【京都】ロックすぎるアイスクリーム専門店「黒岡冷菓」がスゴイ!

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(ソフトクリームとギターを持つこの方はいったい……)

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じとじとした梅雨が明けると、ガツン! とホットな夏が本番を迎えます。
カンカン照りの太陽の下で、汗をぬぐいながら食べる冷たいスイーツは、たまらないおいしさですよね。

僕が住む京都には、東京をはじめ、なんと全国からお客さんがやってくる噂のアイスクリーム専門店があります。
そしてその店は、アイスで人気なはずなのに、とびきり“アツい"のです。

冷たい。でもアツい。
いったいどんなお店なのでしょう。

今回訪ねるアイスクリーム専門店「黒岡冷菓」は京都の北端に位置する宮津市の、京都丹後鉄道「岩滝口」駅を降りてすぐのところにあります。

(駅を降りると、向こうに見えるは妙見山。そして時が止まったような静かな街が現れる)

ハイキングコースとして親しまれる妙見山や、目の前の阿蘇海からは日本三景のひとつ「天橋立」を望むことができるという、海と緑に囲まれた静かでのどかな街。

(阿蘇海の入江に立つと、日本三景のひとつ「天橋立」を”横から”見ることができる)

こうしてのんびりとして人影もまばらな駅前通りを歩いていると、見えました!
「黒岡冷菓の手作りアイスクリーム」と書かれた赤いのぼりが。

(暑い日にはためくこのアイスクリームののぼりは、砂漠でオアシスを発見したように嬉しい)

この日は雲ひとつない快晴で、絶好のアイスクリーム日和。
ああ、早く食べたい!

のぼりに誘われ、「黒岡冷菓」の店内に入ろうとすると……。

あれ?

表にはパンクロッカー遠藤ミチロウのトークライブや、ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬ソロライブ、元グレイト・リッチーズのワタナベマモルのライブなど日本の偉大なロックアーティストたちの告知ポスターがズラリ。

(遠藤ミチロウ、中川敬、ワタナベマモルなどロックのビッグネームたちのポスターが)

あのう……ここ、アイスクリーム屋さんですよね?
ライブハウスと間違えていないですよね?

そうしておそるおそる「黒岡冷菓」店内に入り、思わずあとずさってしまいました。

これは、す、すごい!

店内はギター、CD、レコード、ターンテーブル、膨大な数のフィギュア、アーティストを描いた絵画、ロックのフライヤーやフリーペーパーなどがぎっしり!

(本当にアイスクリーム屋さん? ギター、レコード、フィギュアなどがひしめく店内)

(保冷庫のまわりも騒然とした雰囲気)

(レトロミュージアム級にぎちぎちに並んだ人形たち)

(ビートルズにデーモン閣下にラッツ&スターなどアーティストものが多い)

(レコードも多数販売。アイスクリームショップにふさわしい曲「愛す(アイス)る君に」と「クールな恋」)

(ターンテーブルやミキサーまである)

さらに壁にはシーナ&ロケッツ、ラフィンノーズ、ザ・ルースターズ、遠藤ミチロウ、そして1970年に結成され日本のロックの礎を築いた伝説のバンド「サンハウス」のメンバーなどなどの“直筆”サインが並んでいるではありませんか。

(鮎川誠、ラフィンノーズ、遠藤ミチロウ、ルースターズ、サンハウスなどなど貴重すぎる”直筆”サインの数々! いったいなぜここに?)

