自由民主党2016年特設サイトより

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 憲法改正という争点を隠し、CMでは〈雇用100万人増加〉〈国民総所得36兆円増加〉などと実態とそぐわない都合の良い数字を切り取って喧伝している安倍自民党。だが、今回の選挙で自民党が公約として必死になってアピールするアベノミクス政策には、唖然とするような文言が盛り込まれている。

 それは、リニア中央新幹線の大阪への延伸前倒しや整備新幹線の建設などのために官民合わせて5年で30兆円の資金を財政投融資する、というのだ。

 リニアのために30兆円──!? 社会保障の充実は〈可能な限り行う〉という消極的表現なのに、リニアには30兆円出す、と自民党は言っているのだ。増税延期によって保育所の整備などへの1000億円や年金受給額の低い高齢者への給付金支給のための5600億円などが足りなくなったというが、これだけあればすぐに解決できるではないか。

 一応、選挙公約ではリニアのほかにも〈超低金利奨学金〉や〈開かずの踏切対策〉なども並べているが、眼目がリニアであることは明白だ。

 現に、安倍首相は国会が閉会した6月1日に、リニア中央新幹線の大阪延伸を従来の計画だった2045年から前倒しすると表明し、「新たな低利貸付制度」によってJR東海に公的資金を投入すると決定した。これにより、最低でも3兆円がJR東海に融資されることになるのだという。

 そもそも、リニア中央新幹線建設はJRが自己資金で行う予定だったはず。それを社会保障の問題がこれだけ取り沙汰され、財源不足だなんだと言い訳ばかりなのに、リニアにはあっさりポンと30兆円......。安倍首相が保育園や介護、子どもの貧困などの国民が直面する生活の問題をいかに軽視しているかがよくわかるというものだ。

 しかも、それだけ公的資金を投入しても、その金が返ってくるのかは甚だ疑問だ。というのも、2013年9月、JR東海の山田佳臣社長(当時)は記者会見で「(リニアは)絶対にペイしない」と公言。国土交通省も「リニアはどこまでいっても赤字です」と市民団体との交渉で語ったという。つまり、赤字必至の事業なのだ。

 さらにリニア建設には、南アルプスの巨大トンネルによる大井川の水量減少、大量に発生する建設残土など、環境への影響も懸念されている。また、南アルプスには中央構造線などの断層があり、今後高い確率で起こるとされている巨大地震が発生した場合のリスクもある。

 採算のみならず、環境破壊や安全面でも疑問視されるリニア計画。にもかかわらず、安倍首相がこれだけ前のめりなのは、自分の"ブレーン"が計画の主導者だからだ。それは、JR東海の名誉会長・葛西敬之氏である。

 葛西名誉会長といえば、安倍首相をバックアップしてきた経済人による「四季の会」「さくらの会」の中心人物で、第一次安倍政権時代には国家公安委員や教育再生会議委員を歴任してきた。また、NHK会長人事をめぐっても、葛西氏が安倍首相に籾井勝人氏をゴリ押ししたとも言われており、安倍政権に大きな影響力をおよぼしている。

"お友だち"のご機嫌取りのために民間事業が"国策化"されてしまう──。二の句が継げない呆れた話だが、もっと恐ろしいのは、このリニア計画が原発再稼働と密接に関係していることだ。

 興味深い指摘がある。第58回JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞した『"悪夢の超特急"リニア中央新幹線』(旬報社)の著者・樫田秀樹氏は、「世界」(岩波書店)15年2月号で、このように語っている。

「リニアが原発からの電力を使うかどうかは、公式的にはJR東海は何とも言っていません。ただ、JR東海の実質的な最高経営者である葛西氏は繰り返し原発再稼働を求めていますし、実際、リニア実験線で使われる電力は、主に柏崎刈羽原発からの日本初の超高圧送電線によって送られてきました。リニアと原発はセットとの可能性は否定できない」

 この指摘通り、葛西氏は原発事故から間もない2011年5月24日の産経新聞でのインタビューで、「今日の原発は50年に亘る関係者の営々たる努力と数十兆円に上る設備投資の結晶であり、それを簡単に代替できる筈がない」「今回得られた教訓を生かして即応体制を強化しつつ、腹を据えてこれまで通り原子力を利用し続ける以外に日本の活路はない」と断言。JR東海グループの出版社が発行する月刊誌「Wedge」でも、同年6月20日発売の7月号で「それでも原発 動かすしかない」という特集を大々的に組み、原発再稼働の必要性を説いていた。

 参院選で自民党が圧勝すれば、社会保障は捨て置かれ、一方で堂々と公的資金をぶちこんでリニア計画は進んでいくはずだ。だが、その背景には原発再稼働の問題も絡んでいるということを覚えておかなくてはならないだろう。
(水井多賀子)