By Canonicalized

ネット通販を支配しつつあるAmazonが、商品ページから値引き前の価格である「リストプライス」の情報をゆっくりと削除しているとThe New York Timesが報じています。市場支配を着実に進めるAmazonは、新しいフェーズに入ろうとしている可能性が指摘されています。

Amazon Is Quietly Eliminating List Prices - The New York Times

http://www.nytimes.com/2016/07/04/business/amazon-is-quietly-eliminating-list-prices.html

Amazonのネット通販での売上げが2015年についに1000億ドル(約10兆3000億円)を突破しました。そんなAmazonが21年前に書籍販売でネット通販に乗り出したころから一貫してきたのが「利益ではなく売上げ規模の拡大」。ネット通販で上げられた利益のほとんどは物流拠点の整備や値引き、Amazonプライムでのコンテンツ拡充などに注ぎ込み、投資に次ぐ投資でさらなる売上げ拡大を実現するというビジネスモデルを採ってきたことは、以下の記事で詳しく解説されています。

元Amazon社員が明かす、”最強の捕食者“Amazonのビジネスモデルとは? - GIGAZINE



収益のほとんどを投資して規模の拡大を追求し続けるAmazonの驚異的なビジネスモデルに対しては、競合他社をたたきつぶして市場を独占した後に、一気に価格を引き上げる「flip the switch(急反転)」が最終ゴールなのではないかという懸念の声が上げられていましたが、Amazonは最近になって商品ページからリストプライスを削除する動きに出ていることを、広告に関するNGO「Truth in Advertising」のボニー・パッテン氏が指摘しています。



例えば、ゴム製のウォータースライダー「Rave Turbo Chute Lake Package 2014」という商品は、つい先日まではリストプライスから36%割引されているという表示でしたが、今では直前の価格の「1573.58ドル」から「1532.01ドル」に変更された、という表示になっており、希望小売価格を示すリストプライスの情報が削除されています。



定価からの大幅な値引きという事実は、顧客の購買行動を決定づける大切な要素であることが知られており、ネット通販においても販売戦略上、重要です。しかし、販売戦略として強力であるがゆえに、実際の定価よりも高いリストプライスをつけた上で大幅に割引がされてお得であるかのように装う違法行為が横行しており、Amazonも商品の小売価格を詐称したとして、アメリカの消費者に訴えられています。Amazonがリストプライスの情報をあえて表示しなくなった理由として、消費者訴訟のリスク回避が考えられそうです。

しかし、そもそもAmazonはリストプライスの表示を必要としなくなったからではないかという指摘もあります。クラークソン大学のラリー・コンポウ教授によると、Amazonは書籍、電子機器、さらには牛乳などの食品にいたるまであらゆる商品をAmazonで購入するというAmazon愛好家を増やすことに成功しており、これらのAmazonユーザーはもはや、Amazonの値付けに対して全幅の信頼を置いているとのこと。これらのユーザーはAmazonの価格と他店での価格を比較することさえないので、もっぱらAmazon内での値下げ情報だけで事足りるというわけです。コンポウ教授は自身の仮説について、「20年前にネット通販でクレジットカード情報をゆだねることについて信頼するよう求められて戸惑ったものですが、今ではAmazonの値付けについて完璧に信頼することを求められているのです」と述べています。