常に文章が流れている? 期待の若手SF作家の頭の中

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ビュー作『盤上の夜』がいきなり直木賞候補に、そして『ヨハネスブルグの天使たち』、『エクソダス症候群』と立て続けに話題作を発表し、今もっとも注目すべき作家の一人である宮内悠介氏。

 その宮内氏が新作『アメリカ最後の実験』(新潮社刊)でテーマにしたのは「音楽」だ。
単身アメリカに乗り込み、超難関音楽学校の入試に挑む日本人ピアニスト・脩はライバルとなる受験生とその才能を競い合い、選考を勝ち進む。しかし、そこで予期せぬ殺人事件が起こり、それは奇妙な形で連鎖していく。
 
 謎の楽器「パンドラ」とは?そしてタイトルにもなっている「アメリカ最後の実験」という言葉の持つ意味は?
前回に引き続き宮内氏ご本人が登場し、この物語について語ってくれた。

――宮内さんの音楽への愛情が感じられる作品でもありました。作中で、音楽はグレッグ音楽院の入試を勝ち抜く武器であり、人と交流するための挨拶のようなものであり、クライマックスでは祈りにもなります。宮内さんにとっての音楽とはどのようなものなのでしょうか。

宮内:小さい頃に幅30センチくらいの小さなオルガンを買ってもらったことがきっかけで、音楽のことを何も知らないまま作曲を始めて、それから高校3年生くらいまでずっと作曲をし続けていました。ある種ののめり込んだ人間にとって、音楽は芸術である以上にオブセッションです。OSレベルで「作曲しろ」という命令が自分の中に組みこまれてしまっているようなところがある。

2006年頃だったと思うのですが、私はプログラマーとしてソフト開発をしていまして、仕事があまりに忙しいのに加えて、当時同居していたガールフレンドが去ってしまい、どん底だった時がありました。そんな状況で「自分は音楽については平均以上には考えてきたはずだから、それについて書くまでは死ねない」という思いから生まれたのが、先ほど話した600枚くらいの原稿で、それをプロットから書き直したものが『アメリカ最後の実験』です。ですから、この小説の執筆は、自分の音楽への執着やオブセッションといった呪いのようなものを解くような作業でもあったのだと思います。

――それほどまで音楽に取りつかれていた宮内さんが、最近気になっている音楽を知りたいところです。

宮内:最近、小説を書き始める時に「ザ・イミテイト」というグループの曲をよく聴いています。映画の予告編などで、3秒くらいでパッと盛り上がる音楽がありますよね。そういう音楽を専門に作っているグループなのですが、聴くと一気にキックが入るといいますか、書くモードに入れるんです。でも、あんまり流しっぱなしにしていると、何しろ映画の予告編のものすごくかっこいい音楽ばかりですから、自分までものすごくかっこいい文章を書いているかのように錯覚してしまう(笑)。だから5分くらいで止めています。

それと、最近というほどでもないですが「フライング・ロータス」もおもしろいです。以前はこういう質問にどう答えたらかっこいいか、みたいなことをよく考えていたのですが、一度音楽を小説にしてしまった今は割と自由に話せるようになりました。「ドラゴンナイト」も好きです!

――2月27日に青山ブックセンターで開催されたトークイベントで『アメリカ最後の実験』を音楽のコード進行で表現されていたのは驚きでした。他の作品についてもコードで表すことはできますか?

宮内:あれはコード進行ということになってしまったのですが、本当は転調のルート音で、「章ごとの調」なのです。つまり、各章の中にコード進行があって、章が変わると転調する。「コード進行」というのは正確ではないので訂正しようかどうか迷っていたのですが、“このコード進行はシューティングゲームの「東方」の「魔理沙」だ”みたいなことをおっしゃる方も出てきて、おもしろいのでそのままにしてしまいました。

――ご自身の他の小説をコードで表すならどのようになりますか?

