【恋する歌舞伎】第11回:つらく、美しい別れ。歌舞伎を代表する異類婚姻譚

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日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう、わかりづらそう…なんて思ってない? 実は歌舞伎は恋愛要素も豊富。だから女子が観たらドキドキするような内容もたくさん。そんな歌舞伎の世界に触れてもらおうと、歌舞伎演目を恋愛の観点でみるこの連載。古典ながら現代にも通じるラブストーリーということをわかりやすく伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

今回の「恋する歌舞伎」では、7月歌舞伎鑑賞教室(@国立劇場)で上演される、『卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)』をご紹介! ◆二人を引き寄せたのは、一本の柳の木!なぜならこの木は…


主な登場人物は浪人・平太郎(へいたろう)とその妻・お柳(りゅう)。二人の出会いは、さかのぼること5年前。 紀州熊野の谷間で、偉い武士が放った鷹の足緒(※)が、一本の柳の木に絡まり動けなくなってしまう。しかしその柳の木はあまりにも高く、誰も登って取ることができない。とうとう武士は力ずくでと、その柳の木を切ることにした。そこへ通りかかったのが平太郎。事情を聞き、どうにか切らずに済む方法ないものかと思案し、「弓矢で縄だけを切ってみせます」と宣言する。そんなこと出来るはずがないと笑われたものの、矢は枝にからまっている足緒に見事命中。鷹は無事に柳の枝から放たれ、柳の木も切られずに済んだのだった。そこへ陰で様子を見ていたという茶屋の娘・お”柳”が現れる。彼女は柳の木を守ってくれたことに礼を言い、話をするうちに「一人身なら結婚してほしい」とまさかの逆プロポーズにまで発展する。突然のことに驚く平太郎だが、これも何かの縁とその場で祝儀の杯を交わすのだった。

※鷹狩に使う紐のようなもの

◆前世からラブラブ!二人は絡まって離れない、二本の木だった


名前から連想できる通り、お柳の正体は人間に姿を変えた柳の木の精であったのだ!話は前世にさかのぼる。その昔、紀州の梛(なだ)の木と、柳の木とが、枝を伸ばして絡み合う<連理の木>になっていた。この連理の形は男女の交わりにも似たもので、その光景を見た山伏の蓮華王坊(れんげおうぼう)は、「修行場にこんなものがあってはよくない!」と二本の枝を切り離してしまった。梛の木はその後、人間・平太郎に生まれ変わったが、柳の木は生まれ変わることが出来なかった。そこで柳の木は平太郎の妻になるために、お柳という美しい女に姿を変えて現世に現れ、めでたく再び結ばれたのだった。

◆平和な家族の前に突如あらわれた前世の因縁


超スピード婚から5年が経ち、息子も生まれ緑丸(みどりまる)と名付け平和に暮らしていた平太郎一家。そんなある日、役人が立ち寄り「都の白河法皇の頭痛をなおすために柳の木を切りにきた」と話す。仔細を聞くと、「頭痛の原因は法皇の前世のドクロが柳の梢に留まっていることに起因する」という。またそのドクロを納める御堂をつくるには棟木が必要なため、この木を切るのだと。なぜ法皇の前世に柳が関係するのかというと、何を隠そうこの法皇こそ、梛と柳を切り離した蓮華王坊の生まれ変わりだったからだ。柳が切り倒されてしまえば、自分も死んでしまう。もう家族といる時間は残されていないと悟るお柳なのだった。

◆哀しく響く木遣音頭。夫のため、子供のために、母は最期の力をふりしぼる


外の柳に斧が入れられる度に、苦しみだすお柳。彼女は痛みに耐えながら自身の秘密を夫に打ち明け、所持していた法王のドクロを渡す。これを都に持参して出世して欲しいと託し、お柳は消えてしまうのだった。
一方柳の木はとうとう切り倒されてしまい、運び出されることに。しかし不思議なことに木をのせた車は、平太郎の家の前まで来た途端、いくら引いてもぴくりとも動かなくなってしまう。そこへやってきたのは緑丸を連れた平太郎。思い当たることがあるので、我が子に音頭を取らせ、自分たちに綱を引かせてほしいと申し出る。すると今まで岩のように動かなかった柳の木はするすると動き出す。そしてこの働きや、お柳から預かった法王のドクロを差し出したことが手柄となり、没落していた平太郎の家は再興するのだった。
お柳はその後、二度と姿を現すことはない。だが都に運ばれた柳の木は三十三間堂の棟木となり、今も私たちを見守っているのだ。

(監修・文/関亜弓 イラスト/カマタミワ)