ものすごく不謹慎な映画。でも楽しい。
『日本で一番悪い奴ら』は、実際に北海道警察で起った不祥事(稲葉事件)を元にした映画。柔道一直線だった若き刑事・諸星要一(綾野剛)は捜査のために裏社会と繋がることで、華々しい手柄を挙げていくが、同時に裏社会との関係も深く濃くなっていく。
「正義の味方、悪を断つ」という信念に基づいた行為が、傍から見たら悪行そのもの。覚せい剤や拳銃、金、権力、女にまみれていく諸星。激しい速度と熱を伴いながら犯罪に反転していく彼なりの正義を、不思議にまぶしく撮った監督は、同じく実際にあった事件をもとにした『凶悪』で注目された白石和彌。『凶悪』とはまた違ったタイプの、もうひとつのピカレスクが生まれた顛末を聞いた。


──すごく面白かったです、この映画は原作のまんまなんですか?
白石 ほぼほぼまんまですね。ただ、拳銃と覚せい剤を密輸するくだりを若干脚色したのと、女性関係に関してはほぼ想像で描きました。
──女性関係は想像ですか。映画の主人公・諸星は女性にモテていますが、モデルになった稲葉圭昭さんはどうなんですか?
白石 バツ2で、捕まった時には8人くらい彼女がいたそうです。
──実物もモテていたんですね!
白石 そのうちふたりが婦警、みたいな。
──婦警のエピソードは脚本に少し盛り込んであるわけですね。稲葉さんって面白いですね。彼のことを書いた本が読んでみたくなります。
白石 S(捜査における協力者、スパイ)の結婚式に出席するエピソードも実話で、そこにはヤクザもSも道警の関係者もそろっていて、みんなで撮ったポラロイド写真も残っているんですよ。そこに「結婚おめでとう。末永く幸せに。またよろしくね、チャカ」って書いてあるんです。おかしいですよね(笑)。
──不謹慎な(笑)。
白石 不謹慎な(笑)。
──警察とヤクザの交流の証拠を残す写真を写していいのか、と映画を見ながら思っていました。
白石 悪いことをしている感覚がないんですよ。
──そうなんですか。
白石 それが正しいと思ってやっていたわけですから。
──ああ、それがプレスシートの監督インタビューにあった「諸星は組織から逸脱してないですよね。組織が逸脱しているから〈悪い奴ら〉なんですよ」ということですか。
白石 そうですね。
──そこが響きました。正義の組織が悪いことをしていて、その組織のために働いている人間が悪いことを悪いと思わず行ってしまう皮肉を感じて。
白石 いやでも、何か特定の組織を糾弾し社会正義を謳うことを目的とした映画というよりは、組織に翻弄されながらも一生懸命生きたひとりの男を切り取ったというところですかね。今回、たまたま警察という組織を舞台にして、そこに属する稲葉さん(映画では諸星)という人を主役にしただけで、組織が変われば、また別の不正が行われています。稲葉さんは、ヤクザを取引相手にして覚せい剤や拳銃を商品として取り扱っている警察の中で、行き過ぎた取引をしたことで堕ちてしまった。でも、例えば、映画界だって、傍から見たら気が狂ったことをやっているわけですよ(笑)。
──善い悪いは置いといて、諸星たちがやっていることが面白いですよね。
白石 そう、悪いことしようが何しようが、人生って豊かなんだなと思いますよね(笑)。僕はこの映画を青春映画と思っています。最初は、そんなふうに意識していなかったのですが、撮りながら、その認識を強くしていきました。諸星がSたちや女性たち、ひとりひとりと出会って別れて、そういうことの繰り返しなんですよね。諸星と、Sや女性たちとの出会いを撮っている最中に泣けてきちゃって(笑)。
──へえ。
白石 あ、そうか、美しい映画を撮っているんだなって思って。
──別れではなく、出会いのシーンからもう泣いてしまう?
白石 たいてい、別れも同時に撮っていったので、出会いを撮っていると、ことの顛末がわかっているだけに、泣いてしまうんですよ。みんなで銃を撃って蟹を食って、というシーンなんてほんとうに泣けてくる。
──楽しそうですよね。確かに諸星はとんでもないことばかりしていますが、仲間に対しては最後までーー。
白石 純粋ですよ。銃を手に入れるためにアイデアを駆使しますが、その言動ひとつひとつが純粋だし、自分に嘘はついてないですよね。それがこの主人公の特殊なところですね。


