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中華人民共和国(中国)は6月25日21時00分(日本時間)、南シナ海の海南島に新たに建設した「文昌衛星発射センター」から、新型ロケット「長征七号」を打ち上げた。ロケットは順調に飛行し、搭載していた新型有人宇宙船の試験機など、合計6機の人工衛星の軌道投入に成功。宇宙船の試験機は翌日、内モンゴル自治区に広がるゴビ砂漠への着陸に成功した。

新型ロケットと宇宙船、そして新しいロケット発射場と、中国は宇宙開発において三兎を追い、そしてすべて捕まえることに成功した。この事実は一体何を意味しているのか。本連載では、新型ロケットと宇宙船、新しいロケット発射場がそれぞれどのようなものなのか、さらに中国の宇宙開発の現状と今後について、4回に分けて解説したい。

○生まれ変わる長征ロケット

これまで中国は、地球低軌道への打ち上げに適した「長征二号」、静止衛星の打ち上げに適した「長征三号」、極軌道衛星の打ち上げに適した「長征四号」の、大きく3種類の長征ロケットを運用していた。長征三号も四号も、細かい違いはあれど、基本的には長征二号をベースに、ロケットの段を追加するなどして造られており、すべてをひっくるめて長征二号シリーズと呼ぶこともできよう。

これら"旧"長征ロケットの歩みは決して平坦なものではなく、何度も打ち上げ失敗を経験し、とくに1996年には、おそらく宇宙開発史上最悪とされるほどの大事故をも起こしている。だが、それでもめげずに数多くの人工衛星、有人宇宙船を打ち上げ続け、中国を最盛期の米ソに勝るとも劣らないほどの宇宙大国へと押し上げた。長征シリーズの全種類を合わせた打ち上げ数は現在までに200機を超え、成功率も信頼性も高い水準を維持している。

しかし、そんな長征ロケットにも世代交代が必要となった。

その最大の理由は旧式化である。長征二号は、何度かの改良が重ねられているとはいえ、初打ち上げは1975年と今から40年以上も昔のことで、すでに旧式化している。もちろんそこから派生した長征三号、四号も同様である。

また旧式であるが故に、時代の要求に能力が追いつかなくなり、さらなる能力向上に向けた改良も難しいという問題も出てきた。

もっとも、かの有名なロシアのR-7「セミョールカ」ロケットも、すでに半世紀以上も現役を続けている。しかし、ロシアはR-7以外にも小型機から超大型機まで多種多様なロケットを保有しているが、中国は軍事衛星から通信衛星、探査機、そして有人宇宙船に至るまで、ほぼすべての衛星の打ち上げを長征二号と、そこから派生した長征三号、四号に委ねていた。しかし、長征三号の静止衛星の打ち上げ能力は最大でも5トンほどだが、近年では6トンや7トンもある衛星が出てきている。また、月や火星へ大型の探査機を飛ばすのも、旧長征では難しい。つまり長征二号の性能の限界が、そのまま中国の宇宙開発の限界でもあったのである。

さらに、旧式であることからコストダウンや信頼性の向上といった改良も難しく、加えて使用している推進剤も毒性の強い四酸化二窒素と非対称ジメチルヒドラジンというもので、環境や人体への悪影響が長年懸念されていた。

こうしたさまざまな事情から、長征ロケットは新たな時代に向けた世代交代を迫られたのである。

○長征七号

このような経緯から、中国は小型ロケットの「長征六号」、大型ロケットの「長征七号」、そして超大型ロケットの「長征五号」を開発することになった。このうち長征六号は昨年10月に1号機の打ち上げに成功しており、そして今回長征七号の打ち上げに成功。さらにこれに続き、長征五号も今年中の打ち上げが予定されている。

長征六号は主に小型衛星の打ち上げに使用される。とくに、打ち上げにかかる期間が短い”小回りの良さ”を利用して、戦争や災害といった緊急事態に、地表を観測する衛星を即座に打ち上げる能力を売りとしている。

長征五号はその強大な打ち上げ能力を利用し、宇宙ステーションや大型の月・惑星探査機といった、打ち上げに大きなエネルギーの必要なものの打ち上げに使用される予定となっている。

そして今回打ち上げられた長征七号ロケットは、大型ロケットということもあり、主力ロケットとして最も多用される予定となっている。一説には、中国のすべて衛星打ち上げのうち、およそ80%を長征七号が手がけることになるという。

長征七号の打ち上げ能力は地球低軌道に13.5トン、太陽同期軌道に5.5トン、そして静止トランスファー軌道に7トンと、旧長征シリーズから大きく進化した。この数字は、世界の主力ロケット、たとえば欧州のアリアン5や米国のアトラスV、ロシアのプロトンMなどと並ぶほどの高い性能をもつ。よほど大型で特殊な衛星でもない限り、長征七号で打ち上げられない衛星はない。

また最上段には「遠征一号甲」という上段を搭載することができる。遠征一号甲はロケット・エンジンを何度も動かしたり止めたりすることができる能力をもち、静止衛星を直接静止軌道に投入したり、複数の衛星をそれぞれ異なる軌道に投入したりといったことが可能となる。実際、今回の1号機の打ち上げでは、後者の能力が使われている。

なお、長征七号の打ち上げコストは不明であるが、従来よりも安価になった、あるいはなるといわれている。

長征七号をはじめ、次世代長征ロケットにはさまざまな新技術が投入されている。その中でもとくに注目したいのは、世界最先端の技術を使うロケット・エンジンと、長征五号、六号、七号がそれぞれエンジンや機体を共有する「モジュール化」の2つである。

