錦織圭(ATPランキング6位、6月27日付、以下同)が、2回戦で、ジュリアン・ベネトー(547位、フランス)を、4−6、6−4、6−4、6−3で破り3回戦に駒を進めると同時に、自身初のウインブルドンセンターコートでの勝利を挙げた。日本人選手によるセンターコートでのシングルスの勝利は、2006年大会女子3回戦で勝利した杉山愛以来だ。

「特に何も考えていなかったですね。センターということも、あまり意識してなかったです。もちろん、特別にセンターに入る前に少し心構えはありますけど、そんなに特には意識しなかったので、普通の2回戦としてとらえていました」

 こう語った錦織の2回戦は、当初6月29日12番コートで行なわれる予定だったが、雨のために順延となり、30日センターコートの第1試合に組み込まれた。錦織がウインブルドンのセンターコートでプレーするのは2回目で、2010年大会1回戦でのラファエル・ナダル戦以来だ。

 左わき腹を痛めている錦織にとっては、1回戦から2日間回復にあてる時間が持てたことは、完治しないまでもありがたく、恵みの雨となった。

「こんなに雨降ってくれと頼んだのは、初めてかも。それぐらい助かった」

 2回戦の対戦相手であるジュリアン・ベネトーは、スポーツヘルニアを治すために昨年6月にそけい部の手術をし、昨シーズンは、8カ月間プレーができなかったためランキングを大きく落とした。だが、34歳のベテランは、2010年ウインブルドンではベスト16に進出したことのある実力者で、今回は公傷によるプロテクトランキング39位を使ってエントリーし、見事1回戦をストレートで勝ち上がってきた。

 錦織は、左わき腹に黒いテーピングをしてのプレーとなったが、第1セット第10ゲームをブレークされて、セットを先取された。だが、錦織は「落ち着いて、試合に集中できていた」と気を落とすことはなかった。ベネトーのディフェンスが深く、ややてこずったものの、彼が得意とするフラット系で打つリズムを打破するために、錦織はより深いボールを打ったり、スピンの量を増やしたりした。さらに、試合が進むにつれて、疲れが見え始めたベネトーとは対照的に、錦織の調子は尻上がりによくなっていった。

「バックはよかったと思います、後半になるにつれて、攻めていく形もできていた。バックもそうですけど、フォアも徐々によくなってきていた」

 1回戦よりもコンディションが改善したと振り返った錦織は、第2セットからの3セットを連取して逆転勝ちを収めた。

 ウインブルドンのセンターコートでは、ロッカーから入場口へ行くまでに、優勝トロフィーが飾ってあったり、歴代チャンピオンの名前の入ったボードがある。錦織はそこを歩いたときに、他のグランドスラムでは体感できない神聖な気持ちになったという。とはいえ、大会4日目にセンターコートでプレーできたことに錦織はちょっぴり疑問もあった。

「なんで俺をセンターに入れたんだろ!? やっぱ、テレビ局のせいかと......。いや、まぁ、もうちょっと他に(ふさわしい選手が)いたかなと思います(笑)」

 ウインブルドンセンターコートで初勝利を挙げた錦織には、今回心強い味方がついている。マイケル・チャンコーチが、初めてウインブルドンにも帯同しているのだ。

「いつもマイケルがいるときは、テクニックのことも、メンタルのことも、相手の戦術のこともしっかり話し合える。いないから、どうこうというわけではないですけど、いるときはやっぱり力になってくれます」

 練習では、チャンコーチとボールを打ち合うことも多いが、グラス(天然芝)コートでの錦織のプレーを、チャンコーチは次のように評している。

「圭はグラスのゲームによく適応してきていると思います。とりわけウインブルドンのグラスは、以前(チャンが現役時代の1990年代)よりバウンドが高くなりましたからね。だから、圭がグラスでいいプレーができないはずはないのです。今回、圭と一緒にウインブルドンを戦うのは初めてですが、グラスでもいいボールは打てているし、いいプレーもしています。だから、ここ(ウインブルドン)でいい結果が出るときが訪れるはずです」

 錦織の3回戦は、7月1日に行なわれる予定で、2日連続の試合となる。対戦相手は、5月にローランギャロス(全仏)2回戦でも戦ったアンドレイ・クズネツォフ(42位、ロシア)。クズネツォフのフラット系のバックハンドストロークは、グラスでは要注意だろう。

「明日続くのはもちろん大変ですけど、とりあえず今日勝てたことを収穫として、明日どうなるか。100%に戻ることはないでしょうけど、しっかり体を見ながらやっていきたい」

 錦織が左わき腹を痛めることは、ジュニア時代から度々あったことで、10年以上にわたる、いわば古傷だ。だからこそ無理は禁物だ。3回戦も錦織にとって難しい状況であることは間違いなく、その中で彼ができる限りのベストプレーを見せてくれることを望みたい。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi