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日本マイクロソフトは、自社の技術を活用した「富山発・高齢者向け ホコケンIoTプロジェクト」を2017年6月25日まで実施する。Microsoft Azureと連携したSurface 3で歩行距離や歩行時間、周辺の店舗情報などを確認できる「まちなかカート」を使いながら、富山大学歩行圏コミュニティ研究会を中心としたプロジェクトチームは、今後迎える高齢者社会とITのあり方を探求していく。先だって報道向けの説明会を開催し、機材やプロジェクトの一部様子を公開した。

「富山発・高齢者向け ホコケンIoTプロジェクト」は、富山大学歩行圏コミュニティ研究会を中心に、民間企業の三協立山と行政側の富山市、地元市民が協働してきた「歩いて暮らしたくなるまちづくり」プロジェクトである。その成果物として、安全性と操作性を備えた歩行補助車「まちなかカート」を開発し、市街地などに設置してきた。そこに日本マイクロソフトも参画し、デバイスやクラウドを提供することで実現したのが、「Surface 3搭載クラウドまちなかカート」である。

まちなかカートに取り付けられたSurface 3はMicrosoft Azureと連携し、高齢者の歩行距離や歩行時間を逐一アップロード。また、店舗情報などをサーバーからダウンロードし、高齢者に情報提供を行う。

日本マイクロソフトは一連のシステムを「ホコケンIoTシステム」と名付け、まちなかカートのクラウド化やMicrosoft Power BIによるデータ視覚化を通じて、高齢者の健康増進に役立つ最新ITのモデル作りを目指す。富山市は高齢者の交流促進・介護予防、中心市街地の活性化を目的とする。富山大学は、産学官民協働による歩行圏コミュティ作りモデルを開発し、三協立山は使いやすさと安全を両立できるカートの知見を蓄積していく。

富山市長の森雅志氏は、「"ホコケン"への取り組みが、日本マイクロソフトの協力を得てワンステップ向上した。まちなかカートは、体力が弱った方々の気持ちを若返らせるツールだ」と今回の取り組みとカートを評した。

実際のまちなかカートを作成した三協立山 代表取締役社長 山下清胤氏は、「歩行補助器のF1カーというイメージで、若手の技術者やデザイナーを集めて取り組んだ。日本マイクロソフトが参加して、強力なチーム体制ができた」と成果を述べている。プロジェクトの中心にある富山大学の学長 遠藤俊郎氏も、「それぞれが知恵を出し合いながら実現できた作品。リハビリ活用や自転車のようにオプションを追加して機能を拡張できる」点を高く評価した。

ここでは特に、ホコケンIoTシステムの構造をピックアップして紹介する。まちなかカートが備える車輪の回転数をカウントするデバイスは、キャットアイ製の「CC-SC100B」だ。通常は10メートル単位のところを、10cm単位で歩測するように改良されている。まちなかカートの集積所となるステーションに戻ると、Windows 10 IoT CoreをインストールしたRaspberry Pi 2へデータを転送し、移動距離や位置情報などをMicrosoft Azureに転送するという流れだ。

各デバイスの役割だが、まずCC-SC100Bは、まちなかカートの車輪に付けたセンターで回転を検出し、Surface 3へBluetooth経由で送信すること。今回はタブレット(Surface 3)を用いる「Surface 3搭載クラウドまちなかカート」を使用するため、Raspberry Pi 2の役割をSurface 3が担っている。また、富山市内はフリーWi-Fiが普及しており、Microsoft Azureとのやり取りはすべて無線LAN経由で行われていた。

富山市内の店舗には、ユーシーテクノロジ製の「ココシルマーカー」を設置。ココシルマーカーが発するビーコンをまちなかカートが取得すると、Surface 3上に店舗側が手書きコメントとして作成、撮影した写真が現れる。各店舗はInstagramのアカウントを取得しており、アップロードした最新の写真をMicrosoft Azure側で処理して配信する仕組みだ。

「アプリケーションを開発する話もあったが、汎用性やコスト削減を踏まえてInstagramを採用した」(日本マイクロソフト 技術統括室 プリシンバルアドバイザー 大島友子氏)。まちなかカートから取得したデータ(歩行距離や歩行時間)はMicrosoft Azure上に蓄積し、Microsoft Power BIで視認性を高めながら、富山市民の健康促進につなげるとのことだ。

日本マイクロソフトが本プロジェクトに対し、Windows 10 MobileデバイスではなくSurface 3を選択した理由として、日本マイクロソフト 執行役 CTO 榊原彰氏は、「文字や画面が大きく見えることが重要と考えた」と述べる。また、店舗による手書きというアナログな手法が、クラウド経由でSurface 3に映し出される様子を、「アナログとデジタルが融合する部分を気に入っている」(榊原氏)とした。

実際に、Surface 3搭載クラウドまちなかカートで"まちなか"を歩いた参加者からは、「カートを持ったまま店舗に入れるのは大きい」「画面が鮮明で見やすい」といった声が上がった。一方で、「(電波の問題から)店舗情報が交錯したのは残念」「Surface 3を取り付けると(カートが備える)イスの機能が使えないので、回転するなどの工夫がほしい」など、高齢者目線の指摘も。

例えば「(Surface 3に)地図が表示されると分かりやすい」といった意見には、「実装する意見はあったものの、『歩きスマホ』みたいになりそうなので見送った」(大島氏)と回答。「途中で歩測データがゼロになる」という意見には、「ソフトウェアの不具合と思われる。ソフトウェアは皆さんの意見を反映して改良しやすいので、引き続き協力してほしい」(榊原氏)と述べていた。日本マイクロソフトは、今回のプロジェクト参画が経験を積むよい機会ととらえ、富山市に限らず全国で有効活用を目指していく考えだ。

今の日本は、総人口に占める65歳以上の割合が26.7%という超高齢社会を迎えている(*)。歩行補助器など自分に不要と思うかもしれないが、明日は我が身という言葉もある。「カートがネットワークにつながるデバイスになる」(榊原氏)というコンセプトで作られた「Surface 3搭載クラウドまちなかカート」は、アナログなマシンをデジタル技術と融合させることで、新たな可能性を導き出した。我々が高齢者となるころには、さらに革新的なアナログとデジタルが融合した世界が訪れることだろう。

(*)
内閣府「平成28年版高齢社会白書」から。平成27年(2015年)10月1日時点で、日本の総人口は1億2,711万人、65歳以上の高齢者人口は3,392万人。WHO(世界保健機構)や国連の定義では、65歳以上人口の割合が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」とされている。

阿久津良和(Cactus)

(阿久津良和)