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いつかは直面する親の介護問題。実の両親だけでなく、義理の両親の介護も必要となると、とても一人では背負いきれません。金銭の援助や身の回りの世話などを、兄弟間でうまく分担できないか。親の介護を放棄する義姉に悩んでいる方が、弁護士ドットコムの法律相談に質問を投稿しました。

質問者のA子さんのご主人は、三人兄弟の末っ子長男。義姉のB子(長女)は、介護に協力的ですが、義姉(次女)のC子が問題です。C子は専業主婦で、自由な時間は趣味のボランティアに費やす日々。体力・時間・金銭にゆとりがあるにもかかわらず「自分の生活を犠牲にしてまで金銭的援助や介助はしたくない」と言って、実の親にもかかわらず、介護に非協力的です。C子が参加しない分、A子さん、B子さんの負担が増えているのが現状です。

A子さんはというと、平日1日3時間パート勤務に加え、癌で寝たきりの実父の介護も手伝う日々。また、A子さんは「義理母は以前、私が病気で入院した際も手伝う事なく私を傷つけるような言葉を言うような人で、好意で介護するのも難しい」事情もあります。

「デイサービスやショートステイも利用していますが、C子の態度に納得いきません」と、不満が溜まっているA子さん。介護や身上の世話は、法的にどのように義務が分担されるのか、C子さんの非協力的な態度は、後々相続などに影響しないのか、須山幸一郎弁護士に話を聞きました。

  ●日本の法律には「介護義務」という義務は存在しない

まず、日本の法律には、日常生活の「介護義務」という義務は存在しません。ただ、子の親に対する義務として、民法877条に親族間の相互扶養義務の規定があります。

この扶養義務は、いわゆる「介護労働」(親を引き取って同居したり、食事や排泄、入浴の手伝いなどの日常生活の世話をすること)の義務ではなく、経済的な援助義務と考えられています。

この義務は、経済的に余力がなくても、義務者(扶養する側)と同程度の生活を被扶養者(扶養を受ける者)にさせることまでは求められていません。被扶養者が最低限度の生活を維持できない場合に、義務者(扶養する側)に経済的な余力があれば認められる「生活扶助義務」とされています。

したがって、子に経済的に余力があって、親が扶養を必要とする状態である場合には、親の生活費や介護費用の経済的負担をする義務が子に発生します。

日常生活の世話をする介護義務はありませんが、介護サービスを利用し、その費用を負担するといった義務が生じる可能性があるということです。 

 ●義理の母の扶養する義務は、夫と義理の姉2人が負っている

 この扶養義務は、同居しているか否かとは無関係です。ですから、今回のケースで、

A子さんの義理の母を扶養する義務を負うのは、A子さんの夫と、義理の姉2人(B子さん、C子さん)ということになります。

扶養義務者が複数いる場合に、誰が、どの程度扶養の負担をするかは、一次的には、当事者の協議で決めることになります。協議がまとまらない、または、協議をすることができないときには、家庭裁判所の調停か審判で決定します(民法878条、879条)。

なお、この扶養義務は、直系血族と兄弟姉妹が負うとされているので、特別な事情があるとして裁判所の審判がなされない限り、姻族は負いません(877条2項)。

したがって、A子さんは本来、義理の母について、介護義務はもちろん、扶養義務も原則として負っていないということになります。

もっとも、現に高齢者の介護を開始している場合、介護者は高齢者虐待防止法が規定する「養護者」としての義務を負います。介護をいきなり中止して放置することは違法であり、場合によっては犯罪にもなりますので注意が必要です。

一方で、高齢化社会の進行や景気の後退などにより、子が自己の生活を確保するのが精一杯で、親の面倒を見ることができないという社会的事象が存在していることも事実で、負担の押し付け合いになるなど、実際には解決が大変難しい問題といえます。

今後は、民法上の扶養義務の問題という視点だけでなく、社会保険制度や公的扶助等を含めた、より広範な見地からの検討が必要であると言われています。

 ●非協力的なC子の態度は、相続に影響するのか?

相続人の1人が被相続人の介護をしなかったという事情が、遺産分割をする際に、法律上当然に考慮されるということはありません。

遺産をどのように分割するかは、相続人同士の協議によって決めますので、協議がまとまれば、遺産分割の内容に反映することはもちろん可能です。

しかし、被相続人の介護をしなかった相続人(今回のケースではC子さん)について、C子さんの同意なく、当然に取得分を減らすということはできません。

その一方で、A子さんが義理の母の介護を献身的に行ったとしても、A子さん自身は義理の母の相続人ではありませんので、遺産を相続することはできません。

ただし、A子さんの介護が、民法904条の2第1項の「特別の寄与」に当たる程度のものであった場合、A子さんの夫は、配偶者であるA子さんの貢献を自分の貢献とみなし、自身の寄与分(貢献による相続の上乗せ)として主張できると考えられています。

もっとも、親族間の扶養義務を履行したという程度では、「特別の寄与」とは認められず、原則として寄与分の主張は認められないでしょう。



【取材協力弁護士】
須山 幸一郎(すやま・こういちろう)弁護士
2002年弁護士登録。兵庫県弁護士会。神戸家裁非常勤裁判官(家事調停官)。三宮の旧居留地に事務所を構え、主に一般市民の方を対象に、法律相談(離婚・男女問題、相続・遺言・遺産分割、借金問題・債務整理等)を行っている。
事務所名:かがやき法律事務所
事務所URL:http://www.kagayaki-law.jp/