人以上を動員したDGS EXPO 2016のようなイベントが、超!A&G+からも誕生する可能性はあるはずだ。

●ラジオ2.0時代を先取りしていた文化放送
○ポッドキャストの人気番組にも収益化の道

ネット配信は地上波に次ぐ文化放送の新たな収益源となるのだろうか。この質問に片寄氏は「もうなっている」と即答した。A&G関連のコンテンツは、同社売上高の少なくとも1〜2割を稼ぎ出す優良事業であり、超!A&G+はA&Gとリスナーをつなぐ窓口として重要な役割を果たしている。広告によるマネタイズが成功し、超!A&G+自体の収益力が高まれば、A&G関連事業が文化放送全体の売上高をさらに押し上げることは確実だ。

「大竹まこと ゴールデンラジオ」など、多くの人気番組をポッドキャストで配信している文化放送だが、同社の場合はポッドキャストもネット配信ビジネスの一部として考える必要がある。ポッドキャストは有料コンテンツ化や広告挿入による収益化が難しい分野だが、ネット配信全体で利益が上がっている状況からすると、「(ポッドキャストはコストの掛かるサービスだが)金銭的にも労力的にもそこまで負担ではない」(片寄氏)というのが実情のようだ。

片寄氏はポッドキャストの人気コンテンツも含め、音声配信コンテンツをいかにマネタイズしていくかを考えるほうが前向きだとの認識を示した。将来的にポッドキャスト配信から撤退することがあったとしても、すでに多くのファンを獲得している人気コンテンツについては、同社の配信ビジネスに組み込む方法を探したいというのが同氏の考えのようだ。A&G関連に加えて、地上波で放送しているワイド番組などのコンテンツも配信ビジネスに紐付かせることができれば、同社のネットラジオはA&G関連の番組に興味がないリスナーにも訴求可能なチャンネルとなる。

○時代はラジオ2.0、文化放送は先行できるか

ネットラジオは海外で人気に火が付き、このムーブメントに日本は乗り遅れているものとばかり思っていたが、文化放送がネットラジオに取り組み始めたのは約20年前だと聞いて驚いた。当時は日本でネットが普及し始めた頃だが、文化放送は固定電話回線の使用料が定額制となる深夜の時間帯を利用し、生放送でネットラジオを配信していたのだ。

片寄氏は地上波放送を「ラジオ1.0」と位置づけた上で、ネットラジオが普及する可能性が出てきた現状を「ラジオ2.0に入ってきている」と表現した。TBSラジオクラウドが始まったり、音声広告のターゲティング配信技術が確立したりと、日本ではネットラジオが黎明期を迎えつつあるような情勢だが、これは見方を変えると、ネットラジオの老舗ともいうべき文化放送に時代が追いついてきたと考えることもできる。A&G関連事業へのいち早い取り組みで先見の明を示した同社が、ネットラジオでも他社に先行することができるか。ネットと相性抜群のコンテンツを豊富に抱える文化放送の実力が試される。

(藤田真吾)