■松田丈志インタビュー@前編

 4年前のロンドン五輪の再現となるメダル量産だけではなく、今回は金メダルを最低2個、できれば3個以上の獲得を目標にしている競泳日本代表チーム。そのなかでチーム最年長の32歳――、2004年のアテネ五輪から4大会連続オリンピック出場となる松田丈志。リオ五輪では個人種目での出場はなく、「4×200mフリーリレー」のみだ。

 「今までの五輪に比べると、やっぱり気楽に感じる部分はありますね。前回のロンドン五輪は200mバタフライで金メダルを獲りにいく、という気持ちでやっていたから、そのときはかなりのプレッシャーをかけて自分自身を追い込んでいた。それに比べたら楽、という感じです」

 こう話す松田だが、「でも、物足りなさも、なくはないですね」と言って苦笑する。ここ数年、レースでなかなか結果を出せないときには、「練習はできているのに......」という思いが頭のなかをよぎったこともあるという。

「年齢という部分は、やっぱりあります。そう言ってしまえば、そのひと言で終わってしまうけど(笑)。僕はもともと、自由形の長距離を専門にしていたから、スピードが課題だった。そのため、陸上トレーニングなどをたくさんやったりして、すごい負荷をかけてパワーがより出るようになった結果、身体にも負担がかかって......。だからロンドン前は、ちょっとひざが痛いときもありました。

 だからロンドンが終わったあと、リオまで続けるには、『同じように強度を上げていくのは無理だな』と思ったんです。違う方向性を見出すか、違うやり方でないと身体が持たないだろうなと。それで、理学療法士の方たちのお世話になり、身体をもっと機能的に使うようにしようと思いました。関節の可動域を広げたり、その動きのなかで止めるべきところは止まるように身体を変えていったのです。

 その結果、身体にかかる負担は減って、痛みなども出なくなったのですが、結果的にそれがバタフライにはよくなかったのかもしれない。身体が柔らかく動くようになったことで、泳いでいるとき、本来はフラットなポジションにならなければいけないところで身体がたわんでしまう。身体がより動くようになったがため、新たなエネルギーを使ってそのたわんでしまう動きを止めにいかなければいけなくなった、という部分が出てきました。それがおそらく、『自由形はいいけど、バタフライがよくない理由のひとつ』でもあったと思っています。

 ロンドン五輪後、松田は新たな道を選んだ時期もあった。2012年の秋から平井伯昌(のりまさ)コーチに師事し、東洋大学を拠点にして、入学してきたばかりの萩野公介などと一緒に練習を始めた。間近で見ていた平井コーチは、「松田はすごいよ。萩野とバンバン競り合って練習している」と笑顔で話していたことがある。だが、結果はなかなか出せなかった。

「ロンドン五輪まで久世(くぜ)由美子コーチとずっとマンツーマンでやってきて、金メダルには届かなかったけどひとつの結果が出た。『じゃあ、それ以上を目指そう』となったとき、違うやり方や方向性を探るという意味でも環境を変えてみようと思いました。

 これまで経験していなかったチームでの練習だったから、そこでのやり方を学ぶという気持ちがあったし、勉強にもなりました。でも、チーム練習だから当然のように、「こうしてみたらどうかな?」と思うようなことがあっても、そう自由にはできない。いざ、リオまでやろうと思ったとき、自分の競技人生で最後の挑戦になるだろうから、『こういうトレーニングをやってみたい』というのに目をつむってやるのは、ちょっときついなと......。

 それでふたたび、久世コーチとやるようになったんですけど、いろいろやってみなければわからなかったということはすごくあります。バタフライに関しては、今年の日本選手権も4位でダメだったけど、『恥ずかしい』というより、『やりきったな』という気持ちのほうが強いですね。『これ以上はできないだろう』というところまでやったことに誇りを感じているし、ひとつの財産になると思っています。先に辞めていった連中にも、『お前、途中であきらめただろう』と言えますから(笑)」

 今回の競泳日本代表チームは総勢34名で、リレー要員も多い構成となっている。女子17名のなかには中高校生以下が5名いて、チーム全体としては若返ったと言える。キャプテンは200m平泳ぎの金メダル候補の27歳・金藤理絵が務めるが、チーム最年長の32歳・松田が果たさなければいけない役割も多いだろう。

「前回のロンドンではキャプテンをやらせてもらったので、今回は客観的にチームを見させてもらいたいと思っています。(北島)康介さんも引退したし、若い子たちもいて、金藤さんが女性初のキャプテンで、萩野公介が副キャプテン。リオは次のチームジャパンを作っていくタイミングだと思うんです。

 もちろん、彼らが困って、『どうしたらいいですか?』と言ってきたときには、経験者としてアドバイスできればと思います。僕もロンドンのとき、ミーティングで最終的に話が詰まったときには、康介さんに『お願いします』と振りましたし。ただ、彼らがどういうチームを作っていくか、というのを客観的に見たいんです。今回はチームの人数も多いし、初代表選手が少なかったロンドンに比べれば大変だと思います。でも、新しいチームを作っていかなければいけないタイミングでもあるので。

 そしてもうひとつ、自分がキャプテンでなくてよかったと思う理由は、若い女子選手たちと何かを話すとなっても話題が思いつかない、というのもあるんです。たとえば、渡部香生子なら、『ロンドンのときは初めてで、何もわからずに悔しい思いをした。だから今回はそのリベンジをしたい』と言っていたので、そういう真剣さや覚悟があれば、僕もいろいろ話を聞いてみたいと思います。でも、若い女子選手からそういうものを感じることが少ないのも事実です。

 若い子たちだけで固まってしまい、ジュニアっぽい感じになってしまうのは、チームとしてはよくないと思っています。仲がよいのはいいことだけど、慰め合うだけの関係になってしまったり、ジュニアだけで何かをしたいとなってはいけない。その点では僕は、"嫌われ親父"の役をやらなきゃいけないかもしれない。『あのおっさん、うるさいな』みたいな感じになってもいいと思います(笑)」

 松田が出場するのは、競技4日目に予選・決勝が行なわれる4×200mフリーリレー。萩野はその種目でも金、最低でもメダルは獲りたいと意気込んでいる。その気持ちは、松田も同じだ。

 「やっぱり、金メダルを狙いたいですね。五輪で唯一、獲っていないのは金メダルだし、可能性もあると思うので。1泳(第1泳者)にトップで帰ってくる可能性を持っている萩野がいるのは、かなり大きい。僕と小堀勇気はスタートが下手なので、1泳だと少し出遅れてしまう。でも、萩野はスタートもうまいし、僕や小堀も引き継ぎなら速く泳げるので、アドバンテージになりますね。

 個人の200m自由形でメダルを狙える萩野がいる一方、残りの僕ら3人がリレーだけに絞れるという状況も有利になると思います。200m自由形は2日前に予選と準決勝があって前日が決勝だから、ライバル国の上位2名は疲れもあるはず。ライバルは、アメリカとオーストラリアでしょう。ヨーロッパ勢(イギリス、フランス)は速いタイムを出していないので、メダル獲得の手応えを持ちながら貪欲に金メダルを狙っていき、その可能性をどこまで広げられるかがカギだと思っています」

(後編につづく)

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi