全力でバカをやる、笑いを取りにいく――中村倫也、劇団☆新感線の舞台に挑む!
ド派手な演出、痛快なストーリー。笑いと感動の絶妙なバランスで熱狂的なファンが多く、公演チケットの入手困難ぶりも毎度話題となる劇団☆新感線。2016年夏秋の最新作『Vamp Bamboo Burn〜ヴァン!バン!バーン!〜』は、宮藤官九郎氏が書き下ろすヴァンパイアもので、主演を務める生田斗真はビジュアル系ロックバンドのボーカリスト…どんな内容になるか予想もつかないが、期待に胸は高鳴るばかり! 劇団☆新感線初参加の中村倫也に、本作への意気込みからプライベートでの“癒やしの存在”まで、じっくりと話を聞いた。

撮影/すずき大すけ 取材・文/江尻亜由子
スタイリング/戸倉祥仁(holy.) ヘアメイク/松田 陵       

消費カロリー高く、全力でバカやろうぜ。



――今回の舞台、主演の生田斗真さん演じる藤志櫻(とうしろう)は、平安時代から生き続けるヴァンパイアであり、現代ではカリスマ的人気を誇る、ビジュアル系バンドのボーカリストという役どころです。中村さん演じる竹井京次郎は、どんなキャラクターでしょうか?

現代で、粟根まことさん演じる古参ヤクザと対立する半グレ組織のリーダーです。かぐや姫(小池栄子)の生まれ変わりを探している藤志櫻と偶然出会い、バチバチしていく…みたいな感じですね。

――その半グレ組織の名前が…。

ナメクジ連合(笑)。ヒドいですよね。どういうことなんだ、って話ですよ。「名前は竹井京次郎か〜カッコいいな〜」と思ったら、ナメクジかよ!?って。まずはナメクジの形態模写からね、一生懸命やっていきたいなと思ってます。

――出演のオファーが来たときは、どう思われました?

一観客として劇団☆新感線が好きでしたし、客演として参加したいとずっと思っていたので、うれしかったです。Rシリーズ(音楽モノ)っていうのも楽しみですし、不安もあります。

――不安というのは…?

単純に、面白くできるかどうか、自分が何をできるのか。新感線の舞台に出ることは目標でもあったので。自分がそこで何ができるのかっていうプレッシャーは、楽しみとか期待とかうれしいって気持ちと同じだけついてきますね。まぁでも、楽しみと不安と、その両方がないと、なかなかいいものができないというか、都度都度の自分を超えていけないと思ってるんですけど。

――中村さんの体感として、楽しみと不安は、両方あるほうがいい形になると?

何でも表裏、両方合わせ持っていたほうが、ちゃんとしたジャッジができるというか。物事って多面的なものなので、ただ楽しいだけでも、ただイヤなだけでも、地に足がついてなかったり、魅力が半減したりすると思うんです。いろんな感情を持ちながら、精いっぱいやることをやるっていうのが、結果的にベストなのかなって思いますね。

――…深いですね。

深いんですよ。マリアナ海溝のように深いんです(にっこり)。



――その、目標とされていた劇団☆新感線に対して、どういうイメージを抱いていますか?

全力でバカやってる劇団。そのバカとか笑いっていう振り幅があるからこそ、カッコいいことや悲しいことが浮き彫りになると思うんですけどね。

――なるほど。

個人的な好みとしては、笑えるもののほうが好き。僕よりずっと年齢が上の方でも、消費カロリー高く、全力でバカやってるのがいいじゃないですか(笑)。一緒に遊んでみたいなと。オレも混ぜてくださいよって感じですね。

――劇団☆新感線との出会いはいつ頃だったんですか?

まだ養成所に通ってた高校生の頃、同期のちょっと年上の人に教えてもらったのがたぶん最初ですね。『髑髏城の七人〜<アカドクロ>』と『髑髏城の七人〜<アオドクロ>』のDVDを貸してもらって。「こんなマンガみたいなことやってる人たちがいるんだ、カッコいいな」って思ったのを覚えています。



「宮藤官九郎さんに似てる」と言われるけど…



――劇場で最初に観た演目は?

『蜉蝣峠』(2009年)かなぁ…? 『蜉蝣峠』は新感線で一番好きな演目です。『Vamp Bamboo Burn』と同じく、宮藤(官九郎)さんといのうえ(ひでのり)さんのタッグなんですけど。

――『蜉蝣峠』のどういうところに魅力を感じたのでしょうか?

カッコよく言うと、退廃的というか。めくるめく…いろんな面白い出来事がたくさん起こる。ごちゃごちゃしてるなかで、登場人物の愚かしさとかが見えてくると、急に切なくなったりして。みんな必死で、でもみんなバカで、最終的にはほとんど何も残らず終わっていく感じが、すごくこう…淡い感じがしたんですよ。いろんな感情に突き動かされながら、最後にため息が出る舞台でしたね。

――そんな宮藤さん脚本の作品に出演されるということで、今のお気持ちは?

…実はちょいちょい、宮藤さんに似てるって言われるんですよ。

――そうなんですか!?

『ピース オブ ケイク』(2015年)っていう映画があって。映画監督を目指して借金を抱えちゃって、綾野 剛くん演じる京志郎に助けられるという役だったんですけど、監督は、若い頃の宮藤さんをイメージしていたみたいです。

――ご自身でも、似てるということは意識されてたんですか?

全然。自分では「似てねぇよ」って思ってるんですけどね。

――(笑)。えぇと、宮藤さんの作品については…。

学生時代、青春を謳歌してた頃にドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)や『木更津キャッツアイ』(同)がやっていて、それを見ながら育った僕にとって、ずっとお仕事をしたい方でした。だからこそ怖いんです、宮藤さんの脚本にちゃんと乗っかれるだろうかって。脚本が面白いのに、それを伝えられない役者ってダメじゃないですか…。頑張らなくちゃと。



――宮藤さんと面識はあったんですか?

1〜2年前、PARCO劇場で、自分も出てないし宮藤さんも関わってない芝居を観に行ったときに、楽屋挨拶に行ったらたまたま宮藤さんもいらして。ご挨拶したら、宮藤さんのほうから「新感線でご一緒することになって、ねぇ」みたいに話しかけてくれて。そのときに「オレ、あの宮藤官九郎に認識されてるんだ!!」って感動しましたね(笑)。

――宮藤さんは役者さんのあて書きをされるということですけど、今回の脚本を読んでみて、いかがでした?

あて書きといっても、宮藤さんとは飲みに行ったこともないので…。脚本を読んでみたら意外と“二の線”(イケメンキャラ)だったんですよ。そんなのやったことないのでビックリしましたね。

――画面を通して観た中村さんのイメージが、そうだったのかもしれませんね。

そうなんですかね。まぁ、クールな二枚目ぶったヤツってだけじゃないぞっていうストーリーになってるんですけど…。

――気になります……!

気になりますよね(笑)。いやーでもこれがね、これ以上はちょっと言えないんですよ。あぁ、もう全部言っちゃいたいんですけど…本番までのお楽しみということで。



いのうえ演出の面白さは“口伝”にあり?



――ミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』(2011年)では、いのうえひでのりさんの演出を受けられていますよね。いかがでしたか?

稽古時間になったら役者は、ウォーミングアップも済ませて集まってるじゃないですか。そこから15〜20分くらい、いのうえさんの時間があるんですよ。俳優がタバコ吸ったりくっちゃべったり、好き勝手してるあいだに、いのうえさんがひとり、台本を持ちながらああだこうだ動いてるんです。

――すぐには始まらないんですね。

そう。それから、みんなを呼んで、ひとりひとり登場人物の動きを自分でやってみせていく。まずはそのやり方で、最初から最後まで、いのうえさんが「よし」ってなるまでやって、そこから役者たちが勝手にやりたいことをやる、みたいな感じだったんですよ。何て言うんですかね、歌舞伎とか伝統芸能では口伝(くでん)、つまり、口頭で伝えられ受け継がれていくって言いますけど、それに近いんじゃないかな。

――なるほど。

やっぱり舞台って“引き”の1枚絵だから。ミザンス(役者も舞台装置も含めた全体の配置のこと)っていう言葉があるくらいなので、いかに一番後ろのお客さんにまで届けるかっていうのは大事だと思うんですね。そういう意味で、いのうえさんは「こういう芝居、こういう表現」っていう矢印をひとつ、最初に提示してくれるから、役者としてはラクといえばラクですね。

――それって、めずらしい演出法なんですか?

演出のやり方は、人によりますよね。僕はもう何もない、机とイスだけの中で「好きなところから出て、好きなときにハケて、勝手に動いて、自由にやってくれ」ってところで育ったというか。(舞台出演2作目の『恋の骨折り損』、3作目『さらば、我が愛 覇王別姫』などで演出を受けた)蜷川(幸雄)さんとか、そうだったので。



――ほとんど真逆の演出ですね…。

蜷川さんほど自由にやらせる人はいないと思いますね。退場のタイミングや、板付き(袖から登場せず、最初から舞台にいること)なら場所とか、普通はなんとなく指示してくれますけど。

――蜷川さんの場合は、それすらなく?

まーったくないです。「どうだ、オレを楽しませてくれ」って、こーんな(腕を組んで椅子にのけぞって)感じで観てるので、あの方は。そういうところから入ったので、鍛えられました。よその現場で、最初からそれほど追いつめられることは少ないですから。

――いのうえさんの場合は、入り口の部分はまず提示してくださると。

そうですね。でも『ロッキー・ホラー・ショー』は2011年。今年はいのうえ歌舞伎≪黒≫BLACK『乱鶯(みだれうぐいす)』とか、今までとは毛色の違うビターな作品をやるぐらいですから。いのうえさんの中でも何か変わっているのかもしれないなって、勝手に思ってて。そういう意味で、5年ぶりの稽古はどんな感じなのか楽しみです。

――稽古ももうすぐ始まるんですよね(※取材を行ったのは6月上旬)。

稽古に入る前の一週間ぐらいがしんどいんです…。落ち着かないから、早くやっちゃいたい!