常子、男ふたり組に力づくでやられた話を聞く「とと姉ちゃん」77話

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連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)第13週「常子、防空演習にいそしむ」第76話 6月30日(木)放送より。 
脚本:西田征史 演出:岡田健


「え〜、お竜のキャラ、変わってるじゃん! お竜はもっと強い子だったはず!」
・・・なんてことはいっさい言わず、志田未来ちゃんは、戦争ですっかり気が弱くなってしまった女の子・お竜を演じ切ったのです(と想像)。スタンディングオベーション!
演じるとは、与えられた脚本をどう演じれば成立できるか考えることであり、お竜はもともと気丈にふるまっていたのが、戦争でたったひとりの親・父を亡くし(母はすでに他界)、幼い弟と妹を守らなくてはならないという状況には耐えられなかったのだと考えたら、キャラの大変革はちっとも不自然なことではないでしょう。
そして、常子を颯爽と助けた姉御をこんなにも弱々しくしてしまうほど、戦争はおそろしいものであるということを我々視聴者は痛感するのでした。

とりあえず。今日の見習いたいていねいな生活:
おうちに泊めてもらうなどお世話になったら、御礼代わりにお掃除などをしよう!

タイピスト時代、ビアホールで絡まれている常子を助けてくれたお竜(志田未来)が東京大空襲に遭って、
目黒方面に避難してきた。葉っぱのお吸い物でもてなすかか(木村多江)。
空襲の時の様子を語るお竜。志田未来の語りのうまさで状況がよくわかる。子役からお芝居をはじめて、連ドラ「女王の教室」(05年)や「14歳の母」(06年)や「小公女セイラ」(09年)、映画「誰も守ってくれない」(09年/君塚良一監督)などで天才少女視されていただけある実力を見せつけた。
そんな彼女の後を追うのが、事務所・研音の後輩・美子役の杉咲花。彼女もしっかりした演技力で「とと姉ちゃん」を支えている。お竜の弟をかわいがり方が微笑ましい。あんなにかわいがって、弟の初恋の相手は美子に決定したに違いない。
研音チームはほかに唐沢寿明がいるが、なんといっても77回は志田未来ちゃん。
お父さんを戦争でなくし弟と妹のお父さん代わりになったお竜は、常子と同じ思いを共有できる存在になった。
「男のふたり組だったね。力づくでやられたよ」と語るお竜。うっかりその前の台詞をスルーしているとぎょっとする。でも、食べ物をとられてしまったという話である。力だと男に太刀打ちできないという女の限界を常子だけでなくお竜が体験することで、戦時中、たくさんの女が男の代わりを必死でやっていたことを感じさせる。
悲しい話ばかりでは終わらない。
戦争が終わったら何をしたいか楽しい話をする小橋家とお竜きょうだい。そこで雑誌づくりをしたいと口にする常子。言語化したことによって彼女の思いが具体化し、育ち始める。
字の読めないお竜は、常子に感化されたのか、いろんなことを知りたいと考える。常子とお竜、ふたり並んで、知りたいこと見たいことがまだまだたくさんある、と夢を見る。父の代わりを背負わされたふたりが、いわゆる女の生き方を超えた、もっと多様な生き方の可能性を見つめ始めたのだ。
少し元気をもらって、小橋家を去って行くお竜の、はにかんだような表情が後を引いた。5年前の野生味を帯びた強いお竜も、繊細な今のお竜も、どちらも完璧な輪郭で描かれている。ゲストの役って大変だ、役の変化や別の側面を時間をかけて演じることができず、ショーットカットしないとならないのだから。

志田未来の演技力を堪能するには7月7日からはじまるパルコ劇場「母と惑星について、および自転する女たちの記録」を。こちらも三姉妹の物語だ。
(木俣冬)