海外で代表ユニフォームを着て戦う。それだけでも彼らにとってはエキサイティングで、幸せなことだ。裏を返せば、ここで悪いプレーをすれば、この幸福を手放すことになる。高揚感と危機感を持ち合わせた彼らのプレーは、ひたむきさという形で現れ、実力とともに日本を凌駕した。

 この事実は、森山監督がずっと放っていた言葉の本当の意味と真意を理解するのに十分なものだった。「日本では絶対に味わえないフィジカル、スピード、足の伸びを、頭では分かっていたけど、イメージを越えるものを実際に体感できることができました。忘れられない試合になったと思います。僕らはこれまでヨーロッパでイングランドなどと試合をしましたが、それとは違うものが…、言葉で表しきれないものがあることを知りました」とDF菅原由勢が語ったように、やれていると思っていたが、それは大きな間違いだったのだ。しかし、この気付きこそ、日本にとって重要で、将来に繋がるものであるし、そうしなければいけない。

 森山監督はマリ戦後、「体幹やフィジカル面の強化も意識を変えて、さらに強く、さらに正確に、アイデアを持ってやっていかないといけません。テクニックで上回る場面はあるかもしれませんが、サッカーは90分間の中で、必ずフィフティーの場面が生まれます。そのボールの奪い合いで負けていたら勝負には勝てないのは、今日でよく分かったと思います。個の能力の差を集団で何とかしようとしたが、向こうも集団で何とかして来た。その上で失点シーンはこちらが束で掛かって、相手の個に完全にぶっちぎられたわけですから」と、マリとの差を表現した。

 できていたであろうことが、できていなかったからこそ、もう一度自らを見つめ直し、高い意識を持って日常を過ごさなければならない。

 今後、森山監督の選手にかける言葉は、これまで以上の説得力と、意思伝達を生み出すだろう。この経験を機に、真の闘う集団に変わっていくはずだ。森山監督の言葉が伝わらない選手は、代表のユニフォームに袖を通すことができなくなるのだから。

文=安藤隆人