○世界最先端のロケット・エンジン「YF-100」

長征五号、六号、七号の、次世代長征ロケットの特徴のひとつは、世界最先端の技術を採用したロケット・エンジン「YF-100」を使用しているところにある。

YF-100は、エンジンを動かすための仕組みに、「酸化剤リッチ二段燃焼サイクル」と呼ばれる、きわめて高度な技術を採用している。詳細は省くが、この仕組みは推進剤をいっさい無駄にすることなくエンジンのパワーに使うことができるため、非常に性能の良いエンジンにできるという長所がある。しかしその反面、エンジンの構造が複雑になり、また各所にかかる圧力や温度の条件が厳しく、どこかで不調が起きると途端に爆発する可能性もあり、さらにエンジン始動のタイミングの制御も難しいなど、製造や運用が難しいという短所もある。

また、酸化剤リッチ二段燃焼サイクルの中でも、燃料にケロシン、酸化剤に液体酸素を使うエンジンはとくに難しく、これまでに実用化に成功したのはソヴィエト連邦/ロシアだけだった。米国は1990年代に、ソ連/ロシアで開発された酸化剤リッチ二段燃焼サイクルのケロシン・エンジンの技術を入手し、米国内で生産しようとしたが、現実的な予算や人員の範疇では難しいことがわかり断念。結局、ロシアから完成品を輸入し、ロケットに装着して打ち上げている。

一方中国は、1990年にソヴィエト連邦から2基の「RD-120」というエンジンを輸入して分析し、1995年には燃焼試験も行ったとされる。RD-120は「ゼニート」というロケットの第2段に使われているエンジンで、酸素リッチ二段燃焼サイクルのケロシン・エンジンである。ちなみに1995年には、米国もRD-120を手に入れ、燃焼試験を行い、その性能を評価している。

中国はその後、このRD-120を下敷きに、1998年ごろから独自のエンジンの研究を開始。初期は失敗の連続で、大きな爆発事故も経験したというが、中国は粘り強く開発を続け、そして2012年にYF-100として開発が完了した。

RD-120を基にしているとはいえ、酸素リッチ二段燃焼サイクルのケロシン・エンジンは技術的に難しく、たとえ手元に実物や設計図があるからといって、すぐに真似して造れるようなものではない。また、YF-100はRD-120と比べて性能が大きく向上していることから、単なるコピーではなく、中国独自の改良も加えられたことがわかる。

長征六号はこのYF-100を1基、長征五号と七号は最大6基使用する。そして昨年の長征六号、今回の七号の打ち上げ成功で、YF-100は実際の飛行にも耐えられることが証明されたと同時に、中国が酸化剤リッチ二段燃焼サイクルの技術をほぼ会得したと考えて良いだろう。今後、YF-100よりさらに高性能なエンジンの開発が進み、より強力なロケットが出てくることは十分に予想される。

なお余談だが、中国側からはYF-100は環境や人体に優しいと説明されることがあるが、それは旧長征が使っていたヒドラジンに比べて、という意味であり、炭化水素の燃焼であるため二酸化炭素を排出する。環境に優しいという点では、日本や米国、欧州のロケットが使用する液体酸素と液体水素の燃焼に敵うものはない。

○モジュール式ロケット

次世代長征ロケットのもうひとつの特徴は、ロケット・エンジンや機体など、部品を共有し合う、「モジュール式ロケット」という概念を採用しているところにある。

たとえば、長征五号は装着するブースターの種類や本数を変えることで、多種多様な打ち上げ能力に対応することができるが、さらにそのブースターのみを取り出して上段を追加することで小型ロケットを、加えて機体を束ねることで中型ロケットをも造りだすことができるという仕組みである。

この仕組みの最大の長所は、同じ規格の部品(モジュール)を生産し続ければ良いので、量産効果によるコストダウンや、信頼性の向上が期待できるところにある(もっとも、自動車などの製品と比べ、ロケットの生産数は少ないため、目に見えるほどの量産効果が現れるかは疑問である)。

一方で、短所もある。あるロケットを設計するとき、その目的とする能力によって、理論的に最適な設計というものがある。しかし、モジュラー・ロケットの場合、使える部品の大きさや性能があらかじめ決まっているため、打ち上げ能力に合わせて設計を最適化するということができない。そのため、効率という点から見ると、無駄の多いロケットになってしまうのである。それだけならまだしも、打ち上げ能力が極端に低くなったり、あるいは打ち上がりさえしないなど、そもそもロケットとして成立しない状態に陥ることも起こりえる。

過去にモジュール化に挑戦したロケットはいくつかあるが、どれも完全に成立したことはなかった。長征六号の開発でも実際にそれが起き、設計変更を余儀なくされ、完全なモジュール化からは外れることになった。ただ、ロケット・エンジンやタンクの設計など、依然と多くの部分でモジュール化は維持されており、また長征七号と五号との完全なモジュール化は変わらず引き続き維持されている。

偶然にも時同じくして、ロシアも次世代長征に似たモジュール化ロケット「アンガラー」の開発を続けており、現在までに2機の試験打ち上げに成功している。

他方、米国の民間企業では、ロケットを再使用することでコストダウンを図る挑戦が始まっている。同じコストダウンという目標を目指しながらも、ロシアと中国などはモジュール式というまったく異なるアプローチを取ることになった。どちらが正しいのか、それともどちらも正しいのか。今後のロケット開発の行方に注目したい。

(次回は長征七号に搭載された新型宇宙船の試験機について取り上げます)

【参考】

・Long March 7 - Rockets
 
・CZ-7 makes successful maiden flight | China Space Report
 
・China successfully debuts Long March 7 - Recovers capsule | NASASpaceFlight.com
 
・LIVE: Long March 7 (CZ-7) maiden flight - WSLC - June 25, 2016 (12:00 UTC)
 

(鳥嶋真也)