お気に入りのカフェと美容室でウソをついてはいけない【シングルマザー、家を買う/53章】
<シングルマザー、家を買う/53章>

 バツイチ、2人の子持ち、仕事はフリーランス……。そんな崖っぷちのシングルマザーが、すべてのシングルマザー&予備軍の役に立つ話や、役に立たない話を綴ります。

 フリーランスにはオフィスがない。

 当たり前のことだが、会社に所属をしていないから、通う場所がないのだ。となると、必然的に働く場所は家になる。

 でも、家にはたくさんの誘惑がある。読みかけの雑誌もあれば録画したテレビ番組もある。小腹が空けばご飯を食べるし、手をのばせばお菓子もある。さらに手をのばせば布団があり、知らぬ間にテレビのリモコンを持ったまま寝てるということも……。そう、家で仕事をするのは、相当の自己管理能力がないと、私は無理だと考えている。

◆最高の“オフィス”探し

 そこで考えたのが、外で仕事をするということ。フリーになったばかりは、仕事量も少なかったためノートPCを持ち歩くようなことがなくても十分に締め切りに間に合った。しかし、仕事が増えるにつれ、取材と取材の合間や移動中の電車の中で原稿を書かないと迫りくる締め切りの波に負けてしまうようになってしまったのだ。そこで最軽量のノートPCを先行投資として購入し、持ち歩く日々が始まった。

 ここで問題になるのがコンセント。ノートPCはどんなに燃費が良くても数時間しか持たない。これでは原稿が書きあがる前に強制終了されてしまう。ほとんど書きあがった状態の原稿が消えるときの悲しさと言ったら! どんなにファニーフェイスの人でも、この状況になれば日本海の崖っぷちに立たされたような悲壮感が漂うだろう。

 私は最寄り駅でコンセントが使えるカフェに全部立ち寄り、自分が一番働きやすい場所を探すことにした。

 私が住む駅には、やたらとチェーン店のカフェがあるのだが、コンセントが使えるのがたった2店。そこで何日かずつ変えて仕事をしてみることにした。結果として、一番空調がちょうどよいA店にすることにした。

◆カフェだと集中できる理由

 A店を拠点として働き始めてから、仕事の効率が驚くほど上がった。

 要因として、家にはない他人の目があるからこそ、怠けないことが挙げられるだろう。駅前のカフェでPCを開いて仕事をしているかぎり、寝ることはできないし、金銭的な面で暴飲暴食をすることもない。しかも、ある程度の金額の紅茶を飲むことで“この金額を払って働いているなら、なるべく早く原稿を仕上げなくちゃ”というよくわからないプレッシャーがのしかかってくる。そのおかげで、ものすごい集中力を発揮することに気が付いたのだ。

 それからというもの、私はその厳選したカフェを“オフィス”と呼び、毎日のようにそのお店で仕事をするようになった。毎朝、保育園に子供を預けたあと、自転車で気持ちよくその店に“ピットイン”し、コーヒーが飲めない私は紅茶を頼む。しかも、毎日来ていることを悟られたくないため、なるべく違う席に座り、ひっそりと仕事に励むこと1年。もはや私の中でこのカフェは、大事な職場となっていた。

◆理想のオフィス喪失の危機!

 その頃から店員さんに挨拶をされるようになった私は、戸惑いながらもひっそりと笑顔を返していた。そしてある日、ある店員さんが私に一声かけてきたのだ。

 私はびくっとしたあと、いつも長居して申し訳ないという気持ちと、恥ずかしい気持ちで声を裏返しながら返事した。すると彼女はゆっくりこう言ってきた。

「あの、いつもPCでお仕事されていますが、もしかして、脚本家さんですか?」

 え! 脚本家!? 橋田寿賀子的な? 宮藤官九郎的な!?

 たしかに、私が書いている原稿はインタビュー原稿が多いから、遠目からみてカギカッコが多いことに気が付いたのかもしれない。