自民党HPより

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 いま、ネット上である"パロディ動画"が、じわじわと話題を集めている。自民党が6月16日にYouTubeにアップしたPR動画「安倍総裁メッセージ 若いみなさん一人ひとりがチャンスを活かせる社会へ」のパロディ版だ。

 パロディ動画といえば、昨年夏も、自民党がアップした安保法制PRアニメ「教えて!ヒゲの隊長」に対し、「【あかりちゃん】ヒゲの隊長に教えてあげてみた」なるパロディが登場。ヒゲの隊長に対する毒舌と的確なツッコミが「ヒゲを完全に論破している」と絶賛され、ついには元動画の再生回数を越えるなど、大きな話題を呼んだ。

 そして、今回も満を持して(?)パロディが登場したわけだが、安倍首相が美辞麗句を並べる"本家"に対して、パロディ版は安倍首相が絶対に口には出して言わない"心の本音"を文字にして打ち出すという趣向の動画になっている。

 まずは、本家の動画の説明からしよう。本家のほうは、さわやかなグリーンの背景の前に、油でも塗ったのか?と思えるほどのテカテカ顔の安倍首相が立ち、微笑みをたたえながらこう語り出す。

「安倍晋三です。若者のみなさん......などと政治家が呼びかけると、「若いというだけで一括りにしないでほしい」と思う方も多いと思います。私たち自民党が目指すのは若い世代の皆さんを一括りにせず、一人ひとりがそれぞれの人生でチャンスを活かせる社会です」

 改憲草案で《個人》をざっくり《人》に置き換えている自民党が、よく「一人ひとりがそれぞれの人生」などと言えたものだと呆れるが、しかし、パロディ版では、こうした安倍首相が語る背景に、太い明朝体で、こんな文字がドーンと躍る。

〈さあ、改憲だ。〉〈俺と祖父の悲願がかなう。〉

 にこやかに若者にすり寄る言葉を吐く動画に重ねられた、この露骨な言葉のコントラストには思わず笑ってしまう。だが、たしかに改憲はおじいちゃんの岸信介から引き継いだ悲願であることは隠しようもない事実で、安倍首相の胸中はこの言葉の通りだろう。

 さらに、安倍首相が「若いというだけで一括りにしないでほしいと......」と話す背後には、〈若い奴らは邪魔するな〉〈大人しくしていれば、悪いようにはしない。〉という文字が登場。「たとえば、無利子奨学金制度の充実はもちろん、給付型奨学金の創設に向けて、具体的に検討を進めています」と安倍首相が語る場面では、

〈先進国最悪レベルの奨学金制度を、多少見直すくらいは考えてやる。〉
〈ただし、条件がある。〉〈国が助けてやるのは、成績優秀者だけだ。〉

 と文字が重ねられていく。

 ......かなり直接的な言葉だが、これもまた、安倍首相の"本音"だろう。実際、自民党マニフェストでも給付型奨学金の財源については具体的に言及していないし、党首討論でも逃げ腰な説明しかできていない。選挙が終わったら手のひらを返して「財源が確保できないので先送り」と言い出す可能性はかなり高い。

 当然、パロディ動画は"経済的徴兵制"にも言及。安倍首相が「就職や雇用の安定と所得の向上にもしっかりと取り組みます」とスピーチする上に、〈国に貢献しろ。大事なのは、個人ではなく国家だ。〉〈それでもダメなら、自衛隊に入り海外で戦え。〉〈そうすれば奨学金返済の免除も考えてやらんでもない。〉と、心の声をぶつけるのだ。

 いよいよ動画も終盤を迎えると、安倍首相の背景が昨年夏の国会前デモの様子にチェンジ。「将来への不安をなくし、一人ひとりの可能性と活躍を支える。そうすることで日本全体の成長力を底上げしていく」と安倍首相が熱く語る一方で、〈ガマンしろ。権力に従え。〉〈俺もアメリカに尻尾をふり、うるさい経団連にも頭を下げ、〉と打ち出され、安倍首相の背景に櫻井よしこをはじめとする極右組織メンバーが映し出されると〈日本会議の仲間たちとやっとこの地位まで登りつめた。〉と文字が躍るのだ。

 ダメ押しは、安倍首相の締めの言葉であり、自民党の参院選キャッチーコピーである「この道を。力強く、前へ。」だ。パロディ動画では、このコピーの前半に〈行き先は言わないが、〉と足されている。そして最後に大きく出される安倍首相の本音の言葉は、〈争点は、改憲〉......。

 いやはや、まさにパロディ版に重ねられた言葉の数々こそ、安倍首相がめざす国づくりであり、彼の考える「美しい国」の真相だ。本来、政治家の本音を検証し伝えるのはメディアの役割だが、そうした機能が停止状態に陥っている現状を考えると、このパロディ動画は立派な風刺作品であり、伝える役割を担っていると言えるだろう。

 これはぜひ昨年の「あかりちゃん動画」のときと同様、多くの人に再生してもらいたい......と思わずにいられないが、じつは、このパロディ動画、現在YouTubeで視聴することができない。

 というのも、このパロディ動画、自民党の本家動画がアップされるや否や、「この道を。力強く、前へ。」というタイトルでYouTubeに登場したのだが、速攻で消されてしまったのだ。削除後の動画には、こう説明されている。《この動画は、自由民主党からの著作権侵害の申し立てがあったため削除されました》。

 つまり、自民党は目ざとくパロディ動画を見つけると、著作権を盾に削除要請を出し、パロディ動画を葬ってしまったのだ。さすがは安倍首相の「立法府の長」発言を議事録から消してしまっただけあり、なんでも削除できると思っているのだろう。

 だが、今回の動画はたんなるパクリなどとは違う社会風刺の表現作品であり、公共性も十分にある。さらに、批評や研究、報道などの目的での著作物の引用は著作権法でも認められている。にもかかわらず、自由な批評表現に対して公的な政党が血眼になって権利侵害を申し立てるとは、まさに言論弾圧だ。

 こうした自民党の圧力体質は根っからのものではあるが、しかし、パロディ版のほうもこんなことでは挫けなかった。YouTube上には「特定秘密ver.」なる新たな動画がアップされたのだ。

 この「特定秘密ver.」は、その名の通り、安倍首相が黒で塗りつぶされており、字幕スーパーも黒塗りに。冒頭の「安倍晋三です」という名前や「自民党」の部分にはピー音が被せられている。それはまるで、先の国会で明らかになったTPP交渉過程の黒塗り文書を彷彿とさせるもので、逆に自民党の圧力・隠蔽体質をいかんなく表現してしまっているのだ。

 しかも、22日19時30分現在での「特定秘密ver.」の視聴回数は9369回。一方、先にアップされている本家のほうは3323回で、パロディ版は約3倍も上回っている。

 昨年の「あかりちゃん」動画は、視聴回数の多さやネット上での盛り上がりからニュース番組でも取り上げられ、安保法制の問題を広めることに一役買った。今回もぜひ、この「特定秘密ver.」が、参院選における自民党の「改憲」争点隠し、そして言論弾圧体質を知らしめるきっかけになることを祈りたいものだ。
(大方 草)