別のコンセプトを提示できなかったものだろうか。イタリアの術中にはまり敗れるスペインを見て思ったことだ。攻めるスペイン。守るイタリア。この構図に遭遇するのは何回目か。ストーリーや「落ち」が最初から分かっている、お約束のお芝居。お決まりの展開だ。水戸黄門じゃないんだからと言いたくなる。

 その中にどっぷりと浸かり込んだスペイン。それを避けようとする努力も工夫も見られずじまい。傲慢。過信。警戒心ゼロ。巧いのは足ワザだけ。ボールの奪われ方に問題がありすぎるサッカー。これ以上、非頭脳的なサッカーはない。

 想起するのは悪い時のバルサであり、レアル・マドリーになるが、彼らには大層なFWがいる。メッシ、スアレス、ネイマール(バルサ)、クリスティアーノ・ロナウド、ベンゼマ、ベイル(マドリー)が、少々の問題を力ずくで解決してくれる。その決定力で、サッカーそのもののまずさを、補ってしまうことがしばしばある。問題は明るみになりにくいが、スペイン代表に彼らはいない。

 モラタはマドリーを出された、いわば修行中の選手だ。後半投入されたルーカス・バスケスも、マドリーでは上記3人のサブだ。バルサ、マドリーのFW力を10とすれば、スペイン代表は6〜7がいいところ。その分、サッカーの質を高める必要がある。アトレティコ・マドリー的になる必要があるが、スペイン代表の気質はバルサ、マドリー的だ。ビッグクラブ病を抱え多チームになっている。

 イタリアにはおあつらえ向きの、スペインは戦いやすいチーム。前回決勝でイタリアは0−4で敗れたが、中2日で戦うことになった日程の不利こそが一番の原因だった。参考にすべきは1−1で引き分けた、そのグループリーグにおける戦いになる。

 危機感のない能天気な集団。スペインは敗れるべくして敗れた。ある意味で予想通り。3連覇を狙うスペインの敗戦は、確かに大きなニュースだが、個人的には衝撃的な出来事ではない。事件と呼ぶには当たり前すぎる結果に思える。スタッド・ドゥ・フランスで実際に見たにもかかわらず、そうした印象を抱く。

 スペイン代表には、全く違うサッカーで出直して欲しい。個人的にはそう思う。スペイン国内にはいい選手が、たくさんいるのだから。代表監督はディエゴ・シメオネあたりにお願いしたいものだ。

 事件性という点では、その終了直後に、ニースで行われたイングランド対アイスランド戦の方が断然高い。アイスランドは氷河とオーロラで知られる極寒の地だ。人口は僅か32万人。旧大英帝国の一員ではないが、デンマークとともに英国の影響を受けてきた辺境国である。アイスランドにとってイングランドは、強国であり大国だと思う。そこに2対1で逆転勝ちするとは。なによりにアイスランド国民が一番驚いているのではないか。これぞ、今大会、最大の番狂わせになる。

 グループリーグの最終戦でオーストリアと対戦したアイスランドは、後半のロスタイムに入るまで1−1だった。このまま終わればグループリーグ15番目の通過。決勝トーナメント1回戦の相手はクロアチアになるはずだった。だが、その反動でオーストリアにゴールを許せば落選だ。攻撃にはリスクがあった。常識的なチームなら時間の経過を待ったはずだ。

 どうせやるならイングランドと思ったのかどうか定かではないが、というより、無欲だったと思う。最後まで全力で。そしてその結果、まさに終了直前の94分、決勝ゴールをゲットした。瞬間、決勝トーナメント1回戦の相手はイングランドに変わった。

 その真っ直ぐな感じこそがアイスランドの魅力になる。だが、珍しい集団かと言えば、あながちそうでもない。前にも述べたが、イングランドを除く英国系のチーム、ウェールズ、アイルランド、北アイルランドもそうした気質の国だ。アイスランドに敗れたオーストリア、ハンガリー、アルバニアなども、真っ直ぐなチームだった。本大会出場国が16から24に増えたことで出場機会を得たこうしたチームの敢闘精神は、今大会、新鮮な魅力として、改めてこちらの目に眩しく映った。

 そしてそのうちの2チーム(ウェールズ、アイスランド)が、8強入りした。ボール操作術で劣っても何のその。彼らは少しもへこたれなかった。自分自身でガックリすることはなかった。忠実勤勉真面目とは、日本人の気質を言い表したものだが、サッカーに落とし込むと、怪しかった。それがいっそう鮮明になったのが今回だ。日本にアイスランド的な魅力はない。その手の真面目さは持ち合わせていない。少しは巧いが、ものすごくは巧くない選手が、いちいちガッカリするサッカー。色気を覗かせながら、無欲とは一線を画すサッカーだ。スペインにありがちな傾向が見え隠れするのが日本。スペインの敗退を嘆くより、アイスランドの番狂わせにスポットを当てたほうが、日本につける薬としては有効だと僕は思う。