特別な日だ。日本代表戦としては初の『天覧試合』である。試合後、天皇、皇后両陛下が、柔和な笑顔で手を振られた。記録的な「34073人」の大観衆からは拍手が沸き起こった。

 正面スタンドに向かって並んだ日本代表の顔が悔しさでゆがんでいる。記者と交わるミックスゾーンで、スタンドオフ(SO)の田村優はこう、振り返った。

「大変光栄でした。(天覧試合は)人生で一回あるかないかのことだと思うので、いいところを見せたいといったらおかしいですが、すごく勝ちたかったですね」

 25日の日本対スコットランド第2戦。場所は、2019年のワールドカップ(W杯)日本大会で開幕戦を戦う東京・味の素スタジアムである。舞台は整っていた。天気も夜なのに気温26度、湿度65%。この蒸し暑さは日本に有利とみた。スコットランドはばてる。

 勝負のアヤは、後半20分過ぎの日本の猛攻だった。日本が1点リード。日本は相手ゴール前のラインアウトから、得意の連続攻撃を仕掛けた。はやいテンポで途中から入ったスクラムハーフ(SH)内田啓介が球を素早く散らす。サポートプレーも早く、右に左に、24フェーズ(局面)も重ねた。

 対するスコットランドのディフェンスは分厚かった。タックルしても、すぐに立ち上がる。足を引きずりながら、次のポイントに走る。人数が減らなかった。フィジカル勝負というか、互いの意地と勝利への執念がぶつかった。いわば「我慢比べ」である。

 最後、SHの位置に入ったSO小野晃征がラックの右サイドに持ち込んで、ゴールライン寸前でボールを落とした。ノックオン。チャンスはつぶれた。ここでトライを重ねていれば、勝敗は逆になっていただろう。

 24歳の内田は「最後、どちらが我慢できるかだったと思います」と打ち明けた。

「勝負のポイントは、土壇場でどちらが我慢して基本プレーに立ち返れるかだと思います。そこのちっちゃな差かなと。ちゃんとボールをリリースするところ、ボールをちゃんと見てキャッチするところ......。基本プレーがいかに大事かということが身に沁みました」

 勝つためには? と聞かれて、主将の堀江翔太はこう、答えた。

「個々の能力を上げることもそうですが、ゲームの理解度、クロスゲームのところでどれだけディシプリン(規律)を大切にするかというところでしょう。精度が高いボールキャリア、基本のプレーも、です。2019年(のW杯)に向けて、選手個々が自分にベクトルを向けて、さらに上を目指すかというところだと思います」

 簡単にいえば、やはりディシプリンの差だった。確かにレフリングはひどく混沌としていたが、それでもPK となる反則17個は多すぎる。相手は7個。なぜか。問題はプレーの精度だけでなく、チームとしてオーガナイズドされてなかったのである。攻め方の徹底、選手間の連係、結束の強度。つまり、組織としての意思統一が薄かったのである。

 だから、勝負どころのプレーが雑に見えた。ばらけた。ミスが出た。反則を取られた。

 逆にスコットランドは一見、大したことはないように映るのだが、バックスはキックとディフェンスに忠実で、FWも粘っこくて重かった。途中から入ったSHレイドローに象徴されるように狡猾だったのである。後半30分、レイドローのPGでついに逆転された。

 このチームを、昨年のW杯の日本代表と比べるのは酷である。準備期間も短ければ、新ヘッドコーチも不在なのである。安定感を増した27歳のSO田村はこう、反省した。

「僕自身もですけど、日本代表として、選手だけでなく、コーチ陣や日本協会も含めて、経験の差かなと思います。それは準備であり、マネジメントであり、きょうのレフリングへの対応であり...。そういうところで伝統国との差が出たのかなと思います」

 田村は昨年のW杯を経験した。スーパーラグビーに初参戦したサンウルブズとしても戦っている。間違いなく、2019年W杯の主軸となる。

 成長した部分は?と問えば、「慣れましたね」と漏らした。

「外国人のプレーが日常になったので。みんな、そうだと思います。僕らはもう、こういう試合を積み重ねていくしかないんです」

 センター(CTB)の立川理道もW杯もサンウルブズも経験し、確実に力をつけている。この日唯一のトライとなった前半中盤のライン攻撃は鮮やかだった。みんなで走って、みんなでつないだ。22歳のフルバック(FB)、松田力也の鋭いラン。26歳のアマナキ・レレイ・マフィのパワフルな突進。24歳の金正奎のつなぎ、25歳の茂野海人のダイビングトライ。2019年への視界が広がる。

 日本代表初先発の松田はランで非凡さを見せたが、キック処理では再三、もたついた。特にラスト4分でのキック処理。2点のビハインド。「自分の中ではランという選択肢しかなかった」と振り返る22歳はファンブルして、相手との間合いが詰まりながらも、強引に突破を試み、つかまって「ノットリリースザボール」の反則を取られた。

 PGを蹴り込まれ、16−21とされた。セオリーはキックだろう。ここはエリアを稼ぎ、PGでもいいから敵陣での逆転をかける。いずれにしろ、もっと幅広い選択肢を持たなければならない。

 スタンドには、ケガの五郎丸歩のスーツ姿があった。「五郎丸の代わりの先発出場は?」と聞かれ、松田は「五郎丸さんと同じ、日本の15番(FB)を背負うことを誇りに思いました」と言った。

「でも自分のプレーを発揮できなかった。一つひとつのプレーの大切さ、ミスの大きさというのを改めて肌で感じました。大舞台でのプレッシャーを、まだまだ楽しみに変えることができませんでした」

 FWのホープ、24歳のロック、小瀧尚弘は顔面や首筋に血のりがついていた。体は張った。でも、力不足を痛感した。「みんなに合わせる顔がない」と声を絞り出した。

 日本代表は頑張った。でも、勝てなかった。健闘、善戦止まりだと、かつての代表と同じである。24歳のプロップ、垣永真之介は「テストマッチは1点でも勝てば勝ちなんで」と言葉に悔しさをにじませた。つぶれた右耳には赤い鮮血がにじんでいた。

「(相手のスクラムは)強かった。まとまりというか、重みというか、チームとしての文化だと思う。経験の差が出ました」

 やはり経験は宝である。では、日本代表は2019年W杯に向け、どうチーム文化を醸成させていくのだろうか。特に若手は悔恨を味わい、それぞれの課題を知った。それが何よりの収穫だっただろう。

松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu