『ブルックリン』 2016年7月1日より全国公開 (C)2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

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『ブルックリン』

独り立ちするために親元を離れ、新天地で暮らした経験のある人には思い当たる節、共感する点が必ず1つではあるのではないだろうか。『ブルックリン』は1950年代、アイルランドから単身、アメリカのニューヨークに渡った少女の成長を描く。

アイルランドの小さな町に母と姉と暮らすエイリシュは、姉の勧めでアメリカ移住を決断する。長い船旅を経て、同郷の住人の多いニューヨークのブルックリンで女子寮に入り、高級デパートの売り子の職を得た彼女は、新しい環境になかなか馴染めず、姉との文通を心の拠り所にホームシックを耐え凌いでいた。その一方で大学の会計士コースを受講し、とあるパーティで出会ったイタリア系の青年トニーと交際を始め、徐々に新生活にも馴染んでいく。シャイな性格を克服して接客にも慣れ、トニーの家族とも交流し、すべてが順調に進み始めた頃、故郷から悲報が届く。エイリシュは急きょアイルランドに帰国するが、そこには思いがけない展開が待っていた。

2016年のアカデミー賞において作品賞、主演女優賞、脚色賞の主要3部門で候補になった力作は、『つぐない』で当時13歳にしてアカデミー賞助演女優賞候補となったシアーシャ・ローナンが、21歳にして2度目のノミネートを受けた主演作。『つぐない』の後もピーター・ジャクソン監督の『ラブリー・ボーン』、昨年のアカデミー賞4部門受賞作『グランド・ブダペスト・ホテル』、ライアン・ゴズリングの監督デビュー作『ロスト・リバー』などで活躍を見せてきた彼女が、少女から大人の女性へと成長していくヒロインのひたむきな強さを美しく演じている。彼女自身、アイルランド人の両親のもとにニューヨークで生まれ、幼い頃にアイルランドに戻って成長したという経歴の持ち主で、ヒロインの境遇に両親の経験を重ね合わせ、胸に迫るものがあったという。

『ブルックリン』シアーシャ・ローナン インタビュー

無力だった若い女性が周囲の助けを借りながら、自らを育てていく物語は、自信と苦悩で揺れ動く様が実にリアル。新しい居場所を見つけたはずが、故郷に戻れば自分の中に深く根ざすルーツを意識せざるを得なくなる。裕福ではないが堅実で思いやりのある恋人がいながら、アイルランドで伝統的な暮らしを大切にする紳士的な青年ジムにも惹かれていく。脚本は『ハイ・フィデリティ』や『アバウト・ア・ボーイ』などの原作者で、『17歳の肖像』でもアカデミー賞脚色賞候補になったニック・ホーンビィ(原作はコルム・トビーン)。『ダブリン上等!』のジョン・クローリー監督のもと、トニー役に新進のエモリー・コーエン、ジム役に『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』『レヴェナント:蘇りし者』『エクス・マキナ』と大活躍中のドーナル・グリーソン、ジム・ブロードベンドやジュリー・ウォルターズといった名優も共演する。

ホーム(Home)とは故郷のことだが、生まれ育った場所に限らず、今自分が生活する拠点を指すものでもある。2つのホーム、2人の男性の間で揺れながら、エイリシュは1つひとつを選択していく。自分の人生を大切に、誠実に生きる。シンプルだが、実は非常に難しいこと。だが、幸せな人生を送る秘訣はこの一点にかかっている。たとえ後に困難や過ちが待ち受けていたとしても、自分が望んだ人生を選ぶことは何事にも代え難い。そんなポジティブな発想は、古き良き時代だけのものではなく、今も説得力を持つものだと信じたい。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ブルックリン』は7月1日より全国公開。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。

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