──原作の稲葉さんもそのとおりの人なのですか?
白石 やっぱり自分に嘘はついてないですね。ある種の欲望をむき出しにしている人だなと思いました。
──ああ、欲望むき出しな感じがします。権力欲も、色欲も。純粋というところであれば女性に対してもとっかえひっかえして、一瞬、酷い奴か? と思ったら、そうでもなくて。
白石 優しいんですよ。
──捨てないですよね。だから、あり! って感じしました(笑)。
白石 ははは。
──女をやり捨てていたら、なしですけど。
白石 完全なクズですよね(笑)。
──ただ、女性はあくまで男の愛人みたいなポジションで、男たちのいい関係には入れないのが残念に思いました。いいなあ、男の人たちは楽しそう、と羨ましかったです。
白石 ふふふ。ギャング映画って往々にして楽しいんですよね。でも、日本では、ギャング映画がつくれないんですよ。ギャングがいないから。日本のギャングというと、ヤクザ。ヤクザ映画はまた別になるじゃないですか。この原作を見つけたときに、インモラルな話ですけど、こういうアプローチにすれば、刑事を中心にした日本ギャング映画ができると確信したんです。
──主役の綾野剛さんが魅力的で.彼はゴールデンタイムのテレビドラマ「コウノドリ」(15年)などではすごい善人をやっていますよね。清廉潔白な。それが映画で、こんなに、欲望丸出しでゲスな役をやる飛距離がすばらしいです。痰を吐いたり、ゲップしたりするところも面白かったです。
白石 ふつうは、そういうところをあまり見せないものだけれど、この映画に関してはどんどん見せていったほうがいいかと思って。
──監督のアイデアなんですね。
白石 痰を吐くのは僕ですかね、けっこう吐かせているんですよ。『凶悪』(13年)でもピエール瀧さんに吐かせました。若松(孝二)さんがよく痰を吐いてたんですよ、ゴールデン街などに行くと。
──そーなんですか(笑)。
白石 なんでここで吐くんだろう? というようなところで、いちいち吐いていましたね。
──なんでなんですかね?
白石 理由は聞いたことないですけど、痰がよく絡んでたんじゃないですか(笑)。でも、それがハードボイルドだったんですよ。


──痰とはハードボイルドの象徴なんですね。勉強になりました(笑)。
白石 僕はあんまり吐かないですけど。
──ゆくゆくは吐くようになるんですかね。
白石 ならないです(笑)。
──綾野さんがこれでもかと表情を崩していくのが良いです。覚せい剤をはじめて打つ時の顔とか。あれはどういうふうに作り込んでいったのですか。
白石 僕も綾野君も打ったらどうなるかわからないから、稲葉さんに話を聞いたり、そういうシーンのある映画をたくさん見たりして、想像を働かせました。ふたりで、どうする? と話し合った時、綾野君がちょっと時間差で利いてきたようにしたいと言ったんです。
──へー!
白石 僕もほんとに同じリアクションで「へー!」って(笑)。一回やってみて! 採用! って。
──さっき「豊かな」作品とおっしゃっていましたが、こういうことひとつとっても、普段やらないことをやってみることに意義を感じますね。
白石 そうですね。ある程度、映画に関わっていると、役者のアプローチの仕方も画一的になってしまいがちです。例えば、台本読みながら、家族で楽しく食卓を囲んだほうが、その後のお母さんの死が効くだろうなと逆算で考えたりすることもあるじゃないですか。でも、実際の人生では、明日、僕たちは死ぬかもしれない。だからといって、その前日、僕らはどうするかなんて考えないですよね。先のことはわからないから。だから、今回、僕と綾野君が決めたことは、そういう長い目で見たアプローチはいっさいしないで、その時その時を大切にすることでした。その場その場で起ることをふつうに楽しみ、何かが起った時は感情をむき出しにする。結果、それはすごく功を奏したような気がしています。
(木俣冬)


後編に続く


[作品紹介]
日本で一番悪い奴ら
原作 稲葉圭昭「恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白」(講談社文庫)
監督 白石和彌
脚本 池上純哉
出演 綾野剛 中村獅童 YOUNG DAIS 植野行雄(デニス) ピエール瀧 ほか

北海道警察本部の刑事となった諸星要一(綾野剛)は、犯人を挙げて点数を稼ぐため、裏社会に協力者・Sを作る。裏社会と通じたことで拳銃摘発の好成績を納めるようになった諸星だったが、次第にやり方がエスカレートし、「日本警察史上、最大の不祥事」へと突き進んでしまう。
全国公開中


Kazuya Shiraishi
1974年生まれ。北海道出身。中村幻児監督主催の映画塾で学んだ後、若松孝二監督に師事。若松監督作『明日なき街角』『完全なる飼育 赤い殺意』『17歳の風景 少年は何を見たのか』のほか、行定勲監督、犬童一心監督作の助監督をつとめる。2010年『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編映画監督デビュー。長編第2作となる『凶悪』(13年)は、新藤兼人賞2013年金賞、第37回日本アカデミー賞優秀監督賞をはじめとしてその年の映画賞で28冠を獲得するほど注目された。今、最も期待の新鋭監督。