目もくらむような、壮観なお宝の数々。
言わばここは、ジャパニーズ・ハードロックカフェ。
緑豊かな、そしておおよそロックとは無縁な印象しかない街で、このラディカルな光景との出会いは衝撃です。

これら貴重なロックアイテムをコレクションし、さらにアイスクリームを手作りするのが三代目店長の黒岡伸光さん(47歳)。

(ザ・ジャムのモッズTシャツを着こなす黒岡さん)

黒岡
「手作りアイスクリームとギターや中古レコードを一緒に売る店は、ほかにはないかもしれませんね。昔はごく普通のアイスクリーム屋さんだったんです。けれど僕の代になって店がこうなりました。レコードは7000枚以上はあると思います。ギターも以前はもっと多くて40本近くあったんですよ」

7000枚までは数えたという膨大なアナログレコードはターンテーブルに乗せられ、店内はロックサウンドのうねりに包まれます。

昔は普通の店だったというのに、いったいなぜこうなってしまったのか。
訊きたい気持ちをひとたび抑え、まずはメインのアイスクリームに注目しましょう。

異色の空間に並ぶアイスクリームの数々も、これまたバラエティ豊か。
カップ入りやアイスもなか、アイスクリームバーと、もう目移りしそう。

(定番のミルク味をはじめ「抹茶」「ほうじ茶」などおよそ15種類が並ぶカップアイス)

(コーンカップや、皮がもち米でできたアイスもなかなどバリエーション豊か)

では、とりわけ人気商品だという「酒かすアイスバー!!」(110円/以下すべて税込価格)を一本。

(地元の蔵の酒粕と砂糖と塩しか使っていない「酒かすバー!!」)

素朴でかわいい見た目に惹かれますね。
では、ひとくち。

ほお〜。なんてすっきりとした甘み。
のど越しも、とろりとして心地いい。
日本酒の澄んだ香りが爽快に広がり、目がさめるよう。
これはオトナの味ですね。

黒岡
「地元のハクレイ酒造でできた上質な酒粕と、砂糖と塩しか使っていなんです。食べたあと、喉が渇かないでしょう? うちのアイスクリームはどれもさっぱりしていて、いま主流の乳脂肪分が豊富なタイプとは正反対な味ですね」

(氷缶に液体を注いで棒を挿し凍らせる、昔ながらのシンプルな製法)

(同じ氷缶にミルクアイスを注ぎチョコレート液に漬けて固めた「クリ型チョコアイス」(110円))

ほかにも、季節限定の「由良みかんシャーベット」(210円)は地元農家から直接仕入れたみかんの皮をひとつひとつ自分の手でむいてジュースにした手間暇を惜しまぬ逸品。

(地元の果樹園から直接仕入れたみかんをひとつひとつ絞って作った果汁たっぷりな「由良みかんシャーベット」(110円))

今季週末限定の「えんどう豆カップソフトクリーム」(250円)は豊岡の青果店から特別にわけてもらったレア素材を使用。
じっくり煮込んだえんどう豆のクラッシュジャムは野趣あふれたうま味。こたえられません!
 

(あればラッキーという今季週末限定商品「えんどう豆のカップソフトクリーム」(250円))

(ソフトクリームにトッピングするえんどう豆のジャムは黒岡さんがじっくり炊いた自家製)

どのアイスクリームも手作りの魅力がいっぱいで、少々カタチがいびつなのもご愛嬌。
それに、初めていただいたのに、なぜか懐かし〜い味がします。

黒岡
「懐かしい味だとよく言われます。なんせアイスクリームを作りはじめて、もう80年になりますから。もともとうちは黒岡食品という名のこんにゃく屋で、アイスクリームは、いま96歳になるおばあさんが夏場の商品として作りだしたものなんです。当時はまだアイスクリームではなく氷菓子と呼んでいました。そしておばあさんがチラシ広告の裏に書き残したオリジナル製法を、いまもかたくなに守り続けています」

なるほど。
なんともやさしいレトロな味がしたのは、おばあさんが生みだした氷菓子のレシピをそのまま引き継いでいるからなんですね。

(96歳になるおばあさんがチラシ広告の裏に書き残したレシピ。あまりにもぼろぼろになったため表紙をつけて小冊子に。冊子の中は企業秘密)

そして気になるのは、やはり店全体を覆うロックなディスプレイ。
味は変わらないけれど、店の雰囲気はがらりと変わった様子。
いったい、なぜこうなったんですか?

