知られざる女子日本代表〜Beautiful Woman(2)

「今日は優勝&日本新記録でした!! 悔し涙じゃなくって嬉し涙のレースができたのは何年ぶりだろうか...」

 自身のツイッターでそうつぶやいたのは、フィンスイミング日本代表の藤巻紗月(19歳)だ。

 5月4日、5日に行なわれた第28回フィンスイミング日本選手権で、藤巻はサーフィス(SF=水面を泳ぐ競技。シュノーケルを含む体の一部が水面から出ていなければならない)の50mを日本新記録で優勝し、100mでも3位入賞を果たした。また、アプニア(AP=無呼吸で水中を泳ぐ競技。顔は水面に必ずつけて競技しなければならない)の50mでも順位こそ3位にとどまったが、1位から3位までがいずれも日本新記録を上回るハイレベルなレースを繰り広げた。

 愛らしい笑顔が印象的な女子大生の藤巻だが、競技中はその表情が一変する。真剣な顔つきで胸を、太ももをこぶしでバシバシと叩いている姿は、まさに闘志むき出し。「心と身体にスイッチを入れているんです」と話す。

 芸人のオードリー春日や、じゅんいちダビッドソンが"ワールドカップマスターズ大会(35〜44歳)"の日本代表になったことでも知られるフィンスイミングは、フィンと呼ばれる足ひれを装着して泳ぐ水中競技だ。フィンの種類として、1枚のフィンに両足をそろえて装着するモノフィンと、2枚のフィンを左右それぞれの足に装着するビーフィンがある。

 藤巻はモノフィンの競技者で、見た目は、さながら人魚、イルカのように泳ぎ、スピードを競う。フィンスイミングは水中で最速の競技とされており、モノフィンのアプニアは競泳のクロールのおよそ1.5倍ものスピードに達する。

 もともと兄弟の影響で3歳から水泳を始めていた藤巻は、小学校6年生のときに参加したフィンスイミング体験会によって大きな転機を迎えた。

「フィンをつけて泳いだときの、スピード感、水中での水を切る音にアッという間に夢中になりました。水泳ではドルフィンキックを使うバタフライが好きだったので、このフィンスイミングという競技でトップを目指そうと思いました」

 フィンスイミングに転向してからわずか3カ月で、ジュニア(U13)の日本新記録(50mSF、100mSF)を樹立。その後はユース(U17)でも、その年代の日本新記録 (50mSF、50mAP、100m×4リレー)を叩き出す(その記録は未だに破られていない)。イルカが大好きで、ドルフィンキックが得意だった少女は、アッという間にフィンスイミングの世界でトップスイマーになった。

 ところが、2015年以降は切磋琢磨して力をつけてきたライバルの選手に勝てず、レースでは悔しい思いもたくさんしてきた。また、2015年7月の世界選手権を最後にそれまで指導を仰いでいたコーチが辞めたため、現在はチームメイトと練習をするなかで、自分自身で試行錯誤をしている。

 フィンスイミングの練習環境は決して良好とはいえない。フィンやシュノーケルなど道具を使い、高いスピードが出る競技であるがゆえに使用できるプールや時間帯が限られてしまう。藤巻のようなトップレベルの選手であっても例外ではない。

「今は1週間に4〜5日、1日に2時間ほど泳いでいます。本当はもっと泳ぎたい」

 プールで足りない練習時間を、ボルダリングやジムでのトレーニングなど他の運動をして身体を使うことで補っているという。5月の日本選手権は、そのような厳しい状況のなかでつかんだ好成績だけに、その喜びもひとしおだった。

「今年はやっと日本記録を奪還できました。自分が強くなっていることを実感できた大会になりました。2月に行った韓国遠征で泳ぎのフォームを変えたり、他の競技者と練習したり、自分でいろんなことを考え、試してきた成果だと思います」

 日本選手権の結果を受けて、藤巻はフィンスイミング世界選手権の50mSFと100×4SFリレーで日本代表メンバーに選出された。

 6月24日から27日にかけてギリシャのヴォロスで行なわれる世界選手権は、来年7月20日から11日間にわたってポーランドのヴロツワフで開催される第10回ワールドゲームズの最終選考会を兼ねている(ワールドゲームズは「第2のオリンピック」ともいわれる国際総合競技大会。国際ワールドゲームズ協会主催、国際オリンピック委員会後援で4年に一度、夏季オリンピック・パラリンピックの翌年に開催される)。

「今は少しでも速くて強い選手になるために練習しています。競技者としての目標は、自身が出場する世界選手権の種目50mSFとリレーで決勝に残ること、決勝では少しでも上位で入賞することです。そして、フィンスイミングを少しでもたくさんの人に知ってもらうことでフィンスイマーの環境を良くしたい」

 そう抱負を語る藤巻。フィンスイミングの認知度を上げ、その魅力を広めるためにも、世界選手権で歓喜の笑顔を見せて、ワールドゲームズ日本代表の座をつかみ取ってほしい。

たかはしじゅんいち●文 text by Takahashi Junichi