宮内:ワンコンセプトで抽象ゲームと現実世界の中間を歩く『盤上の夜』はEのワンコードで一発録りでしょうか。『エクソダス症候群』は無調に近いイメージです。『ヨハネスブルグの天使たち』は海外を舞台にした連作と見せかけて、最後に日本に帰ってきますので、キーはEにしつつF#mあたりから始まって展開して、最後にEに行けばかっこいいんじゃないかと思います(笑)。

――また、このイベントでは、「子ども時代からずっと頭の中に文章が流れていた」ということをお話されていました。これはどういった感覚だったのでしょうか。

宮内:子ども時代というよりは、小説を書きたいと思い始めた頃からです。説明が難しいのですが、こうしてお話ししている情景ですとか、目に入った風景を常に描写している自分がもう一人いるという感じです。コンピュータで、自分が使っているのと別のアプリケーションが立ち上がっているのと近いかもしれません。

でも、30歳くらいの時に仕事が忙しすぎて体を壊したことがあるのですが、そのさらに数年前、やはりすごく忙しくしていた時に、ふと気がついたらずっと頭の中で流れていた文章が止まってしまっていまして。これはまずいと思って、ある意味、再起をかけてと言いますか、そうして書き始めたのがこの小説の原型になった『(旧)アメリカ最後の実験』なんです。

――青山ブックセンター以外にも、各書店で精力的にイベントをされていますよね。書店には子ども時代からそれこそ数え切れないほど通ってきているかと思いますが、印象に残っているお店はありますか?

宮内:プログラマー時代、大塚に住んでいた頃は山下書店によく通っていました。24時間営業なので、遅くまで働いていても寄れるんですよ。職場も大塚だったので、帰り道にそこで「精神性」を少し補充してから帰るということをしていました(笑)。もう少し時間が早ければ、池袋まで歩いてジュンク堂にいったりも。『キン肉マン』を手にレジに並ぼうとして、直木賞ノミネートの報せをいただいた吉祥寺のブックスルーエさんも忘れがたいです。
今は仕事がら色々な書店さんに良くしていただいているので、この質問はお答えしづらいです(笑)。

子ども時代、ニューヨークに住んでいた頃は8丁目にある「Forbidden Planet」が好きでした。キッチュな雑貨がたくさんあって、日本でいうと「ヴィレッジヴァンガード」みたいなお店です。今もあると聞きます。

最近知ったのですが、このお店は実はSF小説を扱う書店であったと。当時は書店と知らずに通っていたのですが。

――今年に入って純文学系の文芸誌にも作品が掲載されるなど、これまで以上に活動の幅が広がっている宮内さんですが、小説家として目指すものがありましたら教えていただきたいです。

宮内:こういった職業ですから、目の前のことで手一杯になりがちなのですが、とにかく小説家として生きていきたいという遠大なる野望を抱いています。書きたいことはたくさんありますので、一年でも長く、一行でも多くと。

でも、それだけだと「目指すもの」としては地味ですね(笑)。常々思っているのですが、できれば多く翻訳もされたいです。日本の読者の方に喜んでもらえるものを書くのがまず先ですが、英語圏の方の目に耐えうるのかということも試してみたいですし、世界で勝負してみたいという思いがあります。

――最後になりますが『アメリカ最後の実験』をまだ読んでいない読者の方々にメッセージをお願いします。

宮内:「音楽小説」ということで音楽を前面に出していますし、音楽用語も出てくるのですが、一つの分野が異様に好きな人間というのは、それを伝えずにはいられないものでして。「音楽ってこんなにおもしろいものなんだ」と伝えたい気持ちで書いたので、おそらく、音楽に詳しくない人にも入りやすくなっているのではないかと思います。冒険小説、青春小説、あるいは一種のSFやミステリとしても読めるので、気軽に手にとってみていただきたいです。

それと、これは別のインタビューでもお話ししたのですが、「アメリカ」や「音楽」というテーマに加えて、この小説の隠れたテーマとして「家族」があります。それはそのまま「家族」でもありますし「バンド」という擬似家族でもあります。あるいはアメリカという巨大な「擬似家族」の話でもあって、それぞれの「家族」のありようの中の「個人」について書いています。家族について思うところがある方、悩んでいる方に対して何か小さなヒントにでもなりましたら、作者として本望です。
(新刊JP編集部)

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