黒岡
「僕は高校時代にロックに影響を受けたんです。当時『宝島』っていう雑誌があって、パンクロックや日本のインディーズシーンを取材した記事がたくさん載っていました。街に2冊しか入荷しない宝島をむさぼり読んでいましたね」

雑誌『宝島』の影響で80年代にいわゆる「ハードコアパンク」と呼ばれるジャンルの音楽にめざめた黒岡さんは、当時、電車でわざわざ3時間近くかけてアンダーグラウンドロックの殿堂と謳われた京都大学の「京大西部講堂」へライブを観に行き、かつて京都ニューウェーブの総本山と呼ばれた寺町「詩の小路ビル」まで自主制作のレコードを買いに行くという青春時代を送ります。

さらにインディーズブームの流れでボ・ガンボスやティアドロップス、シェイディ・ドールズなどパンクロックではないジャンルへも興味が広がり、彼らのルーツとなるサウンドをもさぐりだし、遂にはありとあらゆる音楽を愛するようになったのだそう。

そうして家業を継いでロックへの愛を店頭で表現するうち次第に音楽ファンの間で「京都の北側にちょっと変わったアイスクリーム屋がある」という噂が駆け巡りはじめ、プロのアーティストたちが訪れるようになりました。それはまさに思春期に多大な影響を受けた、神様のような人々だったのです。

黒岡
「たとえば、憧れのルースターズの花田裕之さんやグルーヴァーズの藤井一彦さんが、うちの店に来て、僕が作ったアイスクリームを食べている。そんな光景を見ると、嬉しいというより信じられないんですよね。夢を見ているんじゃないかって」

黒岡さんのロック愛は四十歳を過ぎても尽きることはなく、現在、お隣の与謝野町にあった喫茶店の廃屋を友人たちとリノベーションし、PA機材を買いそろえ、ライブスタジオ『WHITEROOM』をオープン。いまや京都北部の重要なロックの発信基地となっています。

(先ごろ無事終了したソウル・フラワー・ユニオン中川敬氏のソロライブ@WHITEROOM。黒岡さんはいまこうして影響を受けたアーティストたちに恩返しをしている)

そして黒岡さんの青春時代を彩ったアーティストたちのライブを主催または協賛し続け(表に貼ってあったロックイベントのポスターがまさにそれだったのです)、また、自らもバンド「SHADOW ROLLS」を率いて精力的に活動しています。

(黒岡さん率いる「SHADOW ROLLS」。ドラムではなくカホン(またがって叩く箱型の打楽器)でリズムを刻む激シブなスリーピースバンド)

(ブルージーで沁みる黒岡さんのボーカル)

黒岡
「僕は単なる田舎のアイスクリーム屋です。でもSNSなどで広まって、次第にこの小さな町の小さな店からでも音楽への想いを伝えられるようになりました。そして昨年の夏に京都縦貫自動車道が全線開通し、全国からお客さんが来てくれるようになりました。これからもこの地元を拠点に、プロやアマチュアを問わず“本物”を観てもらえるように、頑張っていきたいですね」

京都の北部に、こんなにアツいロックシーンがあったなんて。
おばあさんがこしられたアイスクリームの味をいまに受け継ぐことと、ロック色満載なお店の雰囲気は一見あい反するように感じますが、どちらも「キープ・オン・ロッキン!」の魂でつながっているんだなあと思いました。

(冷たいアイスクリームをいただきながら聴く黒岡さんのアツいロックントークは最高)

冷たくてアツい、そしてどこか懐かしい味わいの黒岡冷菓のアイスクリーム、夏の京都の旅にぜひ。
100円玉数枚で楽しめるサマーフェスですよ。

店名■黒岡冷菓
住所■京都府宮津市字須津733-10
営業時間■11:00〜19:00(冬季は午後より)
定休日■木曜(祭日は営業)
電話■0772-46-2066

(取材・撮影 吉村智樹)