「同じ場所で2年連続リタイアするのは情けない思いもあります」

 第5シードの錦織圭(ATPランキング6位、6月27日付、以下同)は、ウインブルドン4回戦で、第9シードのマリン・チリッチ(13位、クロアチア)と対戦。1−6、1−5の時点で、左わき腹の痛みのため途中棄権を申し出て、自身初のベスト8進出はならなかった。

 錦織のウインブルドンでの棄権はこれで3回目。グランドスラムデビューとなった2008年大会1回戦では、左側の腹筋痛のため途中棄権し、昨年は左ふくらはぎの筋膜炎のため2回戦を棄権した。

 今回は棄権したくない思いが強かったのか、錦織にしてはめずらしく無茶ともいえるような精神状態で戦っていた。

「筋肉が切れるぐらいまではやろうかと思っていた。多少悪くなっても、そんなに大事にはならないとドクターに言われていたので。よく考えたら、あれで勝てるわけがなかった......」

 棄権の予兆は試合前からあった。4回戦の前日練習では、1時間の予定を40分で打ち切り、試合当日の直前練習は、わずか15分で切り上げていた。錦織に帯同するダンテ・ボッティーニコーチの、「正直に言うとわかりません。ケガの痛みの感じ方は本人にしかわからないですからね。(試合当日までには)さらによくなって、いい試合ができるといいですね」という願いとは裏腹に、試合前日から錦織の症状は悪化し始めていた。

「前の試合と比べものにならないほど痛かった。難しいのはわかっていた。最初からサーブもほとんど打てなかった」

 こう語った錦織は、1球もサーブを思い切り打てず、錦織のファーストサーブの最高時速は165kmで、チリッチのセカンドサーブの最高時速175kmより遅かった。さらに、3回戦まで打てていたストロークも全力で打てなくなり、これでは2年連続ウインブルドンベスト8に進出しているチリッチに太刀打ちできるわけがなかった。

 ケガを抱えながら戦った錦織のウインブルドンは終わった。「今大会、たぶん人生の中で一番ケガの痛みと闘った」と振り返ったが、当初から錦織にはある覚悟があった。

「グランドスラムじゃなかったら、たぶん1回戦から出てなかったと思います。かなり最初から痛みがあったので。2、3試合目は少しだけよくなりましたけど......。やっぱり、このグランドスラムで、特にウインブルドンで頑張りたいという気持ちはありました。そのモチベーションだけでした」

 4〜5月のヨーロッパでのクレーシーズンでは、マスターズ1000大会で2連続ベスト4という好成績を収めただけでなく、懸念されたケガもなく、錦織は充実した時間を過ごした。しかし、グラス(天然芝)シーズンに入った途端、昨年に続いて故障が発生した。

「もちろん、来年以降、対策を練ることは大事」

 錦織自身が語るように、2017年もクレーシーズンで好成績を収めたのなら、体やメンタルの回復を優先させるため、ノバク・ジョコビッチ(1位、セルビア)のように、グラスの前哨戦には出場しないで、ウインブルドンへ臨むことを検討する必要があるかもしれない。

「(痛みが)いつまで長引くかわからないですけど、たぶん筋肉の痛みなので、これから帰ってチェックして、様子を見たい」

 まず錦織には休養が必要で、治療に専念してもらいたいが、今年の夏は超過密スケジュールが控えている。トロント大会(7月25〜31日)とシンシナティ大会(8月14〜21日)のマスターズ1000の2大会の間に、リオデジャネイロオリンピック(8月4〜14日)が入るため、トップ選手には負担が大きくなる。錦織が万全なコンディションでないのなら、乗り切ることはかなり困難になるだろう。

 錦織はケガの影響からか、ゴルフの松山英樹がオリンピック出場辞退したことを引き合いに出して、思わず本音がポロリと漏れた。

「松山くんが出ないのを聞いて、僕も(オリンピックに)あんまり出たくなくなった。ちょっと会えるのを楽しみにしていたので。夏が大変なので、そこに向けて準備をしっかりしたい」

 錦織は今回のウインブルドンで、あまり後先のことを考えないで、力を出し尽くしたプレーをした。だからこそ、自己最高タイとなる2度目のベスト16に進出できたといえる。ケガを恐れ過ぎていた以前に比べれば、その勇気を評価したいと思う。

 しかし、一方で、今年27歳になるという現実も直視しなければならない。20代後半になれば、テニス選手の体力や回復力は、少しずつ落ち始めることが多い。錦織は、今の高いレベルにあるフィジカルを少しでも長く維持できるように取り組むべきで、そのためにも無理は禁物だ。

 錦織は昨年同様、今年もグランドスラムでベスト4以上の成績がまだ残せていない。トップ10に定着している彼が、これで満足しているとは到底思えない。

「あんまり悲観しすぎないように。ポジティブに夏に入れるといいですね」

 錦織の能力が最大限に発揮されるであろう、US(全米)オープン(8月29日〜9月11日)で、悲願であるグランドスラム初制覇へ少しでも近づけることを望みたい。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi