決勝トーナメント1回戦でハンガリーに3−0で快勝したベルギーは、続く準々決勝では一転、ウェールズに番狂わせの餌食になり、敗退の憂き目に遭った。

 サッカーは大勝した次戦、沈黙しがちなスポーツだ。

 7月3日、スタッド・ドゥ・フランスで行われた準々決勝。アイスランドを相手に、前半45分を終了して4−0でリードするフランスを見ていると、その次戦が限りなく心配になるのだった。

 準決勝の相手はドイツ。緊張感溢れる試合になる。そこから逆算すれば、ひとつ手前の試合は、同レベルの緊張感が欲しい。楽勝は避けたい。むしろ好んで苦戦したいほどだ。しかしフランスは、アイスランドを相手に、予想を上回るハイペースで、前半から加点する。次の試合との関係性が難しい試合になっていった。

 4−0になってしまった試合に、いかにして緊張感を生み出すか。監督に求められるものは新たなテーマだ。ピッチ上の選手になにがしかの刺激を与えた方がいい。メンバー交代。布陣変更。どちらかをいち早く行うべき。そんなことを思いながら、後半の観戦に臨んだ。

 スタジアムには多くのアイスランドファンが詰めかけていた。1万人に迫る数はいた。人口32万人中の1万人。だとすれば、国民32人に1人がアイスランドからフランスにはるばるやってきたことになる。後半が始まり、ほどなくすると、スタンドには、アイスランド国歌が響き渡った。国歌にしては少し長めの曲の大合唱が終了したその直後だった。右からの折り返しに、アイスランドFW、シグトルソンが鮮やかに飛び込んだのは。

 フランス代表の面々は、ご馳走を食べ過ぎて、お腹いっぱいという感じだった。このゴールを境に、前向きな姿勢になっていったアイスランドとは対照的な姿を描いた。試合は緩い感じの打ち合いになった。次戦ドイツ戦とは比較にならないであろう低レベルな一戦に。

 フランスはその4分後、ジルーがすかさず入れ返し5−1。後半15分の出来事だったが、デシャン監督は、その1分後、得点を決めたばかりのジルーを下げ、ジニヤックを投入。初めての交代を行った。

 メンバー交代は、その後2回行われた。後半27分(コシールニーOUT、マンガラIN)が2度目で、後半40分(パイエOUT、コマンIN)が3度目だ。しかし、それぞれは少なくとも、もう10分、早く行われるべきだった。

 この試合、最後の得点となったのは後半39分。アイスランドMF、ビルキル・ビヤルナソンのゴールだった。トータルスコア5−2とは、サッカーらしくないスコアだ。フランスにとって、同じ3点差なら3−0の方が、よっぽどよかった。締まった試合をしてドイツ戦に臨みたかったにもかかわらず、それは叶わぬ願いとなった。大一番に向けて、ステップを誤ってしまった。

 片やドイツは、イタリアに1−1。延長PK勝ちだ。内容は褒められたものではなかったが、結果的に緊張感は維持されることになった。試合の終わり方は、フランスの何倍もよかった。

 もう一方の山の準決勝で、ウェールズと戦うポルトガルは、苦戦を繰り返している。90分間の試合で決着をつけたことは、今大会一度もない。緊張感溢れる中での戦いをずっと繰り返しているわけだ。トーナメントの勝ち上がり方という視点で言えば、上々。もし準決勝で、勢いのあるウェールズに大苦戦しながら勝ち上がれば、フランス対ドイツの勝者と、いい試合が出来るのではないか。

 トーナメント戦では、苦戦、接戦はいくらでもしろ。それこそが次に繋がる戦い方だ。ドイツ、ポルトガルは、準決勝から逆算すれば、フランスより断然、よい終わり方をした。

 恐れ入ったのはアイスランドだ。スタンドには、多くの自国ファンが駆けつけたとはいえ、舞台は完全アウェイだ。しかも相手は強者。4−0になれば万事休すだ。濃厚になる敗戦ムードに、心は折れるもの。抵抗力は鈍りがちになるが、彼らはしっかり盛り返した。後半に限ればスコアは1−2。世界に向けて、アイスランドは意地を示す見ことに成功した。

 勝ち目はないにもかかわらず、黙々と追いかける姿には感激する。無欲の尊さを、アイスランドは再認識させてくれた。これぞまさに美しい敗戦。今大会はチーム数が16から24に増えたことで、これまでよりアウトサイダー的なチームの数も同様に増えた。W杯本大会における日本のようなチームが、だ。そして彼らは一様に大健闘。忠実、勤勉、真面目なプレイぶりで、強国を苦しめながら、ウェールズ以外、美しく散っていった。世界に好印象を残しながら。勝つ時は少々汚くてもいいが、負ける時には美しくーーとは、ヨハン・クライフの哲学だが、試合を、大会をどのようにして終えるかは、終盤にさしかかったユーロ2016の現場で、一番考えさせられることだ。

 2014年ブラジルW杯における日本の終わり方、2010年南アW杯における日本の終わり方、2006年、2002年、1998年、過去5大会の日本は、そうした意味ですべて不合格だと僕は思っている。

 次回こそ、美しい散り方に徹底的に拘ってほしい。フランス対アイスランド戦をスダッド・ドゥ・フランスで観戦しながら、僕は強くそう思うのだった。