VRに「アウラ」は宿るのか? ビョークの360°VRライヴストリーミング公開収録レポート(追記あり)

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世界的アーティストのビョークが、日本科学未来館の展示プロジェクト「Björk Digital -音楽のVR・18日間の実験」に先駆け、360°VR映像によるライヴストリーミング配信を行なった。今回のコラボレーターとなったDentsu Lab Tokyo菅野薫とライゾマティクス・リサーチ真鍋大度とビョークのトークと公開収録の模様から、世界的アーティストが見出す、これからのVRの可能性を探る。[追記あり(2016年7月4日16:15)]

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6月28日午後8時、東京・お台場にある日本科学未来館は閉館後にもかかわらず異様な雰囲気を放っていた。ここで世界の歌姫ビョークが360°VR映像ライヴストリーミングの公開収録を行ない、その映像は現在日本で開催中の展示「Björk Digital - 音楽のVR・18日間の実験」が今後ロンドンなど世界各地で巡回する際にアーカイヴされるという。その貴重な光景をひと目見ようと、ニュースを聞きつけた大勢の人々が押し寄せていたのだ。

この前代未聞のプロジェクトの舵を取ったのは、菅野薫をクリエイティヴディレクターに据えるDentsu Lab Tokyo。360°VR映像のライヴストリーミングの演出制作は、真鍋大度を中心とするライゾマティクス・リサーチのメンバーが手がけた。

あらゆる先端的な表現を取り入れ、唯一無二のファンタジーを世界に送り続けてきたビョークと、日本のクリエイティヴテクノロジーの先端を突き進む彼らとのタッグは果たして何をきっかけに生まれたのだろうか? それは、昨年発表された、Jesse Kandaが監督を手がけたビョークの2Dビデオ『Mouth Mantra』に端を発する。

これはビョークが歌っている際の「口の中」を360°映像で撮影したものであり、そのテクニカルサポートをDentsu Lab Tokyoとライゾマティクス・リサーチが担当したのだ。このとき、菅野と真鍋はアイスランドまで向かい、ビョークと長きにわたるディスカッションを重ねていったという。

そして今回、ビョークの展示プロジェクトが日本に降臨するとあって、ここ1年のあいだでライゾマティクス・リサーチが実践してきたVRのライヴストリーミング配信が実現した。

VRに宿るアウラとは?

今回実施された360°VRライヴストリーミング配信とは、ビョークが歌う様子をとらえた実写映像と、3DのCG映像とをリアルタイムで組み合わせたもの。360°のVR映像配信がスマートホンでも体験できる。

この挑戦は、過去にライゾマティクス・リサーチがPerfumeのSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)出演した際の「STORY (SXSW-MIX)」(2015年3月)や、NHKスペシャル「NEXT WORLD 私たちの未来」で生放送されたサカナクションのライヴパフォーマンス(2015年1月、舞台は今回と同じ日本科学未来館)で培った技術をさらに飛躍させるかたちで、「360°」の「VR」で、しかもそれを「ライヴストリーミング配信」するという、世界初の試みとなった。

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白いドレスと、異形のマスク。その対照的な装いからビョークの美しい歌声が溢れていた。© Santiago Felipe

そして満を持しての公開収録当日、ビョークが未来館のシンボルであるジオコスモスをバックに登場するや否や、カリスマの降臨による厳かなオーラに会場は包まれた。ビョークの顔にはMITメディラボのアーティスト、ネリ・オックスマンとの共同制作による生物を模したようなマスクが覆われている。失敗の許されない緊迫した空気の中、彼女のライヴパフォーマンス映像が全世界へ向けて配信された。

ここで面白いのは、現場で「見えるもの」以上に、CG映像と組み合わされた「画面のなか」にこそ、現実を凌駕するファンタジーが出現するということだ。この瞬間、最も熱狂を覚えるのはライヴ現場にいる人間よりも、ストリーミング配信をブラウザーの向こう側から見ている人間の方なのかもしれない。

「ライヴ配信」と銘打たれたコンテンツを前に、「いま、どこかで」起きているナマの現象とヴァーチャルの世界とが組み合わさったとき、わたしたちは現場にいるアーティストに思いを馳せ、そこへの想像力をより一層働かせることとなる。そのヴァーチャル体験は、現実をすり替えるようなものではなく、むしろ現実を倍増させる力をもつ。それは、「いま、ここではない」ヴァーチャル空間に宿る、新種のアウラといえるのかもしれない。

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公開収録後のトークショーのなかで、ビョークはこう語った。

テクノロジーを使う際には、その中心に芯がなければなりません。今回のパフォーマンスに見せた『Vulnicula』は物語が時系列上に存在するギリシャ悲劇のような作品でもあり、どんな表現を見せても物語の核はぶれないと思いました。

わたしはミュージシャンである以上、自分に与えられた役割は『人間らしさ』を体現していくことだと思っています。生身の人間のありようをテクノロジーによって新たに表現できるようになる、その可能性が最もエキサイティングなのです。その新しさに出会う瞬間は、人類が月面着陸した日のような感動を覚えることでしょう。

100年前に電話というテクノロジーが登場したとき、人々はパニックに陥りました。顔も見えない相手と会話をするなんて、人間らしさが失われるのではないかと多くの人が危惧したのです。でも、いまではそのツールを使って色々なことができているように、VRだっていまは新しく見えるかもしれないけれど、数年後にはあっという間に、日常生活にとけこむツールになるでしょう。

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ビョークは日本初となるトークイヴェントに駆けつけたファンたちに、感謝を述べるとともに「(あなたたちの応援を)当然のものとは思っていない」と語った。世界の歌姫の人柄が垣間見えた瞬間だった。© Santiago Felipe

今回のような演出の企画を練るとき、ビョークが最もこだわったのは人間らしい感情と、人とのコネクションを大事にすることだという。彼女は最後に、地球環境の未来について語っている。

わたしが音楽にテクノロジーを使う理由は、テクノロジーで多くのことが解決できると思うからです。地球環境の未来は、政治家に任せるだけではなく、わたしたち1人ひとりが見つめ直すべき問題です。しかし、希望は捨てていません。かつて汚染されたNYのハドソン川にクジラが戻ってきたというニュースがありましたが、現代のテクノロジーを使って、みなが努力していけば、地球は元に戻すことができるのです。わたしたちはクリエイティヴとテクノロジーによって、人間と自然、そして音楽とを共存させることで、この地球を大切にしていけると信じています。

テクノロジーは、人間らしさを増強させる装置にもなる。その未来をいち早く預言して世界に波及させるのは、地球惑星のシャーマンとも呼ぶべきビョークのようなアーティストの役目なのだろう。

[追記あり(2016年7月4日16:15)]6月28日に配信された映像は、現在日本科学未来館で開催中の「Björk Digital - 音楽のVR・18日間の実験」では展示されません。今後ロンドンなど世界各地で巡回するなかでアーカイヴとして展示されます。本文中に誤りがありましたので、訂正して追記いたします。