時事通信中国総局特派員として、通算十数年にわたって現場をウオッチしてきたスクープ記者ならではの情報が満載。現代中国の実像と将来を探り、日本人としてどう向き合うべきかを考えるための「必読書」といえよう。

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中国は複雑怪奇な国である。各種国際機関の中期予測によると、世界全体のGDP(国内総生産)に占める中国の割合は2014年の13%から24年には20%に拡大、「米国を抜き世界一の経済大国になる」という。一方で、環境悪化や労働災害、深刻な経済格差と腐敗汚職など高成長の「負の遺産」が噴出、乗り越えるべき高い壁が立ちはだかっている。

日本メディアの中国関連情報には、固定観念に基づいた表層的なものが多く、隔靴掻痒の感を免れないが、本書には時事通信中国総局特派員として、通算十数年にわたって現場をウオッチしてきたスクープ記者ならではの情報が満載だ。

「中華の夢」を掲げる習近平国家主席が目指すのは、経済・軍事両面における世界的発展。その大前提として共産党一党支配体制の維持を優先しているが、13億の一般の人たちはどう見て、共産党政府にどう対応しようとしているのか。

城山特派員は2回目となる北京駐在期間(11年から16年5月)に、彼ら民間の動きをフォローしなければ、これからの中国理解は不可能と考え、取材し始めた。インターネット空間が広がる中で、民間の改革派知識人や調査報道記者たちが共産党体制に「ものを言う」ようになり、人権派弁護士が法を武器に社会制度を変革しようと行動するようになった。習近平執行部が危機感を強めれば強めるほど、中国社会の「官民の攻防」は年々、緊張を増しているという。

本書は、言論の自由や法治の空間を少しでも広げ、庶民の権利を守ろうと、様々に行動している人たち49人について、実名入りでスポットを当てる。インターネットで積極的に発信して問題を提起し、当局に拘束された人権派弁護士の浦志強、許志強氏ら改革派と当局の攻防が克明に記録され、読者は思わず息をのむ。

政治社会の問題点を追及し発信している改革派の人たちに対する、夥しい直接取材を通じて、著者は「彼らの理念や行動力が中国の進歩にとって必要」と確信するに至る。「世界第2の経済大国・中国で、習近平指導部が体制維持のために展開している有罪判決や言論弾圧に対して失望を感じる日々が続いている」と吐露。「度々拘束され、迫害を受けながらも、強靭に信念を曲げずに祖国の発展を信じている人々」に共感する。

12年9月の日本政府による尖閣諸島国有化とこれに反発した反日デモについても、著者の見聞きした情報を絡め詳述している点も興味深い。

中国共産党にとって抗日戦争に勝利したことで新中国が成立したため、「抗日」は今も正統性を保つ大きな柱になっている、と指摘。日本の軍国主義がかつて行った行為を歴史教育で強調することにより愛国感情を高めることができる。反日デモを容認して「日本」を「悪」として照準を合わせれば、一般の若者はデモに参加することで、彼らが普段から持っている社会に対する不満のガス抜きにもなるという。

一方、日本のメディアについても、中国の面白おかしい部分をことさら取り上げたり、中国共産党の強硬な面だけを批判的に報道していると問題視。日本人の多くは「中国は共産党・政府が全てと考える傾向にあるがそうではない」との指摘も傾聴に値する。

中国の知識人は、自分の目で確かめ「本当の日本を見たい。そして真実を発信したい」という気持ちを逆に強くしている、と強調。急拡大する中産階級や一般移民も同じだという。

中国人の日本観光は爆発的ブームとなり、「爆買い」が15年の流行語大賞になった。未だに軍国主義国家だと思って来日すると、実際には全くそんな国でないことが分かる。商品は安価で、品質が良いため大量に買い物をして帰る。多くの中国人観光客が来日し、日本を正しく理解すれば日中関係改善に繋がると訴える。

中国には社会を良くして前進させようと権力と戦う勇気のある民間人も多い。その視点で中国を見ることで、新たな中国が理解できると問題提起。「『日本』に対し理性的に向き合える独立した中国民間人との交流が重要だ」と記し、「中国の政府は政府、民間は民間と分けて考えるべきだ」と強調する。

2段組500頁を超える力作は読み応え十分。現代中国の実像と将来を探り、日本人としてどう向き合うべきかを考えるための「必読書」といえよう。

著者はすぐれた国際報道に与えられるボーン・上田賞やアジア・太平洋賞を受賞。評者の時事通信時代にスクープを連発し、度々編集局長賞を授与したことが想起される。(八牧浩行)

<城山英巳著『中国 消し去られた記憶・北京特派員が見た大国の闇』(白水社刊、3600円税別)>