リオ五輪メンバーに選出された原川(15番)と大島(10番)は、怪我で間に合わなかった奈良(3番)の想いをしっかりと受け止めた。

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「無心ですね。やることはやってきたので、待つだけです」
 
 メンバー発表を控えた当日の昼、原川力は現在の心境を聞かれると、そう述べるにとどまった。当落線上の選手のひとりという予想が多かったものの、本人の表情にはどこか余裕があるように見える。元日本代表の中田英寿氏を思わせるようなポーカーフェイスで、いつも落ち着いている印象である。
 
 今年1月のリオ五輪アジア最終予選では、出場切符をかけた準決勝・イラク戦で決勝ゴールを決めて、一躍時の人となった。今シーズンからはJ2の京都からJ1の川崎に移籍。しかし優勝を争うチームの中盤は激戦区で、満足な出場機会を得られていたとは言い難かった。それでも、その決断に悔いはなかったと話す。それはこのメンバー発表を控えた瞬間でも同じだった。
 
「オリンピックのための移籍だとは思っていないですし、自分の成長のために移籍しました。オリンピックどうこうは関係ないですね」
 
 そして原川は選ばれた。世界という舞台で戦える楽しみを、こう口にした。
 
「本番ならではの感覚があると思ってます。同世代の世界大会は初めてなので、そこでどれだけできるか。個人としても現在地を知れる良い機会だと思っています」
 
 チームで溜め続けているそのパワーは、ブラジルの地で解放することになる。
 
 原川とは対照的に、大島僚太に関しては、「当確」との見方が強かった。5月にフランスでのトゥーロン国際大会を終えて帰国すると、その足で初選出となったA代表候補合宿に合流。実力はもちろんのこと、発表直前の南アフリカ代表戦でキャプテンマークを腕に巻いていたのは、指揮官からの信頼の現われだった。
 
 とはいえ、この1か月間は激動だった。
 世代別代表とA代表を掛け持ちする日程を経て、所属クラブでは優勝争いの試合の連続だ。息つく間もないとは、まさにこのことだった。そんな過密日程を過ごしていたある日の練習後、「今、なにをしたいか」と尋ねると、こんな風に話してくれた。
 
「なにも考えずにボールを蹴る時間が欲しいですね。誰もいないグラウンドで、誰も見ていない時にひとりでボールを蹴る状態になりたいです」

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 思わず、「いや、蹴ればいいじゃないの」と返そうと思ったが、それを言うのは野暮というものだ。ひとりになりたいのではなく、ひとりになってボールを蹴りたい。彼はただただ、もっとサッカーがうまくなりたいのだ。今思えば、1月の最終予選から帰ってきた直後も、その思いを口にしていた。
 
「極論を言えば、もっともっとうまくならないといけないですね。ピッチ状態はありましたけど、それでも自分の技術を出さないといけない。あとは守備のところ。相手に寄せるタイミングやルーズボールを、追求していきたいと思ってます」
 
 あれから半年が過ぎ、この言葉通りに大島は逞しさを増した。メンバー発表を控えた前日は「あまり気にしていないです」と語り、発表当日も「頑張ります」と言葉少なめだったが、その向上心は誰よりも強い。それだけの自信もある。
 
「最初は緊張だったり、不安というのもあると思いますが、そういうのも楽しみながら初戦を全力で臨んで勢いに乗っていければ獲得できるのではないかなと思います」
 
その自信は、リオで問われる。
 
 そしてもうひとり。発表の日に、クラブハウスから帰っていくある選手に話を聞いた。

 奈良竜樹だ。

 CBの主力として本大会でのメンバー入りも有力視されていたが、5月の試合中に、左足の脛骨骨折で全治4か月と診断。その後、驚異の回復力で約1か月半で歩ける状態になったが、さすがに本大会には間に合わなかった。
 
 発表を迎えたこの日、奈良は手倉森監督の「託す人と託される人に分かれる」のコメントを引き合いにして、自らを「託さざるを得ない人ですね」と切り出して、その思いを語った。
 
「自分の場合は、怪我があってダメと言われていたけど、今回の発表で落とされた選手もいる。彼らはもっと悔しいだろうし、そういう悔しい人たちの思いを、18人は背負っていかないとダメだし、その責任もあると思っています」
 
 指揮官は、「託した人はA代表を目指せ」と話していた。託さざるを得なかった奈良の視線の先も、同じである。
「サッカーをやっている以上、それは目指すものです。悔しさが大きいのは、選ばれなかったメンバーだし、それを反骨心に変えられるエネルギーを持てるのは、選ばれなかったほうが大きいと思ってます。今までも(五輪に)選ばれなくて、その後に越えていった選手は多い。自分もそのひとりだと思うし、これをしっかりバネにしていきたい」
 
 発表を経て、託された側になったふたりは、その想いを強く受け止めていた。クラブを通じて、このようなコメントを出している。
 
「このチームでも一緒に行動する時間が多かったですし、やっぱり悔しいのは本人だと思うので、そういう選手がいるということを理解しながら、頭の片隅に置きながらチームとしてプレーしないといけないかなと思います」(原川)
 
「正直、奈良ちゃんだけじゃなくほかのチームでも怪我でプレーできない選手もいると思いますが、ただ奈良ちゃんは今年から同じチームになって、試合も一緒に出ていたので、すごく残念な気持ちもあります。その試合のことを思い出すと辛くはなるのですが、リキ(原川力)とふたりで奈良ちゃんの分も頑張りたいと思います」(大島)。
 
 届かなかった選手たちの分も戦う――選ばれるとは、そういうことだ。
 
取材・文:いしかわ ごう(フリーライター)