行き過ぎた正義への信念によって、「日本警察史上、最大の不祥事」を起こすハメに陥る北海道警察の刑事・諸星要一の栄光と転落の26年を描いたピカレスクムービー『日本で一番悪い奴ら』が公開中。
監督の白石和彌は、身の凍る殺人事件を映画化した『凶悪』でメジャー長編デビューをした気鋭。彼の撮る悪は、とんでもないことをするのだが、なんだかとても魅力的。監督の視線はどこに向いているか、インタビューする後編。

前編はコチラ


──主人公の諸星刑事を演じた綾野剛さんとは、最初に演技プランを話し合って、これは綾野さんにお任せしたほうがいいとなったとプレスシートのインタビューに書いてありますが、どのへんでそう思ったんですか。
白石 初日です。クランクインの前日に、綾野君から「どうしたらいいかわからないです」という電話がかかってきて、翌日朝6時出発くらいにもかかわらず、夜12時くらいから飲みに行って、2、3時間くらい飲みながら、翌日のシーン、どうします? という話をしました。その時すでに綾野君がやりたいことと僕のやりたいことが一致していたんです。パチスロのシーンだったんですけど、もうそこで、ああ、見えたなって思いました。
──監督の気持ちを汲み取るセンスをもっている俳優なんでしょうね。
白石 事前に映画の行きつくところについては説明しまして、それを直感的に汲んでくれたっていうのはあったと思いますね。
──『凶悪』ですごい悪だったピエール瀧さんが、またしてもいやな感じなのにどこか憎めない人で出てきます。同じく『凶悪』のリリー・フランキーさんもそうでしたし、今回の綾野さんも。綿々とそういういやな感じなのに魅力的な人物が白石さんの映画に出てきて、みごとにそれを演じられる人を配置されています。
白石 ありがとうございます、うれしいです。
──キャスティングと俳優の魅力の引き出し方はどうやっているのでしょうか。
白石 ふつうの映画と違うことを僕がやっているからじゃないですかね。若松(孝二)さんもそうだったのですが、監督に呼ばれて、俺、若松組に出るんだと思った瞬間、何か覚悟を決めるみたいなところがあるんですよね。晩年、井浦新君とか大西信満君とか、みんなそういう気持ちでやっていたはずで、僕も、そういう感じを出したくて。そのためには脚本が大事だと思うんですよ。脚本を読んでもらった瞬間、この映画で勝負するんだってことをどれだけ強く伝えられる脚本を作れるか。気を使っているのはそれくらいですかね。後、ひとつだけ映画を撮る時に決めていることがあって・・・。
──なんですか?
白石 毎回、この映画を撮って、何にもならなかったら即引退と思っているんですよ。
──潔い!
白石 はい。その覚悟を決めた瞬間、なんかしら滲み出ているのかもしれないですし、俳優はそれを感じ取ってくれているのかもしれないです。
──そんな覚悟をもって臨む現場はどんな雰囲気なんでしょうか。
白石 思い切ったことをするしかないなと思うわけですよ。どうせ、へたすると辞めちゃうんだから、その場で僕がやりたいと思ったことを、まずは全部やるってことですね。


──今回、白石さんが思いきったことは何ですか。
白石 『凶悪』と根本的に違うのは、『凶悪』は、大きな殺しが物語の起点になっていますよね。その上で、過去と現在が行ったり来たりする構成でした。一方、「日本で一番悪い奴ら」は時間の流れに沿って、数多くの小さなシーンが積み重なっていきます。その積み重ねが最後、どこに行き着くか、それが勝負でした。成功したのを感じたのは、初号です。後半、出てくる、諸星のすごくゲスなシーンを、スタッフたちとゲラゲラ笑いながら編集していたんですよ。いざ初号になって、スタートからみんなが笑っていたので、この映画、やっぱり笑いがとれるんだと自信をもち、後半のゲスなシーンもどれだけ笑ってくれるかなと期待していたら、その場面が出た時には、みんなどん引きで、くすりとも笑ってくれなくて(笑)。その時、綾野君と共に、スタートから違うところへ観客を連れて行くことができたんだなと自信がもてました。
──諸星の人生の上がり下がりが鮮やかに描かれていたと思います。思いきったという部分で、冒頭のカースタントなどもスリリングで良かったです。最近、ああいうのもあまり見ない気がして。
白石 なんでですかね、お金かかるからですかね。
──かかるんですか。
白石 70年代の設定なので、昔の車を探さないといけないんです。あと、最近は、コンプライアンスが厳しくて、私道だったらいいけど公道でああいうことをやるのはけしからんという風潮がありますね。そうすると、『アイアムアヒーロー』などのように、日本でできないことを韓国でやるようになるんです。
──ロケ地探しも大変です。今回、北海道が舞台のところ、北海道で撮れない部分もあって、それは三重県などで撮られたそうですね。
白石 札幌のリアルなススキノって、意外と切り取りづらいんですよ。碁盤の目に区画整理されてきっちりし過ぎていて。それを70年代の風景にする場合は、もう少しごちゃごちゃしたところで撮る必要があったんです。
──監督は北海道出身だそうですが、原風景はなんですか。
白石 やっぱり雪じゃないですかねえ。雪深くて、たまにネコが埋まって動けなくなりながら、ニャー!と鳴いていることはよく覚えています。
──映画の中で雪のシーンも重要なところですよね。
白石 そうですね。
──人間って・・・。
白石 哀しいですよね。
──・・・そんな感じがしました。さきほど(前編)、ギャングものは楽しいとおっしゃっていましたが、楽しさと同時に青春の終わりの寂しさのようなものもある映画です。『凶悪』はずーんっと重たく突きつけてくるものがありましたが、『日本で〜』では全く違うものをやりたいと意識はしていたんですか。
白石 今回、2本連続実録ものになったのは、別に狙ったわけではなく、たまたまなんですよ。実は一度、漫画原作ものを準備していたのですが飛んでしまって・・・。そういう流れで、実録ものをやることになったものの、じゃあ何をやるかと考えると、例えば、『凶悪』と同じ路線で言うと、北九州の消された一家の事件などだったら、結局、罪と罰の話になって、僕が『凶悪』でどれだけ掘り下げられたかは別問題として、もう一回その延長戦のようなことをするのはちょっと違うかなとは思っていました。そもそも別に凄惨な映画だけを撮っていたいわけじゃなくて、楽しい映画──恋愛ものとかいろんなジャンルの映画を見ながら育ってきたので、今後はいろいろアプローチを変えつつやってみたいと思っています。


