布田 尚大 / 合同会社INHEELS

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私が関わっているINHEELS(インヒールズ)は、「エシカル」ファッションの製造・販売、またその魅力のPRを生業とするソーシャルベンチャーである。直訳すると「倫理的な」という意味のエシカルという言葉、使う人によって意味は若干異なるが、私たちはエコな素材の使用、フェアトレードな製造体制など、「環境・社会への負荷をおさえた服づくり」をもって、エシカルを名乗っている。

数年前に「エシカル消費」というキーワードも登場し、少しずつ浸透してきているエシカルという言葉。そのような背景の中、今回はエシカルファッション業界の1プレーヤーとして、私がINHEELSで業務を行う上で強く意識しているポイントをご紹介したい。

それは、「複数のコミュニティを越境しながらビジネスを行うこと」である。

具体的には1、ファッション 2、ビジネス 3、ソーシャルのコミュニティである。エシカルファッションブランドをマネジメントする企業として一見当たり前なこれらの要素。キーポイントは、それぞれの要素を単に大事にしようとするマインドではなく、「それぞれのコミュニティに入る」という活動を実践することにある。というのは。これら3つに関わる人たちは、考え方もライフスタイルも全く異なるからだ。いくらそれぞれを大事にしていることを一方的にWEBやSNSで発信しても、それぞれコミュニティ内部の人への伝達はままならないのである。以下では、INHEELSが実践している、それぞれのコミュニティでの活動を簡単に事例を交えながらお話しする。

1、ファッションについて


私は現在「ここのがっこう」というファッションの専門学校に通っている。イギリスのセントマーチンというファッションデザインで世界有数の大学を出て、海外のメゾンを経て日本でwrittenafterwards(リトゥンアフターワーズ)というファッションブランドを立ち上げた山縣良和という方が立ち上げた、先端的な学校である。授業のテーマは世界のファッション業界の最先端で起こっているトレンド、イッセイミヤケ、コム・デ・ギャルソンといった日本を代表するブランドの作品、コレクションの創作プロセスなど、ファッションに関連するクリエイション全般。このコミュニティによって、ファッションデザイナーやファッションテック系の方など、エシカルファッションにとらわれない様々な方とのお話が進んでいる。

2、ビジネスについて


現在私が担当している法人事業では、企業などの各種法人を顧客とした、ユニフォームや館内着といった法人向け衣類、販促物の受注を行っている。少し古いデータになるが、マーケットリサーチを行う矢野経済研究所によれば、ユニフォーム市場は若干ながら成長しており、事務職向けのような機能性第一の衣類ではなく、デザイン性の高い「おもてなしウェア」(オリンピック需要も背景にある)のような、顧客対応時に使用される制服のニーズは高い。CSR・CSVを重視する企業も増える中で「エシカルでスタイリッシュな制服」を通した社会貢献×ブランディングというニーズは高く、シリコンバレー在住のベンチャーサポートの専門家からも、「ビジネスモデルとしてスケールする可能性がある」と言われる領域である。他にも、例えばブランディングコンサルタント、他企業の経営者、(ソーシャルに限らない)女性向けメディア、EC関連のテクノロジーベンチャーなど、事業スケールのために様々な方との連携・アドバイスをいただきながら前に進んでいる。

3、ソーシャルについて


上記のようにINHEELSはファッションビジネスのプレーヤーであるが、その目的は、ビジネスという方法を通しての社会的課題の解決である。アイテムの製造を大半をお願いしているネパールの工場、フォークネパールでは、従業員への適正な賃金、清潔な作業環境の実現はもちろん、近隣の小学校への制服の寄付、同地域初の歯科クリニックの設立、昨年の地震の際にチャリティーイベントを開催し金銭の寄付を行うなど、様々な施策を行っている。先日はノーベル平和賞受賞者の方の来日トークイベントに弊社代表が登壇したりと、エシカル/ソーシャルといった発想の重要性の啓発活動も積極的に行っている。

以上、INHEELSが重視している3つのコミュニティについて簡単にお話してきた。これらのコミュニティを越境しながら結びつけていくことで、少しずつだがINHEELSが中心となるエコシステムができ、ビジネスが上手く回り始めている手応えがある。この流れををこれからも加速していきたい。

しかし、実はビジネスをうまく回す以上に、強く意識すべきことがあると思っている。それは、これらのコミュニティをリソースとして活用する以上に付加価値を創出し、その活性化に貢献することである。

服が以前ほど売れなくなり、繰り返される大量生産・大量セールに疲弊している側面もあるファッション業界に対し、エシカルという考え方で新しい価値のあり方を提案する。

よく「社会にいいことはやっていてもスケールしない」と言われるソーシャルベンチャー。事業性の低さは、従業員の所得低下や過度な長時間労働など、業界全体の停滞をもたらす。ソーシャル性とスケールアビリティを両立し、業界全体にヒト・モノ・カネと様々なリソースが集まる流れを作っていきたい。

ファッションカルチャーへの新しい価値観の提示、ビジネスとしての成長性を確保することで、より大きな社会的インパクトが出せる。共感を持っていただける企業であり続け、ソーシャルグッドな活動を実践する方々を増やす。それができて始めて時たま受ける「自分たちで小さなソーシャルベンチャーをやるより、大手企業が支出するCSR費用の方がよっぽど社会的インパクトがあるのではないか」という質問に回答できると思っている。

ファッションもビジネスもソーシャルも、三者三様に面白く、三者三様に難しい。だからこそ毎日エキサイティングに事業を推進できるのだ。