自殺、心中多発……思春期の娘が発する微弱なSOSをスルーする母親の特徴4

写真拡大

■なぜ、思春期の女のコは友だちと心中するのか?

先月9日、東京都品川区の東急大井町線荏原町駅で、中学2年生の女子生徒2人が電車にはねられる事故が起きた。手をつないで線路に飛び降りる姿が目撃されており、カバンに遺書らしき手書きメモも残っていたことから、自殺と報じられている。

同様の事件は2年前にも起きている。大田区の小学校6年生の女子生徒2人が、揃ってマンションから飛び降り自殺をして、死亡したのだ。どうしたら、このような悲劇が防げるのか。背景には人間関係や中学受験への悩みがあったといわれるが、ここでは「心中」にまで至ってしまう思春期の女の子の友人関係について考えてみたい。

10歳を超えた頃から、子供にとって重要な他者は親から友達に変わる。それは親離れの第一歩で、成長だ。娘に何でも相談できる友達ができたなら、親としても喜ばしいことだ。しかし、仲が良すぎる場合は注意が必要である。

発達心理学が専門の法政大学文学部心理学科の教授・渡辺弥生さんは、次のように説明する。

「人は親密になろうとするときに、自分の内面を話す『自己開示』を行います。人には言えない悩みや不安を打ち明け、互いの秘密を共有することで親しくなっていくのです。しかし、思春期はただでさえ悩みや迷いが増える時期。盛んに自己開示することで、自分だけでなく、相手の課題も抱えやすいのです」

この頃の女の子は、とにかく友達と四六時中話をしている。休み時間も校庭でサッカーを楽しむ男子をよそに、女の子は教室に残っておしゃべり。それは学校にいる間だけでなく、帰宅後も、昔なら長電話、いまならLINEでやりとりが続く。

「行動を共有することが友達関係をつくるうえで大事な男の子と異なり、女の子は感情を共有しようとします。嬉しかったこと、悲しかったことを常に反芻し合う特徴が強くあります(共同反芻)。ひとりがひどく悩んでいたら、もうひとりも苦しみます。互いに苦しいことや悲しいことを何度も繰り返しながら、自分たちでは打開策を見つけられず、さらに誰にも相談できずに絶望してしまったら、どうでしょう。ひとりが生きることに疲れてしまう気持ちを持てば、もうひとりもそこに心理的に巻き込まれていってしまうこともあるのです。もともと思春期の女の子は、第2次性徴に伴う女性ホルモンの影響で気持ちが不安定になりやすく、極端な考えにも陥りやすいものです。親は子供だけでなく、お友達の様子の様子を含めて悩んでいないか、2人がいまどういう状態にあるのか気にかけてほしいものです」(渡辺さん)

■スマホしながら、テキトーに子供の話を聞く親

子供の友人関係に気をつけるといっても、実際はなかなか難しい。「○○ちゃんと最近、どういう話をしているの?」と聞いたとしても、まともに答えてもらえるわけはないだろう。自分の子供時代を思い出しても、そういう親の干渉がもっともイヤだった、という読者も多いはずだ。反発されて、考えていることが余計にわからなくなってしまうに違いない。

渡辺さんはポイントを次のように語る。

「大切なのは、普段の何気ない会話のなかで子供が気持ちを吐露した時に、親がきちんと聴いてあげることです。こう言うと当たり前すぎると思うかもしれませんが、これが意外とできていないのです」

きちんと聞くことができていない、とは、どういうことか。

渡辺さんは次のように例をあげる。

(1)子供から話しかけられた時、忙しくて片手間に聞き流す
(2)スマホから目を離さずに(子供のほうを見ないで)話を聞く
(3)「え、それって違うんじゃないの?」と子供の考えにすぐネガティブな判断を下す
(4)「そういうのは時間が解決するのよ」と悩みを軽んじる発言をする

親には悪気はない。だが、こういうどこか鈍感な対応を続けていると、親はわかってくれないと子供は心を閉ざしてしまう、と渡辺さんは話す。

いま「コミュ障(コミュニケーション障害)」などと言って、自分はうまく話すことができないと悩む人が増えているが、この原因も聞き手にあると先生は分析する。

「世の中に話をしっかり聞ける人が少なすぎるのです。どんなに話し方が拙くても、(途中で口をはさまず)しっかり聞いてくれる人がいたら、自分は話が下手だと悩む人は減ると思います。とくに、傷つきやすい思春期の子供の話は、よく聞いてあげることが大切です。親はまず、『そっか、それは気持ちがへこんじゃうね』と気持ちに寄り添ってあげましょう。共感してあげることができれば、『やっぱりお母さんは私のことをわかってくれる』と信頼を寄せてくれるでしょう。思い切ってもっと気持ちを伝えてくれることにもなります」

大切な親友が、深刻に悩んでいる。自分もどうしたらいいかわからない。こんな時、やっぱり頼りになるのは、親だ。

お母さんなら、お父さんなら、どうするだろう?

子供がそう思って相談できる存在でいられれば、心中や自殺は防げたかもしれないのだ。思春期は友達が大切な存在になる年頃とはいえ、親は最後の砦として、子供の一番の理解者でいなくてはならない。

■ダメ親の弱点が思春期の子供を救う!

現在発売中のプレジデントFamilyの夏号では、「いま子供の体と心があぶない!」と題して思春期の子供の特集を組んでいる。そのなかのムスメ編では、親世代と比べていまの子供たちの思春期がいかに大変で危険になっているかを紹介している。

その記事に出演している渡辺さんが「親として大切なこと」と繰り返し訴えたのが「ああ、その気持ち、わかるよ」と言える「共感力」だった。親が子供からまず求められているのは、必ずしも正しい判断力や決断力ではない。もちろん、それもとても大事だが、まずは共感力のほうが上なのだ。

ということは、もしかしたら、普段から失敗ばかりして「自分はダメな親だ」と感じている人にこそ、心がささくれている思春期の子供対策にうってつけな「人材」なのかもしれない。

例えば、母親や父親がこんなケースだ。

(1)自分(親)が忘れ物ばかりしているから、子供が忘れ物をしても頭ごなしに叱れない
(2)親自身もすぐに感情的になって上司にも盾突いてしまうたちなので、ささいな原因で友達とケンカしてしまった子供の気持ちもよくわかる
(3)自慢にはならないが、勉強はあまり得意ではなかったので、子供の成績がイマイチでも、怒らずに「そりゃあ、難しいよね」って思える

ふだんは、自他ともに認める「親失格」の状態であっても、そんな弱点が逆に、SOSを発している息子・娘たちに共感するための“武器”となるのかもしれない。

ただし、子供たちがどういう状況に置かれているのかは正しい理解が必要だ。わが子に共感するためにも、プレジデントFamily夏号をぜひご覧いただきたい。

----------

渡辺弥生
法政大学文学部心理学科教授。著書に『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗り越えるための発達心理学』『中1ギャップを乗り越える方法 わが子をいじめ・不登校から守る育て方』、他多数。

----------

(森下和海(プレジデントファミリー編集部)=文)