このたび私たちは、「ウートピ図書館」を開館することにいたしました。 ここは、皆様の寄贈により運営をおこなう私設図書館です。ウートピの主な読者層は、人生の分岐点に立つアラサーの女性。読者の皆様がもっと自由に、もっと 幸福に、人生を謳歌するための杖となるような本を収集すべく、ここに設立を宣言いたします。

失恋した時に支えてくれた本、仕事で失敗した時にスランプを乗り越えるヒントを与えてくれた本、そして今の自分の血となり肉となった本などなど。作 家、ライター、アーティスト、起業家、ビジネスパーソン……さまざまな分野で活躍されている方々の「最愛の一冊」を、人生を模索するウートピ読者のために エピソードと共に寄贈していただきます。
第5回は、セクシー女優の紗倉まな(さくら・まな)さんです。

『私の男』桜庭一樹(文藝春秋)

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〈たとえば、こんな方におすすめ〉
孤独感に押しつぶされそうな人

ミステリアスな親友Sが教えてくれた桜庭一樹という存在

『私の男 』-->-->-->-->-->を初めて手に取ったのは6年前、学生の頃でした。当時の私というのはまだ特に本を読むこともせず、その魅力に気づくこともないまま過ごしていました。ある人が、読書の習慣という素敵な存在に気づかせてくれたんです。それは私の親友の女の子でした。名前はSと、しておきます。

Sは大の読書好きでした。美人で聡明なだけでなく、読書が生活の一部と化すほど、常に本を読み耽っていました。休み時間も、ふとした時も。私は彼女の、どこかミステリアスで掴みにくく、それによって人からも冷たい性格だと誤解されやすい不器用さが、とても好きでした。あまり人と話さない私でしたが、Sと仲よくなるのにはそんなに時間はかかりませんでした。

ある日彼女が、あまり本を読まない私に持ってきてくれたのが、『私の男』を書いた桜庭一樹さんの『少女七竈と七人の可愛そうな大人』という作品でした。この本はとてもあなたらしい、だからぜひ読んでもらいたい。ほら、表紙もかわいいでしょ? そう言って、わざわざ持ってきてくれたのでした。とてもあなたらしいと思ったの、と彼女がつぶやいたとき、心が震える思いでした。私のことを、そんなふうに見てくれていたなんて。

友達に本をプレゼントされるのも、生まれて初めてでした。今まで本当にたくさんの本を読み込んできた彼女が、はじめて勧めてくれた本。参考書や挿絵の入った本以外の、ちゃんとした小説を開くのはかなり久々な出来事でした。

阻まれる運命にある娘の父親への愛情

そこから私は桜庭一樹という作家の虜になったんです。

私は音楽も、芸能人も、そして恋愛ももちろんそうですが、ひとりの人を好きになると、どのような思想でもって作品を生み出したのか、普段からどういう生活を送っているのか、知りたくてたまらなくて、その人のことを徹底的に調べてしまうんです。そして桜庭一樹さんにも、同じような感情を抱きました。この人のことをもっと知りたい。この人の愛情表現を、私の心にしみわたっていく一文一文にもっと触れたい。そこから作品をさかのぼり、桜庭さんの本をひとつずつ読んでいきました。

『私の男』には、そんなふうに桜庭一樹さんを調べていくうちに出会ったのでした。義父の淳悟と、幼い花との禁断の関係。男性は絶対に「母親」が好き、なのだと思います。それでは、女性はどうなのでしょう? 身体が成長していくにつれ、父親の匂いや行動に敏感に反応して、嫌悪感を抱いていく。それは“女になる”という心身の成長でもあり、本能的な自己防衛でもあるのだと、どこかで聞いたことがありました。だから私も、今までずっと気づかずに生活をしてきました。自分が父を、本当に愛していたのだということを。

娘にとっての「私の男」とは?

ここでの「私の男」というのは、いわゆる娘にとっての父親のことでもあり、初恋の相手でもあるのだと思います。恋愛は、血のつながっていない相手との間だけではなく、自分の血や肉を生み出してくれた親とも育まれるものかもしれません。私の男。義父と花との関係は、その一線を悠々と越え、だけれども複雑で繊細でとてもぎこちなく、絶対的に世界からは認めてもらえないような、禁忌の愛を紡いでいきます。常識という枠の中に閉じ込められそうになったふたりが、大きな罪を犯していくさまが心をしめつけて、私はもう、涙が止まらなくなりました。

誰しもに、何かとてつもない寂しさや孤独を抱える夜があると思います。言葉になるものや、ならないもの、さまざまものを胸にして。私も時々無性にとても苦しくなる夜があり、その苦しみに終止符を打つ間もなく朝が来て、そのどうしようもない気持ちをどこに追いやったらいいのかわからなくて、つらくなることがあります。そうした時、この本はお守りのように、いつも私の心に寄り添ってくれました。私の男。言語化できない愛情に悩んでいる時、「ひとりぼっち」に押しつぶされそうな時、ぜひ、皆様にも読んでいただきたいです。

(紗倉まな)