──恋愛ものも今後は?
白石 やりますよ(笑)。
──『ロストパラダイス・イン・トーキョー』はやや恋愛要素もありましたね。『日本で〜』も諸星の愛情がちゃんと描かれてますし、そういうところを中心にしたものも観てみたいです。ところで、映画の現場でのかけがえのない思い出はありますか。
白石 もちろんいろいろあります。印象に残っているのは、この間、ポレポレ東中野であった若松さんの80周年のイベントのことです。4月1日が誕生日で、今年生きていたら80歳だったんです。それを祝うイベントには、若松プロ出身の人がいっぱい集まり、足立正生監督や秋山道男さんなどの錚々たる方々が代表でトークしていました。そこで、若松プロにいて一番勉強になったのは泥棒できるようになったことだって言っていたことが強烈に印象に残っています。撮影に使いたいレコードとかをどこかから拝借してくるわけですよ。
──いやいやいや、それ、いいんでしょうか(困惑)。
白石 ははは。当時と今では時代も違いますから(笑)。新しい助監督が入ってきたらまず、「おまえ、泥棒くらいできなくて助監督になれないぞ」と言うわけです。ほかにも、脱ぐ女の子を新宿で探すとか、今じゃ考えられないことをやっているわけですよね。でも、そういうことこそが、先輩たちにとっては最高の、かけがえのない青春時代の思い出なんだと思うんですよ。それに比べたら、僕らのやっていることなんてかわいいもので。とはいえ、やっぱり今回の映画と似ている小さいエピソードの積み重ねがあるからこそ、僕は今、ここに立っているんですよね。諸星とは全然違う人生にもかかわらず、自分の人生を撮っているような気さえして。新しく、若松組に入った時、諸星と同じく、女の子がいっぱいいる飲み屋につれていってもらって「え〜映画の仕事してるんですか〜」と言われて嬉しい、みたいなことあったな、みたいな。
──そこではやはり、諸星のように「(映画界の)次のエース」と言われていたんですか?
白石 いや、ははは、エースじゃないですよ(笑)。
(木俣冬)


Kazuya Shiraishi
1974年生まれ。北海道出身。中村幻児監督主催の映画塾で学んだ後、若松孝二監督に師事。若松監督作『明日なき街角』『完全なる飼育 赤い殺意』『17歳の風景 少年は何を見たのか』のほか、行定勲監督、犬童一心監督作の助監督をつとめる。2010年『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画監督デビュー。長編第2作となる『凶悪』(13年)は、新藤兼人賞2013年金賞、第37回日本アカデミー賞優秀監督賞をはじめとしてその年の映画賞で28冠を獲得するほど注目された。今、最も期待の新鋭監督。

[作品紹介]
日本で一番悪い奴ら
原作 稲葉圭昭「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社文庫)
監督 白石和彌
脚本 池上純哉
出演 綾野剛 中村獅童 YOUNG DAIS 植野行雄(デニス) ピエール瀧 ほか

北海道警察本部の刑事となった諸星要一(綾野剛)は、犯人を挙げて点数を稼ぐため、裏社会に協力者・Sを作る。裏社会と通じたことで拳銃摘発の好成績を納めるようになった諸星だったが、次第にやり方がエスカレートし、「日本警察史上、最大の不祥事」へと突き進んでしまう。
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